僕の宿毛高校物語エピソード5【光と陰】

今回は四代目キャプテンのお話。でも、少しだけ時間を巻き戻します。

光輝いた三代目チーム。中学校時代には各スポーツで高知県トップクラスの成績を残し、高校でのバレーボールでもその能力を遺憾無く発揮し、好成績を収めました。(※エピソード4参照)

その陰で四代目キャプテン、カイトはバレーボール部に入部してきます。彼はいわゆる不良というやつで、宿毛高校でも1番の不良になってやると息巻いて入学してきました。ところが、あのたったひとりのキャプテン、ツヨシ(エピソード3参照)の誘いでバレーボール部に入ることになったのです。

カイトは運動能力は高いのですが、バレーボールは決して上手いとはいえませんでした。当時は三代目チームの強化真っ只中。厳しい練習が続いていました。経験値の足りないカイトを含む1年生はあらゆる場面で怒られます。それでも、彼らは必死で練習について来ました。今思えば、僕も焦っていたのかもしれません。まだまだ未熟だった僕は光の陰に隠れていた彼らの本当の気持ちが見えていませんでした。

冬休みを前にしたある日の放課後、カイトが職員室を訪ねて来ます。ふたりきりの部屋で彼は静かに僕に言いました。

「先生、バレー部やめます」

突然の事で僕は驚きを隠せませんでした。

普通、部活をやめたいと言ってくるときは、「勉強しないといけない」とか最もらしい理由を言ってきます。

ところが彼ははっきり言います。

「遊びたいです。」

不良になりたいと入学してきた宿毛高校。
相当我慢して部活をしていたんでしょう。
長い時間、話をしましたが彼の意思は固く、変わることはありませんでした。

そして僕は彼に言いました。

「わかった。

ただ、冬休み明けにもう一度だけ答えを聞かせてくれ。」

「分かりました。」

そう言って彼は宿毛高校バレー部から去っていきました。

雲の上の町檮原での極寒合宿(※冬に合宿するところじゃない)など、過酷な練習を経て、
(※覚えていたらスピンオフで極寒合宿書きます(笑))冬休みは明けていきました。

カイトは約束通り、僕のもとに訪れました。
そして神妙な面持ちで静かに、ゆっくりと話をはじめます。

「先生、この冬休み、めちゃくちゃ楽しかったです。

いろんな友達とたくさん遊んで、こんなに楽しかった冬休みは今までありませんでした。」

そう言って彼は口を閉じ、しばらく沈黙が続きました。

僕は覚悟を決めて、彼の言葉を待ちます。

つぎに彼の口から出た言葉は、

「でも」

でも?

ここで僕は少し困惑します。この状況で「でも」に続く言葉って何?

そんな僕の困惑をよそに、カイトは続けます。

「でも、

何も残りませんでした。

楽しかった。

ただそれだけでした。

先生とバレーをしたら何か残せそうな気がするんです。

先生、僕にもう一度バレーをやらせてください。」

この時のことを話すと、今でも涙がでてきます。
くじけそうになったとき、投げ出しそうになったとき、この時のカイトの言葉がいつも僕を支えてくれています。

こうしてバレー部に戻ってきたカイトは、その後も三代目という光の陰で努力を続け、やがて四代目キャプテンになっていくのです。

が、今回はここまで。

次回、エピソード5 番外編【もうひとりのキャプテン】

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