見出し画像

2022年10月23日の乾杯

2022年10月23日の乾杯、秋が少しずつ深まる今日この頃、劇場では日々新しいお芝居が始まり、野外劇などもあって、まさに芸術の秋真っ盛り。そんななか、コロナ患者が再び増加傾向に転じたことが少々気になりつつも、おじさんとおねえさんが共に観た芝居や、ひとりの俳優のことや、野外でのお芝居のことなどを語り合います。

👨演劇のおじさんと
👩おねえさんです。よろしくお願いします。
👨よろしくお願いします。今日は良いお天気だったけれど、なんか予報だと明日は寒そうですね。
👩なんか全然安定しませんね、お天気や気温が。体調を崩しやすいから、みなさんも気をつけていただきたいですね。
👨ええ。まあ、それでもお芝居はしっかりと上演されていますからね。
👩そうですね。そんな中、私ははらぺこペンギンさんを観てきたんですよね。
👨おお、それは私も観ました。

赤坂レッドシアター


👩ご覧になりました?。おじさんが4人出てきて。
👨はいはい。
👩良いタイトルですよね、『OJISAN'S4』って。で、どうでした?
👨いや、はらぺこペンギンって、一時期コメディというよりは心に染み入るような舞台を作っていたじゃないですか。作・演出の白坂さんが悔い改めたというかそちらの方に傾いたというか。
👩なんかしっとり系というか。じわっと染みる良い話というか。
👨そうそう、で、下世話な方はぜーんぶクソ旦那の名義で作・演出している方に預けてね。
👩うふふふ。
👨それが、今回はもっと以前のはらぺこペンギンに戻ってきたような感じもしてね。ちゃんと昔の良い感じでの笑いもたくさんあったし。
👩うん、そうですね。
👨あの、懐かしいヒーローものみたいなところもあって、一部の世代が大好きな。
👩うん。肝心なところで笑えるけれど、そのあとにはぐっと残るという、いい作品でしたね。
👨年老いていくということ。花盛りの20代の若者が40代とか中年になって感じることが本当にうまく描かれていてね。
👩そうですね。いやぁ思うんだけれどさ、ツイッターとかで観たのですけれど、20周年ときいて、次も、これからもどんどん観たいなぁと思える舞台だったから、続いていって欲しいなぁって思って。あと、劇団の話とはちょっとずれてしまうのだけれど、あの、前園あかりさん。
👨あぁ、はい。
👩ツイッターを見たところによると彼女がこの舞台で最後っておっしゃっているので。いやぁなんか、前園あかりさんがはらぺこペンギンにご出演されていて凄く良かったから。
👨うん、もう最高のバッタ役でしたよね。
👩いやぁ、最高でしたね。いやぁほんとにあれだけ愛される俳優さんっていないのではないかなぁっていうくらい、みたことないぞっていうくらい。
👨彼女は私も昔から観ていて、
👩うん
👨あの、バナナ学園ってあったじゃないですか。
👩ああ、はいはい。存じ上げております。
👨あのころから拝見していた俳優さんなのでね。パワーもあるし、お芝居がほんとしっかりしている方で。
👩はいはい、そうですよね。しっかりと相手と会話して、その影響をしあってという風に根本がものすごくしっかりしているのに瞬発力もあるから。
👨うんうん。
👩女優さんであれだけ出来る人っていないと思うのですよね。
👨そう。
👩もちろん、小口ふみかさんも素晴らしかったんですけれど、めちゃめちゃ面白かったですけれど。ああいう場所にあの女優さんがいていただけるのっていいなぁって思っていたのですけれど。
👨小口ふみかさんは、先日の果報プロデュース『あゆみ』でも拝見していて。
👩ああそうだったのですか。
👨それから彼女は毎年一回開催される水下きよしさんが立ち上げられたBorobon企画の『ことば』にも出られていて、
👩へぇ。
👨彼女の俳優としての馬力を持った繊細さってちょっとほかにはお思いつかないので。
👩ああ、ほんとうにそうですね。繊細だけれど大胆というか。
👨そうそう。
👩でもさぁ、なんかなぁ。こうやってよかったと言って小口さんの舞台ってまた観ることができるじゃないですか。
👨ああ、はい。
👩前園さんの舞台を今後観ることが出来ないというのがやっぱりね。私彼女が好きで毎回観ていたんですよね。
👨うんうん、私もだけれど、彼女ってけっこうファンが多いですよね。
👩だから、こんな形でとは思って。その、もちろん、はらぺこペンギンさんはめちゃめちゃ面白かったし、その、楽しんでいらっしゃるのだろうなぁというのは観ていて勝手に想像しましたけれど。なんか、なんかねぇ、今の感じだと本当にもうやらないつもりなのかなぁって思いますし、ただその、やらないにしてもね、なんかこう私たちがどれだけ舞台上で観ていて、前園さんの演技だったりとかとか居かただったりとか、その魅力にどれだけ救われたり愛しているって思っているかっていうのを伝えないままこういう形でもう最後ですというのはあまりにもじゃないかなぁと思って。けっこうショックが大きくて。
👨でも最後がはらぺこペンギンだというのはなかなかね、もしそうだとすれば。
👩もうね、最後になってほしくないよ、私。主役の前園さんが観たいよ、やっぱり。
👨彼女の舞台っていろんな側面があったので、その中のはらぺこペンギンで終わりではなくて、もっといろんなね、
👩そうそう。はらぺこペンギンさんもめちゃくちゃよかったけれどね。
👨うん。そりゃ、前園さんご出演のはらぺこペンギンはついつい観てしまいますよ。
👩観てしまいますねぇ。
👨同一人物の作演でもPeach Boysはさすがに観疲れることもあるけれど、はらぺこペンギンは観疲れしないもの。
👩うふふ。でもねぇ、そうはいっても一回くらいは前園さんが本当に妥協なくやりたいことっていうことで、もっと我が儘を込めた舞台があってもよいのではないかと思ってしまって。
👨うんうん。
👩観たいぞって。
👨うん。まあいろんな劇団を渡り歩いて彼女は力を発揮している部分というのもありますからね。なんといってもバナナ学園の彼女は強烈だったけれど、世田谷シルクなどにいらっしゃった記憶もあるし。
👩うんうん。いや今日チョットね、なんか前園さんの舞台を観てツイッターで最後ですというのを観て気持ちがちょっとね、荒ぶるというのではないけれど。今日は前園さんを語る回になってしまうかもしれないと思うとね。
👨まあ、彼女は引き出しも凄く多かったし。
👩いや、過去形にしないでください。彼女は過去ではないです。
👨わ、わかりました。多いし。
👩そう、多かったではないです。多いしです。過去形は駄目です。絶対に。
👨はい。その、今の段階であれだけれど、でもなんだろ、戻ってきてもらえるのではないかなぁという期待はあるのね、やっぱり良い俳優というのは求められるからね。
👩いや、でもね、それで気持ちがどうかですよ。戻ってきてくれるではなくて戻そうという気持ちで観客はいないと駄目かと。
👨まあ、それはそうかもですね。
👩観る側が応援をしないのに、勝手に戻ってきてくれるというものではないような気がするんです。
👨いや、難しいんですよ。観客の立場としては無理強いも出来ないし、
👩うんうん、まあね。
👨その辺のね。やっぱりそこには観客と俳優の間の深くて暗い河があるんですよ。求めるのは求めるけれどね。
👩そう、求めなければ戻ってはこないですよ、絶対に。なんかなんとなく戻ってくるものではないから、もう。応援、それは深くて暗い河があるとは言うけれど、やっぱり舞台に出ている側というか出ていた側からすると、演者側から言うと、お客様の言葉がね、お客様のひとりひとりにしてみれば別に自分が言ったことで俳優が自分の人生を見直して舞台に戻ってくるようなことなどないだろうと思っているかもしれないですけれど、そんなことはなくて。ひとりの人が発信してくれた意見とか、よかったとかまた観たいとかが、ほんとこれは思うのですけれど、自分の小さな言葉なんて別に呟いたから何もないだろうって思うかもしれないですけれど、そんなことないんですよ。むしろ戻ってくるだろうと思って言葉にしない方が・・。それは言葉にしなければ伝わってないから、思っているのであれば是非とも呟いていただきたい。今ならツイッターとかも流布しているのだし。昔はBlogとかでなかなか見つける方もけっこう大変だったかもしれないですけれど、そのときだって調べているのだから。俳優は調べて見ていたのだから。感想はほんとうに俳優の、演者の、表現者の伝手なので、私一人ではとおもっても、なんの影響も無いかと思っても、ちゃんと出して欲しい。そんなことはないから、誰かひとりの言葉で舞台を続ける俳優もいるから。役者はそうやって続いていくから。なにもなければ戻ってこないかもしれないけれど、あれば戻ってくるかもしれない。ほんと言葉にしなければ伝わらない。ほんと、こんなに望んでいたのにってなってしまうから。
👨まあ今の時代ってその辺りは昔とは違って、観る側もいろんな所に感じたことを表現できるようにはなっているしね。
👩うんうん、そう。
👨実は意外なところでダイレクトに伝わったりするということを私も何度か経験しているので。
👩いや、全然ダイレクトに伝わる。むしろ伝わっていないふりをしてみんな見てるよ。
👨うふふ、なるほど。
👩あの、直接言葉にされたことだけが見てるよということではないから。やっぱりさ、全部見てますよっていうのも、なんかその、なんていうのかな、演者側としてブランディング的によくないことだったりもあるから。だから見ているけれど、心でありがとうございますって力を込めてやっているという。その、全体にむけてのお礼ということを込めて。その、エゴサしていないわけがないんですよ、普通は。
👨うふふ。
👩いや・・、していない人もいると思うよ。ほんとにしてない人も全然いると思う。でも、思った以上にエゴサーチをされているし、貴方の感想は見られているし、その感想は俳優達の力になっているということを知って欲しい。ほんとに、本当にこれはおじさんにも知って欲しい。そうなんですよ。
👨は、はい。
👩出さなければ駄目なんですよ。
👨うん。演劇の空間というのが演じる側と観る側の丁度中間に存在するようなイメージというのは確かにあるし、それが昔は観客の拍手だったりとか当日パンフレットと一緒に挟み込まれたアンケートを書いたりだったけれど、今はもうそういうだけの時代でもないからね。
👩そうですね。
👨たくさんの人がツイッターとかinstagramに感想を書いて、それがまた団体とか作家や演出家とか俳優・スタッフの次の力になっているのかなとも思うしね。
👩ほんとそう。
👨それは私も感じていることで。だからこうやっておじさんとおねえさんが話していることも伝わればいいなとも思うし。
👩ほんと、そうですね。その一言です。
👨前園さんについてはそういうことで、おじさんとおねえさんとしては、これからも彼女の復活を祈って推していきましょうね。
👩そうしましょう、そうしましょう。なんとかならないのかなと思いますもの。
👨まあ、私個人としてはまた拝見できる機会があるとは信じていますけれどね。
👩クラウドファンディングとかができないかなとか、めちゃくちゃ考えたりもしましたもの。
👨クラウドファンディングなどを利用して場を作ると言うことも必要なのかも知れないけれど、まずは彼女自身が舞台に立とうと思える環境を作ることも大事だろうしね。
👩大事ですよね。まずそこですよね。
👨それがないとね。今パワハラをはじめいろんなことがいろんな場所であらわにもなり騒がれてもいるけれど、それを一過性のものにせずそのことに真摯にむきあっていくということもね、それは作り手にとってはもちろんのこと、観る側にとっても大切なことだと思っております。
👩いや、ほんとそうですよ。うん
👨まあ、こういうハラスメントの問題については、観客としても他人事に置かず考えて行けたらと思います。その意識を持つことが初めの一歩だとも思うし。
👩うん。そうですね。
👨ところで話は変りますけれど、最近野外劇を立て続けに観ておりまして。
👩ほう。
👨ひとつは池袋の東京芸術劇場の前の広場というかGlobal Ring Theatreで『嵐が丘』を観まして。
👩へぇ、いいですね。
👨もうひとつはヌトミックという団体があるのですが、
👩ああ、はいはい。
👨そこが芝公園の集会広場で上演した『SUPERHUMAN 2022』という演目をみたのですけれど。野外でやる演劇ならではの力ってあってね。
👩うん、ありますね。全然違うパワーが。
👨『嵐が丘』なんてね、けっこう荒ぶるお芝居じゃないですか、ストーリー的にも。


池袋 GROBAL RING THEATRE


👩うんうん。
👨で、風が冷たい夕暮れに始まったのだけれど、いよいよ荒ぶる時にはポツポツと小雨までが降ってきましてね。
👩うふふふ。
👨一応小雨決行で天気予報も芳しくなかったら撥水機能のあるコートも着ていって、45Lのゴミ袋を膝掛け代わりにして。でもそうやってフードに雨が当たる音を聴きながら観ていると、むしろ演劇の趣は増してね。それでなkてもたとえば街のノイズが借景になっていたりとか、元々荒野に建つおうちの話だから、
👩ああ、そうですね。
👨ちょっと雑然とした街の風景が一層そういう荒み方に置き換わって伝わってきたりとか。まあ、75分で語る『嵐が丘』なので、多分同じことを劇場で観たら舞台が観る側にストーリーを渡していくような感じになるのかなぁとも思って。でも、野外で観ることで、それとはまた違った印象の引出しが引かれていくような感じがするのね。
👩うんうん。
👨『嵐が丘』自体はすごく昔になんか映画でみたような記憶もあって、
👩白黒映画かなにかですか?
👨いやぁ。詳細はよく覚えていないのだけれど、ストーリーはなんとなく頭に残っていて。でも、物語を知っているというのと場面毎をその実感に受け取るというのはちょっと違うじゃないですか。
👩うん、そうですね。
👨なんかそういうのがあって、野外劇も凄いなぁって思って。
👩うんうん。
👨で、俳優も身体をダイナミックに使えるモモンガ・コンプレックスのダンサーの方とか、空間の広さに負けないお芝居ができる手練れのアマヤドリや青年団の俳優とか、全体の空気に質量を与える力を持った片桐はいりさんなどもご出演でね。
👩へぇ、そうなんですか。ふんふん。
👨いわゆる良く切れる俳優達が多数ご出演なのですよ。逆にそうでないとあの空間は支えきれないだろうとも思うのね。
👩うふふ。それはそうかも。
👨場面によっては舞台への登場やフォーメーションを作るときにも俳優は全力疾走をしているしね。でもそのパワーがそのまま物語の深さへと転じたりもするのよ。また、それができる身体や表現の力がないと小野寺修二さんの演出もちゃんと生きないだろうし。
👩うんうん。
👨あと、もうひとつの『SUPERHUMAN 2022』は東京タワーがどんとそそり立つように見える芝公園の一角での上演だったのだけれど、入場して舞台となるであろう地面を観ると石が2個置かれていて、それぞれの周りに箒ではいた円形の跡があって。ほら、京都に龍安寺ってあるじゃないですか。


都立芝公園集会広場(23号地)


👩ああ、龍安寺、ありますね。
👨あそこの石庭を連想したりもして。で、なにが始まるのかなぁって思ったら。最初は普通にご挨拶みたいなこともあるのですけれど、東京タワーと客席の間に公園が広がっていて、その木々の間から俳優が登場したりもして。言ってしまえばもう客席からの視界を全部使うのですよ。
👩うふ、凄い。
👨で、夜空には瞬く星も見えたし、東京タワーの存在感はもうたいしたものだし、でもその中で日常の下世話な風景も表現していくのだけれど、一方で人類の歴史や世界の広がりについても表現していくのね。
👩うん。
👨そうすると、自分がどこにいて、というかこの時空館の中での自分の今のある場所が、今どこにいるのかみたいな感覚が伝わってくるし、思索に導かれたりもするのですよ。
👩うんうん。
👨それは、劇場の中でどんな照明を使っても、どんな音響を使っても、得ることができないというか描き得ない部分を持っていて、そこに揺蕩うような感覚にも浸される。
👩はい。
👨で、観終わったときに不思議な充足感があって、また自分がここにいることをかんがえてしまうようなパフォーマンスだった。
👩なるほど。
👨それはやっぱり、ヌトミックというか額田大志さんの構想するちからも凄いのだけれど、冒頭の原田つむぎさんにはじまって、深澤しほさんにしても、東郷清丸さんにしても、長沼航さんにしても、Aokidさんの圧倒的な身体にしても、彼らが世界の広がりを観る側の視野いっぱいに表現することも、あるいは縄跳びの遊び心のなかに描き出すことも、この時空感とそのなかで生きていこうとする力に思える時間だった。
👩うんうん。
👨まあ、野外劇だから常に良いと言うことではないのかもしれないけれど、野外劇で表現できることはあるなぁとたんと感じてもいて。
👩うん。あるとおもう。まあ、それだけやっている方ももの凄いパワーがいることだとは思うし、
👨まあ、大変だとは思うけれど。ほら、これまでは、野外で雨に打たれたり風に吹かれたりというのが余り好きではなかったから。これまでも、あちらこちらのフェスティバル的なものなんかで野外劇とか上演されているじゃないですか。
👩ああ、はい。
👨そういうのってあまり観にいかなかったけれど、なんかすごく損をしていたのではないかという気分になって。
👩うん。
👨まあ、今年はもう寒くなってくるから控えようとはおもうけれど、来シーズンからは年に1~2度は野外劇みたいな。
👩うふふふ。いや、でも良いかもね。お祭り的にパワーをもらえるから。
👨うんうん。それとこの照明じゃなければとかこの音響でなければというのと同じ価値観でこれを表現するためにはこの野外じゃないかというものもあるような気がするんだよね。
👩そうですね。
👨まあ、どちらのロケーションもとても良くて。ヌトミックさんなんて、よくあれだけ東京タワーや夜の森が際立つ場所を探し出してきたなぁとも思ったし。もしかしてロケハン的なこともけっこうしたのではと想像もしたり。
👩うふふふ。
👨そんな経験もしている今日この頃ですが。ところでおねえさんは最近舞台などをご覧になりましたか?
👩いやぁ、観ていないですね。
👨そうか。じゃあ私の話が続いてしまうけれど、今度は逆に凄くぎゅっとした舞台の話なのですけれど、新宿雑遊でPost Tenebras Lux.『見かえしたかっただけ』という舞台を観まして。二人の作・演出による作品の交互上演するユニットなのですけれど、その片方を。拝見した方はAntikame?という団体の主宰でもある吉田康一さんの手になる作品なのですけれど、えーと、Antikame?はご存じですか?


新宿 Space雑遊


👩存じ上げないです。
👨Antikame?って、というか吉田康一さんてとても瑞々しさを忘れない、でも骨格がしっかりとした繊細なお芝居を作られる方で。今回も、コロナの中で夫婦がふたりともリモートワークになって、ずっと家に閉じ込められているその二人が次第に煮詰まって、それぞれが崩れていく時間を描いているのだけれど、
👩うん。
👨それが、会話劇というよりは、むしろ二人がそれぞれの想いを交互にモノローグで表現して重ねあわせていくような構成なのね。
👩うんうん。
👨そのなかに、私たちが2年とか3年の間過ごしてきた時間をとても巧みに描いていて。
👩はい。
👨最初に女性が舞台にたくさんの服をばらまいて、それを片付けていく場面から始まるのだけれど、その一着ずつがコロナの前の時間を纏っていて。その記憶が解けてそのあとかたづけられていくという寓意に気がついて、描かれる時間の重さもそこを起点に伝わってきて。
👩うん。
👨でも、コロナの中で、その先に新しい時間ってなかなか生まれなかったじゃないですか。なんか、壮大な野外劇を観た話のあとにこういう話をするのもなんなのですけれど。
👩うふふ、いやいや。
👨なんというか、コロナの日々を描くのってけっこう難しくて、偏るし、滞りがあるし、率直なひとりずつの気持ちって割合と描きやすそうで描きにくいのかなとも思うんだよね。
👩うーん。
👨でも、この舞台では、観る側が登場人物たちの次第に瓦解し、それでも動くことができずそのままに留まる気持ちについて素直に腑に落ちたから。それは多分文字に落としても理解できるものではないとも感じたから。だから、抗えなく心に残って、ああ、辛いけれど良いお芝居だなぁと思った。私が足を運んだのが公演二日目で、雑遊の客席が半分の観客だったからそれはちょっと寂しかったのだけれど。
👩ああ、それは寂しいですね。
👨だけど、お芝居としては極上だった。
👩ああ。うーん、そういうのがあるからやめられないというかね。
👨そうそう。あとね、もう一本おはなしするとすれば、『高円寺が踊る』という舞台を観てきました。


座・高円寺1


👩へぇ、それは高円寺で上演されたのですか。
👨うん、座・高円寺でね。杉並区が事業の一環として作った舞台で、あの、高円寺の阿波踊りってあるじゃないですか。
👩はいはい、ありますね。
👨あれをテーマにしたお芝居を作って,公募した希望者に見せるという地域振興の試みをやったんですよ。
👩なるほど。
👨出演者も一部公募みたいだったみたいですけれど。それで、マチルダアパルトマンの池亀三太さんが作・演出をされて、松本みゆきさんとか樋口双葉さんとかも加わって、座・高円寺・1を使って。昭和32年から今に至るまでの高円寺阿波踊りの歴史を一つの家族を中心に描いていくのだけれど。
👩うん。
👨そこは手練れの池亀さんでシーンというか時代ごとの物語の見せ方がとても上手で、高円寺の阿波踊りの黎明期から盛り上がって今に至るまでもほんとよく理解できて。しかも、最後にはなんとか連という阿波踊りのグループが日替わり出演されて、生の阿波踊りも観ることが出来るのですけれどね。
👩うん。
👨近くで観るとあれって凄いのね。
👩うふふふ。
👨あの、サンバの生は浅草でも観たし、ニューヨークのパレードでも観たことがあるんですよ。でも。阿波踊りのライブは初めてで、それはもう、サンバに勝るとも劣らない迫力があって。おんな踊りは下駄でつま先立って踊っていくのだけれど、ただ歩むだけではなくて細かいステップを刻んでいくのね。で、それが本当に粋で綺麗なんですよ。おとこ踊りの足さばきと身体のバランスにも惹かれるし、お囃子も同じテンポではなく見事な緩急があって、素人が観てもそこに高揚感があるの。まあコロナ前は10万人も集まる大イベントだったみたいだけれど、3年ほど中止になり、今年は座・高円寺での開催だったみたいで。
👩うん。
👨でもね、来年もし以前の阿波踊りが復活したら私はきっと観に行きますよ。
👩おおっ。それはもう凄い混雑とは聞いておりますが。
👨まあ、そうなのだけれどね。でも、お祭りならばそれも魅力かなと。いわば踊り版の野外劇じゃないですか。まあ、ある程度混雑のリスクはあっても,様々な連の踊りってみたいですよね。さすがに徳島までだと遠いけれど、高円寺だったらなんとかなるのではないかと思って、
👩うんうん。
👨きっとまだコロナ完全収束ではないだろうから、気は進まないかもだけれど、そこはおねえさんもお誘いして。
👩うふふ。はい。
👨なんていうか、それは落語にしても歌舞伎にしてもそうなのだけれど、昔からのものの迫力っていうのはやっぱりあるから。
👩ああ、そうですね。
👨まあ、冒頭に杉並区長のご挨拶があったりもした公演でしたが、舞台としてきっと杉並区のもくろみどおりというかそれだけの効果はあって。なんか、来年の楽しみがまたひとつ増えました。
👩うふ。
👨ところでおねえさんは、映画とかはご覧になりましたか?
👩映画はねぇ、『”それ”がいる森』という作品を観ましたけれど。なかなかこれはねぇ、ここではコメントを控えさせて頂きます。
👨ええ、なんで?
👩うーん。というかここではコメントを控えさせていただきます。
👨いや、実は私もあの映画は観たのですけれどね。ブラジルという劇団を主宰しているブラジリー・アン・山田さんが脚本に絡んでいるじゃないですか。 
👩あぁ、そうです。でも控えさせて頂きます、という感じで。
👨私もその映画は観たのですけれど、ああ、彼の作品だなぁという感じはなんとなくしたのね。ブラジルのお芝居って大好きでけっこう観てもいたから。加えて私は松本穂香さん、あの、先生をやっていた女優の方はちょっとした私の推しなので。
👩うふふ。
👨あと、小劇場でよく拝見していた綾乃彩さんもご出演だったので。なんか最近は、たとえば鵺的の高木登さんがNHKでやっている「キングダム」という三國志のアニメにかかわっていたり。
👩へぇ。
👨昔小劇場で作品をたんと作っていらっしゃった方がそういうところにどんどん進出していらして。そのあたりの楽しさもあってね。
👩うんうん。
👨そういう意味で言うと、私は来年の朝ドラが1年を通してすごく楽しみなのですよ。春は長田育恵さんが書かれるし。彼女はてがみ座の主宰で彼女が書いた舞台もたくさん観ているし、秋は秋で私がオーストラマコンドの舞台で何度か拝見したことのある趣里さんが笠置シズ子さんをやられるみたいだし。
👩うん。
👨お二人の作風とか芸風ってわたしは大好きなので。しかも、今までは小劇場で拝見した俳優の方って一部を任されたりとか脇役でご出演だったりが多かったのだけれど。今回はメインをがっつり支えられるわけで。まあ、元々がそれだけ才溢れる俳優なのだけれど、舞台の一期一会とは違う彼女の魅力を半年楽しめるかと思うとけっこうわくわくしてね。それと、俳優の方って、作家の方もだけれど、こうやってチャンスに恵まれて、実績を積んで更に大きくなっていくのねっておもったりもして。きっと舞台でももっといろんな役をされることになるのだろうし。
👩そうですね。なんか大きくなって欲しいから、話は戻るけれど、いろんな、自分の事情だけでなくてやめなければいけないという状況は、悲しいなぁと思います。今日はそんなところですかねぇ。
👨わかりました、そうですね。
👩いやね、いろんな気持ちがあるのでね。
👨私も彼女に戻ってきて欲しいという気持ちが一緒なので。いつかまた彼女の舞台を観たあとで、ああ、あのときあんなことを話していたと笑えるようになれば良いですよね。
👩そうですね。
👨そう思います。それにしても、まあ、もう11月ですものね。来月も引き続いて良きお芝居がたくさんあって。11月の頭には文学座が『欲望という名の電車』を上演するという話があって。私はそれを観に行きます。『欲望という電車』を観るのって初めてなのですよ。
👩それは、ご覧になられたら是非にお話をお聞きしたいです。
👨あと、ムニという団体があってね、『ことばにない』という舞台を観に行くんですけれど、予約したあとで今回は前編で来年に後編を計画していますというご連絡を頂いて。で、その前編は4時間の上演時間が予定されているのね。
👩まあまあ、まずは観ないとなんともいえないなぁ。
👨私は、覚悟を決めて、アゴラの椅子に4時間縛り付けられていようと思っていますが。でも、ムニの舞台であればまるっと観ることができるような気もする。楽しみ。
👩うふふ。頑張ってください。腰が大変そうだけれど頑張ってください。
👨ええ。頑張ります。さて、今夜はこのくらいにしましょうかね。今後もよさげな舞台はたくさんありますので、それは次にお話出来ればと思いますので。
👩はい。
👨そんなところで、演繹のおじさんと
👩おねえさんでした。
👨また、次回をお楽しみに。


赤坂レッドシアター

(ご参考)
・はらぺこペンギン『『OJISAN'S 4』
2022年10月9日~23日@赤坂レッドシアター
作・演出:白坂英晃
出演:三原一太、川本喬介、村田康二
白坂英晃(以上はらぺこペンギン!)
小口ふみか、新田えみ、前園あかり(Ammo)
宮下真実、薬師寺尚子(あサルとピストル)、与古田千晃
井田雄太(ハダカハレンチ)、熊坂貢児(smokers)、熊野善啓
波多野和俊、山本佳希、平川大輔

・野外劇『嵐が丘』
2022年10月17日~26日
@GLOBAL RING THEATRE〈池袋西口公園野外劇場〉
作:エミリー・ブロンテ  演出:小野寺修二
出演:王下貴司、久保佳絵、斉藤 悠、
崎山莉奈、菅波琴音、竹内 蓮、
丹野武蔵、鄭 亜美、辻田 暁、
富岡晃一郎、中村早香、西山斗真、
塙 睦美、宮下今日子、片桐はいり

・ヌトミック『SUPERHUMAN 2022』
2022年10月21日~23日
@都立芝公園 集会広場(23号地)
構成・演出・音楽:額田大志
出演:額田大志、Aokid、東郷清丸
長沼航、原田つむぎ、深澤しほ

・Post Tenebras Lux.『見かえしたかっただけ』
10月18日~26日@Space雑遊
(原田ゆう 『あいまいなしっそう』との日替わり交互上演)
脚本・演出:吉田康一
出演:日野あかり、高橋壮志

・『高円寺が踊る』(杉並区区制施行90周年記念事業)
2022年10月13日~26日@座・高円寺1
脚本・演出:池亀三太(マチルダアパルトマン)
出演:あらおえみり、伊藤嘉信、井山育子、
おがた淳信、小幡悦子、狩野祐人、
日下諭(K'S倶楽部)、小池舞(オフィス・イヴ)、小久音(マチルダアパルトマン)、
佐久間通子、佐々木慶、島本雄二、
髙橋紗綾、田中悠貴、手塚真梨子、中坂弥樹(夢工房)、
中島多朗、樋口双葉(マチルダアパルトマン)、福田留花、
松本みゆき(マチルダアパルトマン)、本橋正敏、やすみきよこ、
山本裕子、優貴(ヘリンボーン)、米田萌

(今後の舞台)
・文学座『欲望という名の電車』
2022年10月29日~11月6日@紀伊國屋サザンシアター
(他劇場での上演あり)
脚本:テネシー・ウイリアムズ
演出:高橋正徳
出演: 山本郁子、鍛治直人、助川嘉隆、
渋谷はるか、中川雅子、大滝寛、
沢田冬樹、千田美智子、柴田美波、
西村知泰、磯田美絵、小林勝也

・ムニ『ことばにない』
2022年11月3日~13日@こまばアゴラ劇場
作・演出:宮崎玲奈
出演:石川朝日、浦田すみれ、黒澤多生(青年団)、
田島冴香(FUKAIPRODUCE羽衣)。豊島晴香、
南風盛もえ(青年団)、藤家矢麻刀、古川路(TeXi’s)、
巻島みのり、ワタナベミノリ、和田華子(青年団)

よろしければサポートをお願いいたします。いただいたサポートは我々の会話をより多岐に豊かにするために使用いたします。よろしくお願いいたします。