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2023年7月11日の乾杯

新しい乾杯、7月に入り暑さも本番、そんな中、ふたりがそれぞれに観た海外戯曲をやってみる会『この雨やむとき』やおじさんが観た文学座『夏の夜の夢』、同じ釜のむじな『罪の三乗』など、暑さを忘れて見入ってしまった演劇達のおはなしを。

👱演劇のおじさんと

👩おねえさんです。こんにちは。

👱こんにちは。いやぁ暑いですね。

👩もう暑くて大変です。

👱なんか、外に出るのがいやになってしまいますよね。

👩私には外みたいなものなんですよね。ここにはエアコンがないから。

👱あぁ。

👩えらいことで。

👱えらいことですよね。

👩えらいことです。

👱今年は夏が厳しいみたいだから早急に対策を考えた方が良いですよ。

👩うふふふ。まあね。

👱ところで、お芝居は暑さにも負けず一層数が増えてきて。なんか翻訳物というか、偶然かもしれないけれど海外の戯曲を観にいくことがここのところ多くて。

👩そうなのですね。

👱先日も2本続けて翻訳劇を見たのですけれどね。

👩ほうほう、なにをご覧になったのですか?

👱ひとつは、「海外戯曲をやってみる会」という団体がありまして、前々からあちこちで小規模なリーディングなど俳優の方達が集まって自主的にいろんなことをされていて気になっていたのですが、今回新宿雑遊で『この雨あがれば』という作品を上演されまして。こちらはおねえさんもご覧になりましたよね。

👩はい、おじさんからこんな公演があるぞって教えて頂いて観てきました。

👱あともうひとつは文学座が紀伊國屋サザンシアターで上演した『夏の夜の夢』です。

👩文学座ですか!はいはい。

👱まあ、シェークスピアあたりになると、もう翻訳劇と括って良いのかどうか分からないみたいな感覚はあるけれど。

👩うんうん。

新宿・雑遊

👱まず、海外戯曲をやってみる会の方から話をすると、あれは本当によく出来た話でしたよね。

👩ほんとに、とっても面白かった。なんだろうなぁ、やっぱりその、感覚の違いもあるし、海外戯曲ってやられないじゃない。まあまあお互い様かもしれないけれど、あんまりさ。古典はあるけれど、そうではない古典ではないものって、たまに呼ばれて、たとえば芸劇の前でやっていた羊とかさ、有名なやつだと。でも、小劇場キャパでやる日本の若手だったり小劇場中心の役者さんがやるものってほぼなかったように思うの。知らないだけかなぁ。あんまり見ない。でも、なんかね、どれくらい海外戯曲をやってみる会の演出が本場、作った方がどういう演出をしていたか、イメージしていたかはわからないのだけれど、感覚的には、私、博物展とか展覧会とか企画展とかを観に行くのがすきなのだけれど、そういうのを観に行ったような。その、現代芸術とかのちょっと趣向をこらしたじゃないけれどね、なんかこういうものを見たときの感覚と、あと、なんだろ、ちょっと懐かしさみたいなものも感じて、凄い良かったですね。うん、面白かった。もっとやって欲しいと思ったし、正直ね、お客様の数が少ないなと思ったから、もっと観て欲しいとおもったし。あれって、配信とかやっていないのかなぁ。

👱いやぁ、権利の関係とかがあるだろうから、多分出来ないと思う。

👩あぁ、出来ないのか。もったいないね。なんか、配信もクローズドでやったらだいじょうぶなんじゃないの?販売というか配信チケットにすればよかったんじゃないかなぁ。

👱うーん、多分ね、そうすると、権利というか契約がまた変わってくるんですよ、きっと。

👩ああ、そうなんだ。

👱クローズでというか、劇場の中でやるのと、配信というかあれも販売したりすれば完全にオープンではないのだけれど、より不特定多数の人が観ることができるようになるから、権利の種類が変わって使用料が高くなるのではないかと思うんだよね。

👩ああ、なるほどね。大変だね。でも、だとすれば、もっと観て欲しかったな。私が観た回はあんまり多くなかったんだよね。

👱おねえさんが観た回は確か追加公演だったしね。実は、私は何回か観たのですけれど。あまりにおもしろかったから。で、千穐楽の回はほぼほぼ満員でしたね。

👩ああ、そうなんだ。私は大楽の前の日に行ったのだけれど、明日チケットがまだあるのでっておっしゃっていたから、ええあんなに面白いのにまだ空いているのっておもっちゃった。

👱あの舞台は、けっこういろんな人が呟いていたから、よかったって。楽日には当日券に並んだ人もいたみたいだし。

👩ああ、そうなんだ。それはいいね。そうか、そうか。

👱それで、翻訳劇ってけっこうお値段が高いやつが多いんですよ。パルコ劇場で9000円とかね。

👩うふふ、まあそうだね。

👱ええ、10000円とかいうのもあって。たとえば4000円だと割安感もあったりしたのだけれど、今回は5000円まで行かなかったし、U30割引とか、リピーターの割引とかも設定されていたから。

👩うん、そうですね。

👱ましてや、最近は「小劇場値段が上がった」問題というのもあって。

👩そうねぇ、まあしょうがないのだけれどね。

👱まあ、しょうがないのだけれど、4000円台だとそんなに高い感じがしなくなってしまったじゃないですか。

👩うん。

👱実際のところ、知り合いの観劇おじさんたちの間でも、厳選してというか実質本数を減らしてなんとかみたいな話を普通にしているので。

👩はい。

👱彼らも食べて行けなくなってしまうのでね・

👩うん。

👱そう考えると、今回の海外戯曲をやってみる会は一般前売りも4500円と良心的だったし、

👩うんうん、確かに。

👱で、あの舞台は、やっぱり戯曲自体が本当に面白かったよね。

👩そうですね。あの、なんだろうな、海外戯曲ってやっぱり馴染みのない文化だったりもあるから、まあ、日本に住んでいる人が日本のものを観る感覚とはまたちょっと違うとはおもうのだけれど、それを日本の人がやるからという落し込みはもう済んでいるというのももちろんあると思うし、戯曲の主軸が人の営みとして繋がっている、おじいちゃんとか親世代とか、だれかの家族と誰かの家族が本人だけではなくつながるというのがさ、誰でも分かる。共感できるところが多いというか、どこかしらにはあるだろう、全部ではなくても。そこに私たちでは馴染みがないというか、どういう感覚なのかなぁと思える、考える楽しみもあったし、お話自体も面白かったし、うん。そう、おしゃれだった。

👱うふ。

👩そう、おしゃれだったの。

👱あれさ、照明が富山貴之さんなんですよ。

👩ああ、存じ上げております。あの、当日観に行って、あら、あらあらと思って。すごくよかった。いいですよね。

👱彼はマームとジプシーとか青年団の照明をやられたこともあるのですけれど、彼は照明で言葉や、場や、物語を語れる人だから。

👩うん、富山さんの照明は私も凄く好き。やっぱり見るじゃないですか、舞台を見に行った時に、俳優だけではなくて、当日パンフレットを開いてでスタッフさんなども見るのよね、で、この方なんだぁとか思ったりとかするのだけれど、今回の照明さんが富山さんだったから、おお、そうなのって正直おもっちゃったものね。ワクワクするなぁっておもってしまったものね。

👱あの、闇の中で際立つみたいなシーンがあって、その、富山さんの照明に浮かぶ男女の美しさね。

👩うんうん、そうね。あと人物の影の出し方みたいなものがすごくすき。いやぁ素敵だななぁって思って。本当に、それこそアニメなんかの表現というか、惹き込まれ方が。美しかったなぁ。顔の、照明があたる俳優の方の顔、半分だけあかりが当たったりする。反対側がほんとに闇。その闇の中から少しだけ顔を覗かせてしゃべったりするみたいな。いやぁ、かっこよかった。

👱でね、私はさっきも行ったように何度か観に行ったのですけれど、実は、嵌まってね。で、場所を変えて観たりもしたのですよ。

👩うんうん。

👱そうすると上手側と下手側で、とくに要所で照明がそういう照明だから、風景もやっぱり違って見えるのね。

👩はい。

👱あと、今回は雑遊の使い方がいつもとは違って、横長というか舞台を横に広く取ったじゃない。

👩うん、横でしたね。

👱だから、下手側とか上手側に座るとその分だけ演者との距離が生まれたり視座が変わるし、加えて照明の照らし方があるから風景がかなり違って見えて。

👩ふーん。

👱初めて見て物語の構造を知って、さらにそれを舞台に対しての別の視角からみると、さらに面白い。

👩ふーん。

👱特に女性、ふたりの人物をそれぞれに時間を隔ててふたりずつの女優で演じていたじゃないですか。

👩そうですね。

👱上手と下手で観ると言うことはそれを時間の前と後ろのどちら側から観るかみたいなことにもなって。

👩ああ、確かにそうか、そうなるか。

👱うん。ひとりの女性を演じるふたりが、テーブルを挟んで同じようにワインをのんでいるシーンがあるのだけれど、上手と下手では見える表情が違うんですよ。

👩うんうん。

👱そのどちらを見るかという話でね。そのあたりはほんとによく仕掛けられていて。おぉって思いましたけれどね、あれを観ていて。

👩うふふふ。

👱最後にその、トランクに詰められていた物がテーブルを挟んだ父から子、次の世代に渡されていくシーンがあるのだけれど、そこもやっぱり見え方が違っていて。

👩うん。そうしたら、私は良い場所で観たかもしれないな。丁度中央辺りで観ることができたから、どちらも観れたし。

👱そう、真ん中で観ることができると両方の表情を観ることができるからそれは素晴らしいんですよ。ただ片方を正面に、片方を背中からみる素晴らしさというものもあって。だからあの舞台は3回観るべきなんですよ、本来は。

👩そんなに・・、そんなにはなかなか観られないよ。

👱うふふふ。まあね。

👩うん。

👱あとさ、歳がバレてしまうけれど、私、学生の頃に暫くロンドンにいたことがあって、ミレニアムにはまさ少し間がある20世紀の話ですけれどね。最初に出てくる彼のようなちょっと歪んだタイプの人も見かけたりしていたんですよ。街の公衆トイレにはいったら、トイレの男性用の便器で自分を慰めているおっさんとかがいてびっくりもしたから。

👩へぇ。まあ、そういう感じの描写もあったからね。

👱だから、ある意味、リアルなのですよ、あれって。

👩そうなの、それは全然ピンとこない。

👱で、イギリスでは今でも彼のような人物が起こす事件って問題になっているみたいだし。

👩いやぁ、でも内容的にね、家族と、なんて言ったら良いのだろうか、うーん、難しいね。この戯曲って読めないのかなぁ。

👱戯曲はねぇ、もちろん英文のものは出版されているし、あと、今回翻訳した森田あやさんのものとは違うのだけれど、別の方が翻訳したものが買えるみたい。

👩ああ、売っているんだ。観て欲しいものなぁ。翻訳もおもしろいだろうなぁ。台本で読んでも。

👱確かにたとえば台本やリーディングでは伝わってこない物もあるかもしれないけれど、それでも面白いとは思うよね。

👩うん、というか、ちょっと話がずれてしまうかもしれないけれど、けっこうね、なんだろ、息が詰まるというのはあるじゃない。息が詰まるなぁとは思ったのよ。だけど、なんていうのかなぁ、あの、あれよ、山森さん。

👱はいはい。

👩山森さんのお芝居がねぇ、山森さんはJoeという役なんだけれど、Joeを観ていて胸がぎゅっとなって、苦しいってなったんだけれど、合間にうっとなるような、「俺、24歳」みたいな台詞がさぁ、

👱親指を立てて「イェーイ」みたいなね。

👩ああいうのがさ、後で効いてくるというか、息がずっとつけないと観るのがしんどくなっちゃうから、だからすごく救われたなとも思ったし、そのあと締まっているシーンがあるし、だからこそもっと、よりよかったというか、その、若い頃の軽さみたいなものが全体としての生きることとして作ってもらっているというのがめちゃくちゃ良かった。集中力が更に増すというか、一回息をつけるから、もう一度集中して観ることができるというか。バランスがとても素敵だなぁ、上手だなぁと思って。

👱私もね、山森さんが最後に叫ぶシーンがあったじゃない。

👩ああ、ありましたね。

👱あの時に、自分でも訳が分からずに涙がどどどっと来ちゃったのだけれど。

👩いやぁ、切ないもの、だって。

👱あと松本みゆきさんが割合と奔放な感じの女性を演じるじゃない。

👩うんうん、そうですね。

👱で、それを、田中里衣さんが松本さんが演じる時間の彼女に対して呼びかけるシーンがあるじゃない。それは田中さんが自らの記憶へと語りかけるように演じられていくのだけれど、そこにしっかりと時間の重さがあるのね。で、彼女の夫を演じる山森信太郎さんが、あの時、事故にあった若い頃の彼女を助けなければよかったみたいなことを言うじゃない。

👩うん。

👱あと、父親のことを隠す母と知りたがる息子、大沼百合子さんと三宅勝が演じるのだけれど、その母親には斉藤麻衣子さんが演じる彼女の若い頃と向き合い記憶を繰っていくようなシーンがあるじゃない。斉藤麻衣子さんと相良隆仁さんが演じる夫婦の姿はそのまま母親の記憶にもなっている。

👩はい。

👱そういう風にどのシーンにも時間の重みみたいなものが裏打ちされていて、特に私みたいにいい歳になると、というか若い人があの舞台をみるのと歳を取ってから観るのとでは見え方が違うようにも思うのね、

👩うんうん。

👱そういう意味では、今若い人が観たあの戯曲、舞台に十年後とか二十年かに再演があってその人が再び観たときには、見え方というか心に映るものの変化を押すとうに感じるのだろうなぁとか想像したりもしてね。

👩うん。

👱また、逆にそういうことを想像させる力のあるお芝居だとも思った。あとさ、初日あたりに観た舞台と楽辺りでは、後半の方が同じ女性を演じるふたりの俳優達の繋がりの現れ方みたいなものが明らかに研がれているようにも思えて。まあ、どちらにも良さがあるのだけれど、お芝居というのはこうして歩んでいくのだなぁとか思ったり。

👩はい。

👱同じ公演のなかでも一回ずつが生きているお芝居でもあって、一期一会感の強いお芝居にも思えて。それは演出として森田あやさんが、日々研いでもいったのではとも思ったし。なにか、諸々を考えていくと、改めてとてもよいお芝居に巡り会ったなという感じはしているのね。そういう意味では、なにか空席が目立った回もあったみたいだけれど、あれはもったいなかったね。

👩いやぁ、もったいないよ、もったいない。

👱お化けがでちゃうほどもったいないよね。上演時間の130分くらいも全然長く感じなかったし。

👩うん。

👱観るたびに新たに、良いものをみたなって思えましたけれど。

👩うん、ほんとうに。とても良いものを観た。

👱それで記憶に残る芝居だよね。

👩そうですね。

👱構造はそれなりに複雑だけれど、当パンを開演までにしっかりと読んでいれば、迷いっぱなしということもないし、最後にジグゾーパズルのピースがすぼっと嵌るような感じもあるし。

👩うふふふ。

👱最初と最後の井上考太郎さんの台詞が世界をくるんでくれることで物語も深く印象に刻まれて。また、山森さんのキャラクターだけが実は血が繋がっていないのだなぁとも思って、それが物語を膨らませていたようにも感じたし。なんかいろんなことを観るたびに感じました。

👩ふふ。

👱さてと、話は変わるけれど、最初に話したように海外戯曲をやってみる会の公演期間に重なるように文学座が『夏の夜の夢』を上演されていて、それもすごく良かった。

新宿 紀伊國屋サザンシアター

👩ふーん。

👱『夏の夜の夢』はこれまでにも何度も観ていて。

👩はいはい。

👱この作品はいろんな団体や演出家の方でやられているじゃないですか。

👩そうですね。

👱なんというか、定番商品じゃないですか。

👩あはは、そうですね。

👱でも、そういう中でも、今まで観た中で一番よかったかもしれない。

👩へぇ。何がちがったのですか?

👱なによりもまず、色々におしゃれ。後ろにパーカッションがふたりいて、生のリズムで舞台の呼吸を作っていくし、美術もとても綺麗。具象ではなく抽象的な美術なのだけれど、ワックスアートなども利用した映像が使われていて、また木々の絵が投影されてそれが森の印象にもなり、あやかしに満ちたように動いて、舞台全体に妖精達と人間の交わる世界が体感として伝わってきてとてもよかったし舞台に切れも感じてね。で、なにより文学座のベテランの俳優たちって地力が凄いし、若手の俳優達も鍛えられているよね。

👩それはそう。それはそうよ。やっぱりね、古典とかシェークスピアとかをやらせたらそれはもう面白いよね。あの、硬いとかいう人もいるとは思うのだけれど、とはいえ、文学座には若い演出家もどんどん入っていくし、一時好きでたくさん観ていたのだけれど、若手のね、それこそチャレンジングな滅茶苦茶もあってそれが面白かったし、そういう人達が上に進んでいって新しい人達が入ってくると、それはまたアップデートされていくだろうなぁと思う。

👱おっしゃるとおりで、アップデートされていってるんだと思う。私、前から拝見している平体まひろさんという大好きな俳優がいらっしゃるのですけれど、彼女が今回ハーミアをやっていてね。それがもう滅茶苦茶ビビッドなの。

👩ふんふん。

👱これまでふたりの男に慕われていたハーミアが嫌われるシーンでは、男にすがろうとして、女子プロレスみたいにジャイアントスイングで2回転ほど回されていましたからね。

👩うふふ。

👱そういう突き抜けの切っ先もあるし。まあ、平体さんに限らず森をさまよう二組の若者たちにはしっかりと役を背負った際立ちがあってね。ライサンダー役の池田麟太朗さんにしても、ディミートリアス役の奥田一平さんにしても、単に若者ということではなく、それぞれの思慮や若い想いがしっかりと伝わってくるの。ヘレナを演じた渡邊真砂珠さんにも平体さんとは違った想いの深さがあって、4人のシーンががっつりと舞台の見せ所になっていた。

👩はいはい。

👱パックを含めて妖精の世界を女王の吉野実紗さん以外はベテランの男優陣が背負っていて、まあ味わい深いこと。あとさ、あの最後に茶番劇というか職人芝居があるじゃない。けっこうあそこをおざなりにする舞台もあるのだけれど、今回はきっちり作られていていて、なんというか、初めてあのシーンの意味がわかったような気がする。

👩あははは・

👱客席の通路もけっこう花道みたいに使われていて、劇場全体を巻き込むような感じも上手いなぁと思ったし。また、パックをベテランの中村彰男さんが演じると最後の決め口上が見事にきまるのよ。そうやって最初から最後までがしっかりと血がかよっている感じがしてね、これはなかなか他の『真夏の夜の夢』にはない感覚だなとも思って。あるところに、ここはこういう解釈にしますみたいなアイデアを差し込んだり、あるいはそれこそお客様をがっつり持っている若い人気俳優をパックなり若い4人の中で使ったりみたいな舞台は割と観たことがあるのだけれど、今回はそういうのではなく、文学座が全体をすべからく高いクオリティで作り上げているように思えて。

👩へぇ。

👱ただ、あの公演も、少なくとも私が観た回は満席というわけではなくて、端の方がそれなりに空いていたり、中央にもぽつりぽつりと空席があったりして、あれはもったいないなぁと思いましたね。

👩そうなんだ。良い舞台があってもなかなか埋まらないね。

👱そうなんだよね。でも、原因のひとつは高いんですよ。

👩うん、それはそう。高い。で、贅沢になってきているんだよ。

👱そう。

👩で、みんなお金がないんだよ。もうみんな、マジで。ある人はあるよ、もちろん。ただ世の中的には、いろんなものが値上がりしてさ、でも給料はそのままでみたいな。そんな中ではお芝居も前みたいに気軽にはいけないし。うん、いけない。

👱だから、舞台に対しての公的な補助とかがもっとあるべきなんだよね。

👩そうね、あるべきだと思う。

👱いわゆる文化だからね。それがないから作り手の身を削るような努力に頼ってしまったりしているわけじゃないですか。でも、本来はやっぱり違うと思うのね。少なくともごく一部の人以外は採算を取るのにひーひー言っているわけじゃない、どこも。

👩そうですね。

👱そういう条件下だと何かを生み出すときの創造力もなんか欠けていくような気もするし。

👩うん、だってさ、かかるお金が増えるから、そうせざるを得ないじゃない。上がっているわけで。まあ、わからないよ、みんながみんなそうではないかもしれないけれど、いろんなものを上げざるを得なくて、ということは、増えてくる金額を払わざるをえないわけじゃない、現実的な話をすればさ。それはやっぱりきついよなぁ。そうするとお客様がなかなか来なくなってさ、人数が減ればそれだけ厳しいしさ。そういう感じで舞台を見てもらえないとどんどん小さくなっていくわけじゃない。いやぁ、ねぇ。

👱そう、あれなんだよね、小さい規模っていうと語弊があるのかもしれないけれど、小さなところでやる団体はキャパいっぱいに入っていたりもするんだよね。

👩うん。

👱そういえば、「おなじ釜のムジナ」という団体があって、新宿眼科画廊Oで『罪の三乗』というお芝居を観たのですけれど、こちらは満席だった。牡丹茶房主宰の烏丸棗さんがふたりの女優とユニットを組んでの公演だったのですけれど。要はプロダクションが所属の3人の女性の謝罪会見をするっていう設定の話でね。

👩ほう。

新宿眼科画廊

👱一人は料理研究家で出版したレシピ本の表記が間違っていて、塩8gというところを8Kgとして出版してしまったことへの謝罪、ひとりはアイドルでYoutubeの番組へのゲスト出演で不適切発言をしてそのアカウントを凍結させてしまったことへの謝罪、もうひとりは女優で妻子ある男性との不倫に関する謝罪だったのだけれど。

👩ふんふん。

👱そもそもがプロダクションの炎上商法の匂いぷんぷんで、しかも記者会見をやっているうちにそれぞれの罪が深くなっていくっていう構造なのよ。50分くらいの舞台なのだけど、もうめっちゃ面白くて。

👩うーん、観ていないからいまひとつピントこないな、それは。

👱公演が終わっているので、ネタばれにはなるのだけれど、不倫は、実は防衛事務次官の娘への結婚詐欺ということになり、アイドルの活動は恐喝ではということになって。また、マネージャが弁護士を諦めての転職で法律に詳しくて、それぞれの刑を具体的に話すというのも上手い工夫だと思う。料理研究家は特殊詐欺で捕まった犯人の妻であることがわかり恐喝より重い罪を背負っていることがばれ、更に女優の相手は結婚詐欺どころか国際スパイで彼のもらした情報は死刑必至の罪であることがわかってみたいな。終わり方もしっかり突き抜けていて良い感じにドタバタで。これまでの烏丸棗さんの作品は様々に研がれたホラーで、それもしっかりと作り込まれていて観終わった後ざわざわもするし心が凍っているみたいな作品だったのだけれど、その筆の切っ先がコメディへと踵を返すと、それはそれでこんな風に観る側をぐいぐいと巻き込む作品が生まれるのだと感心した。まあ、作品がなんだったのかといわれるとドタバタコメディが一番近いのだけれど、眼科画廊のスペースOってキャパが20くらいしかなくて、そういう空間にも拘わらず作品の熱量がけっこう半端なくて、終わりは恐怖にまで歩み出していてほんと閉じ込められた。めちゃくちゃ面白かったです。

👩へぇ。

👱まあ、海外戯曲も素敵だしまた観たいけれど、それだけが演劇ではないし、こういうのもいいなぁって思ったりして。

👩えぇ、うふふ。

👱たとえば日頃文学座などをご覧になっていらっしゃる方にこれを見せたら戸惑ったりお怒りになったりすることもあるかもしれないけれど。なんというか、観るのに全く違う筋肉を使って面白かったです。

👩なるほど。たまにそういうものを観たくなる時ってありますからね。

👱あの、やっぱり私の血は関西に染まっていて。吉本新喜劇を観て育った世代だしね。たまに、ああいうものを観ないと禁断症状が起きるのね。くだらないという感じがあったりもするのだけれど、それをちゃんと褒め言葉として語れる力が作品にはあって、ほんとに満たされた。

👩うふふ。

👱おねえさんは海外戯曲をやってみる会以外に、最近なにかご覧になりましたか?

👩いや、舞台は観ることができていないですね。『RRR』は観ましたけれど。

👱『RRR』ってなんだっけ。

👩映画です。最高に面白かったです。

👱あぁ、そうだ。評判になっていましたね。

👩でも、この話は別の時にしましょう。長くなるから。

👱ああ、語りだしたらきりがないのね。

👩きりがない。めちゃめちゃ面白かった。あの、有料にはなるかもしれないけれど、サブスクでも観ること出来るようになると思うので、おじさんも是非観てください。

👱そのうち、Amazon Primeにも降りてくるのではないかなぁとは思っているのだけれど。

👩うふふ。3時間あるけれど、是非観てください。

👱えぇ、尺がそんなに長いの?

👩大丈夫です。一瞬です。

👱わ、わかりました。

👩今日はこんなところですかね。

👱じゃあ、これからのお勧めを少し。モミジノハナという団体が「コラボノハナ 一貫性ガン無視ガール』というお芝居をやります。3本立ての短篇集みたいなのだけれど、主宰の野花紅葉さんが一人芝居、福永マリカさんとの二人芝居・南京豆なめなめとコラボしての多人数芝居に全部ご出演との趣向みたいで。これがリリースされるころにはもう始まっているのかな。すごく面白そうな匂いがする。

👩うんうん。

👱あと、眼科画廊の公演が続くのですけれど、「AURYN」という団体があるじゃないですか。

👩ああ、はいはい。存じ上げております。

👱あそこも「すてらぷらんにんぐ」とコラボして短篇集をやります。『雪月風花小篇集』。

👩へぇ、短篇集も流行っているのですか?

👱どうなのだろうね。AURYNは何度か観たことがあるのだけれど、今回新宿眼科画廊の空間でどのような風合のうまれるのか興味があって。

👩なるほど。

👱あともうひとつ、チャミチャムという波多野伶奈さんの一人ユニットがあるのですよ・前回は北千住の日の出団地スタジオという小さなスペースで「かるがも団地」の方と作品を作っていたのだけれどそれがとても面白くて。で、今回は祖師谷大蔵の「カフェムリウイ」で公演をされるみたいで。これもお勧めです。今回は脚本・演出が「いいへんじ」の中嶋梓織さんで、前回とはまた違った雰囲気の作品になるのかなぁとも思って。この3つの公演はどれも7月中の公演ではあるのですけれどね。

👩じゃあすぐだ。

👱それぞれにお席が少なめの公演なので、これがリリースされるころには売り切れてしまっているかもしれないけれど、その場合はごめんなさいということで。

👩お早めにですね。

👱はい。ということで、皆様これからが夏本番ということで暑い日が続きますが、水分をしっかりと取ってお過ごしください。

👩そうですね。

👱それでは演劇のおじさんと

👩おねえさんでした。

👱また、次回。

新宿高島屋 別館渡り廊下

 

(ご参考)

 ・海外戯曲をやってみる会『この雨やむとき』
2023年6月29日~7月9日@雑遊
脚本:アンドリュー・ボヴェル
翻訳・演出 森田あや(らまのだ)
出演:井上幸太郎、大沼百合子、斉藤麻衣子、
相樂孝仁(殿様ランチ)、田中里衣、
松本みゆき(マチルダアパルトマン)、三宅勝、
山森信太郎(髭亀鶴)

 ・文学座『夏の夜の夢』
2023年6月29日~7月9日
@紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA
脚本:W.シェイクスピア
翻訳:小田島雄志
演出:鵜山仁
出演:石川武、中村彰男、大原康裕、今村俊一
横山祥二、石橋徹郎、清水圭吾、
吉野実紗、池田倫太朗、奥田一平、
小谷俊輔、平体まひろ、渡邊真砂珠

 ・同じ釜のムジナ『罪の三乗』
2023年7月1日~4日@新宿眼科画廊
脚本・演出:烏丸棗
出演:池島はる香、久保瑠衣香(W.FOXX)、
加藤睦望(やみ・あがりシアター)、小森かな(こがたの巨人)、
水島創太、岡田健(TEAMOpcebo)

 ・『RRR』
監督:S・S・ラージャマウリ
製作:D・V・V・ダナイヤ
原案:V・ビジャエーンドラ・プラサード
2022年製作 179分 インド映画 rate:R

 (今後のお勧め)

・モミジノハナ『一貫性ガン無視ガール』
2023年7月15日~2023年7月18日@新宿眼科画廊
―「南京豆ノハナ…」X南京豆NAMENAMW
原案・脚色:野花紅葉(モミジノハナ)
脚本・演出:脚本・演出:河村慎也(南京豆NAMENAME)
出演:河村慎也 北本あや 佐藤友美 丸橋ぱちこ
(以上、南京豆NAMENAME)
野花紅葉(モミジノハナ)
―「ポーラノハナ」… Xポーラは嘘をついた
脚本・演出:リリセ(ポーラは嘘をついた
出演:野花紅葉(モミジノハナ)
―「マリカノハナ」…X福永マリカ
脚本・演出:野花紅葉(モミジノハナ)
出演:福永マリカ 野花紅葉(モミジノハナ)
 
・すてらぷらんにんぐ X AURYN『雪月風花小品集』
2023年7月21日~25日@新宿眼科画廊
脚本・演出:窪寺奈々瀬
出演:杏奈(カラスミカ企画 / poco)、おしばい演太(birdh93)
片腹年彦(guizillen)、加納遥陽、小島望(劇団肋骨蜜柑同好会)
魁ウェンズデー、星秀美(すてらぷらんにんぐ)、見米克之

 ・チャミチャウ『憶えているのは言葉じゃなくて』
2023年7月27日~30日@カフェムリウイ「屋上劇場」
脚本:中島梓織、波多野伶奈
演出:中島梓織
出演:波多野伶奈

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