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ニュースで話題の裁判追いかけたらみんなに裁判所へ行ってもらいたいと思った話(航空法違反、威力業務妨害など) 傍聴小景 #29-⑦

当記事は、以下の傍聴記事の続きの傍聴記となりますので、内容のご理解のためにまずお読みいただけると幸いです。

長文で大変ですが、ほら一連の流れは今日でひと段落つくし、最後だと思って。…ほんとに最後なのか?

↓暴力を受けたとされるCAさんの証人尋問

↓その他のCAさんや航空会社の関係者の証人尋問

↓被告人質問(弁護側)、被告人の奥さん、父親の証人尋問

↓被告人質問(弁護側)

↓被告人質問(検察側)

↓論告・最終弁論・最終陳述

2022年12月14日大阪地方裁判所にて、私が長らく追いかけていたこの一連の事件の判決が宣告されました。皆さんもすでに多くの報道をご覧になられたと思います。
私もネット記事などたくさん読みましたけど、どうお感じになりました?

中立の立場を保たなきゃいかん方々が「魔女狩り」の見出しの多いこと多いこと。中身見たら、実際あったことを綺麗に書いてるんですけど、そのタイトルで十分に読者の気持ちを誘導しちゃってるだろうにと。

でもメディアの方がそうならざるを得ないよなと思うのが、とにかく判決宣告が早口だった。2時間予定のところが45分で終わったからね。初めて裁判を見た人にとっては、裁判ってこんなものなのって思っちゃうのではと不安になるようなものでした。

裁判を見慣れている僕にとっても聞き取るの大変でしたし、閉廷後法廷を出る新聞記者さん2人組の後ろを歩いてたら、

A「えっ、結局、〇〇については認められなかったってこと?」
B「あっごめん、俺、判決主文以外あんま聞いてなかったわ」

という具合でした。とりあえず、Bは俺と記者席を交換しような。


そんな感じの早口だったので、判決の詳細部分は、きっとそのうち何かの形で公開される判決文から考察するとしましょう。

なので私は、多少自分の主観なども含めますが、過去を振り返りつつ要点をまとめたいと思います。メディアが中立の立場で被告人不利な感じで報道してるので、こちらは私の意見を含むのを前提である程度中立性を保てるよう努力したいと思います。

そんな訳で今回もお手数ですが以下の点をご留意の上、お読みいただけると幸いです。

お読みいただくにあたって
・【ここ非常に大事】
今回は判決宣告の回です。今回だけで意見を固めるのでなく、過去の回など総合的に考慮してください。
・某有名事件を取り扱いますが、今までを踏襲し名前は出さず「被告人」と表現します
・今回は特に再現性が低いことをご了承ください。


第12回公判概要

日 程:12月14日 10:00~10:45
罪 名:威力業務妨害
    傷害
    航空法違反
    公務執行妨害
    器物損壊
被告人:30代男性
傍聴席:70人くらい(裁判官入廷時)

前回の求刑や最終弁論がなされた後、相当に報道されていたことや、私ともう1社さんがこの日の前日に関連記事を掲載したこと、そして被告人が懲りずに.........弛まぬ努力でSNSで発信をしたこともあり、久々の傍聴券配布のための抽選告知がなされました。

抽選券配布は9時15分から9時半。初回の傍聴券配布は大阪地裁本館前の本来の使いみちがよくわからない広々とした広場でしたが、今回は別館前のやや人が込み入る場所。今でも本館前を抽選券配布場所を待機スペースには使うので、職員さんの中でも何かの基準で区別しているのでしょうね。

そして運命の9時半。多くの人が集まった中で職員さんから発せられる「抽選券お持ちの方はみなさん傍聴いただけます」のお言葉。

だっせぇ…。前日に記事とかもあげちゃったし、それで自分の首を締めちゃうことになったらどうしようと不安に思ってた俺だっせぇ。あと、あんだけ頑張って発信しても、人を集められなかったご当人も。

まぁ実際、世の関心はこんなもんというか、ネットで見られたら十分という感じなのでしょうね。あんま報道されていないのに、判決時に傍聴券でしっかり抽選になる事件もありますから、僕も今後モノを書くならその辺りの世の関心事をちゃんと見極められないといけないのかもしれません。


今回は記者席も10席くらいは設けられていました。
職員さんから説明があり裁判官が入廷し、いつもの撮影が始まるのですが、ここで変化が。

右陪席(傍聴席から見て左の裁判官)がそれまでの方と変わっていたのです。どこの局か忘れましたが、判決の様子としての映像で、前の裁判官が映っている映像を使っていらっしゃいました。意外と適当なもんなんですね。

前回は撮影終了後に、証言台前パーテーションを設置するという段取りがありましたが、今回はありませんでした。基本的に、判決回で被告人が喋ることはないですからね。

と思ったら、被告人が撤去の意見書を提出していたようですね。これ自体は非難されることじゃないですが、よぉやりますわ。


判決宣告 ~報道されてない意外な主文~

10時3分、被告人入廷。いつも通り、裁判官らに一礼。傍聴席も一瞥します。傍聴席が満席じゃなく残念でしたね。

そして、開廷が宣告されたのですが、特に右陪席の変更については通達なし。弁護士とごにょごにょやっていたので、被告人は聞かされてはいるのでしょうが、特に傍聴席には説明はありませんでした。メインの裁判長の変更でなければ特に説明はないのかな?

その代わりと言ってはですが、一つ補足説明が。弁護側の証人尋問で被告人の妻と父が出廷しましたが、それを関係者秘匿の関係上「C」と「D」と表現すると説明がありました。わざわざ説明するってことはなにかあるのかなと疑問に思うのですが、数行後に解決します。

裁判長に誘導され、被告人が証言台の前へ。時折見せる、左の口角を上げた厳しい表情をしていました。他の傍聴人は緊張していたのかなと言ってましたが、僕はなんか苛立っているのかなという印象を持ちました。当時の心境はいかに。

証言台に腰かけ、さっそく裁判長から主文が読み上げられました。


主文
被告人を懲役2年に処する。
未決勾留日数中50日をその刑に算入する。
この判決が確定した日から4年間、その刑の執行を猶予する。
証人として出廷したCとDの費用は被告人の負担とする。

最初の一文は、懲役2年の有罪としたことの宣告です。検察官の求刑は4年でしたから半減されましたね。

二行目は、一定期間刑事施設などに勾留されていた期間分を懲役刑から差し引くというものです。なので、今回の懲役刑は2年マイナス50日(2月弱)となります。ちなみに、この日数は実際に勾留されていた日数とイコールではありません。

そして三行目はいわゆる執行猶予4年というものです。判決の確定というのは、裁判が行われた日の翌日から数えて14日以内が高等裁判所への控訴申し立て期日になりますので、それがされるか否かという話です。
この4年間の間に、禁錮刑以上の有罪とならなければ、懲役2年は受けなくていいけど、有罪となったら新たな罪+懲役2年だからというものです。


そして最後が珍しかった。多分、交通費くらいの話だと思いますけど、それを被告人の負担とするという判決。

僕は現物を見たことはないですが、弁護側の証人が出廷する用紙に、どうやらその費用を被告人に負担させるか否かという項目があるんですね。普通、身内なので、わざわざ請求しないケースが多い、というかそれしか見たことないんですが、今回はそうでなかったと。

まさか、命令書の記載漏れがどーたらとか口酸っぱく言う被告人の身内が、そんな記載に気付かないはずもないですしねぇ、と悪い顔をしてみたりもする。


とまぁ、こんな判決の結果でした。
検察官が求刑4年としたのは、実刑を取りに行くという強い意志を感じたので、執行猶予判決が出たとき、傍聴席からやっぱりかだったり、ほっとしたり、いろんな感情の息が漏れたのが聞こえましたね。

ちなみに私は、

・懲役2年6月、執行猶予5年
or
・懲役1年6月の実刑

かなと予想していたので、まぁまぁといったところではないでしょうか。CとDの費用負担は当てられません。


争点整理 ~学問の自由の侵害って?~

ここが一番大事かなと思うのですが、とにかくここから裁判長がスピードアップしましたので、ポイントだけになります。

まず順番は前後しますが、被告人宅の捜査時の公務執行妨害、器物損壊事件、館山食堂事件、食堂前の公務執行妨害について。
これは全面的に検察官が主張するものが採用された形になりました。


被告人宅の事件について弁護側の意見を棄却したポイントですが、

〇現場写真がたくさんあるのに、暴行の写真が一切ないのは不自然だ
⇒現場の撮影するために、公務執行妨害、暴行の現場を抑えるためにカメラを持っていたわけでないので、その場面が直接写っていなくても不自然とはいえない

〇メガネを握りこんだのは意図的でない
⇒偶然、メガネが引っ掛かり、手に持つことになるとは考えにくい。また握りこんでいる様子が写されている。

〇オンライン授業の時間を狙って捜索に行っており、憲法23条の学問の自由の侵害行為にあたる
⇒捜査員はその点は把握していなかった(的なことを言ってたが不明瞭)。また仕事で使用するものは押収していない。担当も別の講師に代わってもらえており、学問の自由の侵害とはいえない。

以下は全体的に不確かを前提に
〇そんないろいろ暴行行為を働いているのなら、すぐ公務執行妨害で捕まえないのはおかしい
⇒遠方から捜査官が、差し押さえのために行っているので、他の手続きを踏む公務執行妨害で即時現行犯逮捕しなかったのは合理的な判断。

すごく頭のいい方々たちが、こういう事象を一つ一つ検討している仕事ぶりに頭が上がりません。

特に23条のくだりは興味深かったなぁ。これが認められてたら、そもそもが違法捜査として、公務になってないから公務執行妨害どころからそれに関連する事項も全て無罪ってことだったんでしょう。そう考えると、警察の捜査ってのも相当気を遣うんですね。

館山食堂事件とその前の道での公務執行妨害については争点をメモれていませんが、弁護側の主張は採用できないとスラスラ言っている感じでした。

今回のに限らずですが、裁判を傍聴してて被告人に肩入れしたくなるというか、そういう視点を持たなきゃなと思う場面がときにあります。それは、例えば窃盗とか明らかに盗んだものがあるとか物的証拠があればいいんですけど、各種妨害行為とかって物的証拠が残りにくいじゃないですか。

今回の件がそうとは言いませんけど、なんか気に食わないから陥れちゃえというのが成り立つ可能性があるものだと思うんです。

疑わしきは被告人の利益に、の基本原則でいうならば、正直その判決はキツくない?と思うこともあるんです。


ただ、今回、自宅差押え事件を除き、立場が異なる利害関係のない人が複数その現場に立ち会っているんですよね。

まぁその多勢に無勢っぷりが「社会全体の不理解による、少数者の排除」というような弁護側の主張なんでしょう。確かに、そういう面もあるのかなとは思います。
ただ被告人が公判で語るような、自分は冷静な語り口で対話をしましょうとしているのに、相手が唐突にキレだすという事象が連続するということの現実味が皆無なので、被告人の証言は信用性ならないとほぼほぼ却下されたのだと思います。

同じように無罪主張を続けるにしても、「行為は否定するが、結果として迷惑を被った人がいるのなら、その人たちには申し訳なく思う」的な一言でも言えたら、心情は違って、罪の構成要件の話になった気もするんだけど。


争点整理 ~ピーチ事件について~

さて、皆さんが気にしているであろうピーチ事件。報道でもご存知でしょうが、傷害罪としては認定されず、暴行に留まると判断されました。その理由として以下が挙げられました。

・OCCは当時、被告人が腕を掴んだとする事実を把握していなかった

・B(傷害を受けたとされるCA)は、掴まれたかの問いに対しても「叩く行為があったなど」としており、掴んだ行為があったのなら行為を後退させて報告する理由はなく、証言をそのまま信用することはできない

・弁護人が主張する降機直後の警察との調書の内容と合わないという点については、緊急着陸から取り調べまでの時間が短く、暴行行為が明確に言語化されていなかったとしても、それ自体は不合理とはいえない

・医師に正しく症状を伝えられているか、Bの証言には上記の通りそのまま信用するには合理的な疑いが残る

先ほど書きました、疑わしきは被告人の利益に、という考えがここで適用される形になりました。
この部分の報道を見て、CAさんに過激な意見をしている方なども見ますけど、疑いを残す余地があるという話ですからね。

あと、診断書が証拠採用されたのは傷害認定でないかという意見も散見されますが、

検察官が診断書をケガが起きた事実の証拠として取調請求をする

弁護人が、そのまま採用されてはただケガをした事実が残るから異議を唱える

証人尋問を経て、診断書が作成された経緯を明らかにする

作成された状況はわかったので、弁護人としてはその尋問も踏まえた上で取り調べてくださいねと同意する

という流れなので、これは自然な流れですね。


その他、ピーチ事件でポイントとしていたのは、

・前方ギャレーで被告人が大声を出していたこと以外は、業務を制圧していたとまでは認められない

安全阻害行為の認定について
・機長が、大小に関わらず、危険性を認識するなら通告できるものである。
・どの行為が該当するか番号で表している
・降機の可能性も伝えている
よってそれが不足しているとはいえない

・しかし機長が証人出廷をしていないため、緊急着陸の必要性があったかについては不明瞭である

緊急着陸についてもメディアで書かれがちですけど、その判断については明言できないけど、それ以前にアウトだからねという裁判所の判断です。


ここまでが40分くらい、ここから量刑の理由。これもポイントを伝えると。

・いずれも自身を押し通す上での犯行
・起訴され、公判前手続きの最中、館山事件などを起こしており、規範意識の欠如は甚だしい
・とはいえ暴行の程度は大きいとはいえない

これくらいでさらりと流されていました。


閉廷後

最後に執行猶予と控訴の説明があり、裁判としては終了。僕としては2時間の予定だったのが、45分で終了するということで、別の行きたかった裁判に行ける!とワクテカしていたのですが、閉廷後に事件が。

まるで西洋の魔女狩り裁判だ!
後付けの証拠で到底容認できない!
〇〇(不明瞭)狂っている

と被告人が立ち上げり、叫びました。
裁判官の方へ数歩歩み寄ったり、傍聴席の方を振り向いて必死にアピールしています。

裁判官はそんな言葉を聞く理由もありませんからとっとと退廷。傍聴人らはその動向が気になるので、退廷する様子が見られないので、職員さんが必死に傍聴人に退廷するよう伝えていました。

僕としては、先ほど述べた妨害行為には物的証拠が残りにくいという観点から、どこまで本当に言ったのかなぁと少し疑問に思う部分はあったのです。嘘をついているとは思いませんが、やはり時が経ったり、恐怖心などで記憶って変遷しちゃうと思うんで。


でも、最後の叫びのおかげで現場の雰囲気がよくわかりました
被害に遭われた方は、さぞ恐い思いをされたでしょうね。



さて、
今回一連の裁判を追って、僕自身かなり気付かされることもありました。
人権、動画が証拠になる時代、航空法、学問の自由、ビールサーバーに勝手に手をかけてはいけない…etc

やはり裁判であったり、世で起きている事象を知ることは自身の大きな学びになると思います。ただ事実を切り抜くのもですが、自分の目の前の情報をどう自分に当てはめて、役立てられるかというのが大事なんだろうなと。

今回、この件で、多くの方にこのnoteを知ってもらうことができました。
勝手なお願いですが、どうか裁判に対する興味を今回の件で終わらせず、継続して持っていただけたら、そしてそれが私のnoteでお役に立てるのならば嬉しく思います


この連載において、数多くの記事のご購入を頂戴いたしました。
改めて深く御礼を申し上げます。

最後のこの記事についてはそのようなことは申しません。
是非、お近くの裁判所へ行かれるための交通費等としてご活用ください。


毎度のことですが、当記事の全責任は私に帰属いたします。
大人の人生交差点クラブ 普通


では、高裁でお会いしましょう。

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