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35歳花嫁、コロナ禍で「リアル会場+WEB配信」結婚式を挙げるまで【中編】

こちらの記事の続きです。人によってはあまり気分のよいものではないかもしれないです。ただ綺麗ごとだけでなく、当時の自分の負の感情もありのまま書いておこうと思います。

少しずつ伝染する不安

2020年2月末。
4月4日の結婚式まで、あと1ヶ月ちょっと。

コロナ感染者は国内でも少しずつだが増え始め
会社では10名以上集まっての会議が禁止となり、
社内イベントや研修を企画運営する私の部署は、対応に追われていた。


ある日夫が、家に帰ってくるなり言った。

「知り合いの結婚式は、延期になったよ。」
「それでさ、俺たちの結婚式、どうする?延期する?」


夫から、その選択肢が出てくるのにびっくりした。
そうかもう、その段階なのか……と。


夫はベンチャーにいたこともあり、どちらかというとリスクテイカーだ。
バックパック旅行好きで、大雑把でそんな細かいことを気にしないタイプでもあるし、どちらかというと理屈重視で冷静に数字も見る。

日頃の夫婦のコロナに対する見解としては
「60代以下の致死率は決して高くない」
「人の心情に配慮する必要はあるけど、ウイルス自体を過度に恐れるものではないよね」だった。

手洗い・うがいはマメにするけど、世の中に未知の病気が1つ増えるのも、長い歴史の中ではよくあること、ていうか「新型コロナウイルス」という響きが怖いしキャッチーすぎてよくない、名前変えればいいのにねとか、そんなことを話していた。


一瞬迷ったが、この時はすぐ
「いや、延期は無しじゃないかな、」と答えた。


4月以降となると、父の体調的に参加できるかどうかが分からない。
もう1つ、姉のこともあった。
イギリスに住んでいる姉が、久々に夫婦・姪っ子揃って帰国する準備を整えてくれている。

そしてもう1つは、お金のこと。

改めて契約書を引っ張り出して見た。
天災など物理的に開催不可となる場合を除いて、いかなる場合でも、夫婦都合での日程の変更は式場のキャンセル料が発生する。
この時で既に、100万円以上の金額になっていた。

夫もこれを見て「この状況で、100万払ってキャンセルは無いな……」となった。

しかしながら、コロナ状況に不安を感じている人もいる中で
強制的に出席してもらうのは申し訳ない。
式場としては、3月中旬までは人数の変更はOKとのことだった。

「無理に来てもらう必要はないし、欠席は本当に気にしないよね。今なら別に欠席でも負担はないし。」
「それならいっそ、そのことを率直に伝えようか。気を使って断りにくい人も多いかもしれないし。」
「そうしよう!」と、その日のうちに告知文を作り、FBとインスタにアップした。

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この時は、数名から欠席のご連絡をいただいた。
お子さんが小さいので念のため人混みは避けたいという方と、
海外勤務で航空券と自宅待機期間の確保が難しい方だった。

言い出しにくいことを、率直に言い出してくれたのが嬉しかった。
欠席する分ご祝儀払うよ!と言ってくれた人もいたけど、
この段階ではお金もかかっていないし、そこは堅くご辞退した。
逆にこの告知をきっかけに、結婚式に行きたいですと言ってくれた人もいた。


着々と、2人で結婚式の準備を進めていく。
とにかく1つ1つにこだわろうとしているので、ものすごく時間がかかる。

謎解きづくり(メインはココナラさんで発注)・ゲーム設計・必要なグッズ買い出し・映像づくり・景品選び・音源CDづくり・台本づくり・引き出物選び・メニュー決め・装飾・引き出物持ち込み……合間にメイクリハやエステ。

家から式場までは1時間半と、移動時間もかかる。
当然ながら仕事もある。

夫は等身大のゴーレムも作りたがっていたけど、
とてもじゃないがそこまでは無理だった。

音響さんとも打ち合わせしたけど、プランナーさんからは
「効果音流すタイミングまで打ち合わせしたのは初めてです〜!」と言われた。

世間では「自粛」ムードが流れはじめていたけれど
完全に引きこもって自粛すべきだという人、
気をつけながらもある程度経済活動はした方がいいと思う人、
濃淡は分かれていた。
私の周りでは、比較的後者が多かった。私たちもそうだ。


でもちょっとずつ、プレッシャーは大きくなっていく。


3月18日。式まであと2週間ちょっと。
睡眠1時間でギリギリで仕上げた新しい仕事が上手くいって、充実感に浸りながら、今日は久々に早く寝よう……と思っていた23時半頃。
母親から電話がかかってくる。

「もうすぐ結婚式ね、元気してるかなあと思って。コロナ感染者も増えて来たけど、大丈夫かしら?」

「うん、やることは決めてるし、前伝えた通りお知らせも流してるよ。欠席者は数名くらい。
すごく申し訳ないんだけど、今日ほぼ徹夜明けですごく眠くて……また今度でもいいかな?」

5分くらい話して電話を切ったあと、
0時を超えて、母親からLINEが届く。

結婚式を強行した時、二人とも、会社にいにくくなるんじゃない?

その後には、決断は2人に任せるとか、キャンセル代が発生するなら頼りにしてくれていいとか、あとから見ればちゃんと応援を書いてくれているのだけど。

でも、最初の1行でもう、
どうしようもなくイライラしてしまって。


心配なのも分かる。不安なのも分かる。
でも「会社にいにくくなる」って何?
お金払うって簡単にいうけど、いくらかかるか分かるの?
仕事も準備もこんなに一生懸命やってるのに、
どうして私たちで決めたことを、
周りからいろいろ言われなきゃいけないの?
どうして自分の不安な気持ちを、
一番不安に思っている私にぶつけてくるの?

ちょっと本当に眠いから、ごめん。会社にいづらくなるとかはないから、とそっけなく返してしまった。
母親からはわかった、余計なことだったわ。ごめん。私も1人で、不安なんだよ。と返ってきた。

寝不足なのに、気が立って眠れなくなってしまった。
誰かの気持ちを支える余裕がない。
体力回復させなきゃと、せめて布団に横になって目をつぶる。


不安は伝染していく。コロナ感染状況も日に日に悪くなる。
ウイルスなので、複利計算式で増えていくのは当たり前ではあるのだが
実際なってみるまで、感覚としては分かっていなかった。

3月20日〜22日の三連休で旅行にいった人も結構多かったので
「ここで感染が広がり、1週間後(つまり、私たちの結婚式の時期)にオーバーシュートするんじゃないか」なんて言っている人もいた。
この頃、やたら聞きなれないカタカナが多くなっていた。


イギリスの姉も何度も航空券がキャンセルとなり、
義兄の分はどうしてもダメで、キャンセル代も返ってこなかった。
しかしなんとか姉と姪っ子の分は確保してくれて、親戚も車で空港へ姉を迎えにいく算段を取ってくれていた。

「チケット確保できたよ!」「絶対行くからね」と、
姉がLINEをくれたとき。

私が、迷ってしまった。

来なくても大丈夫だよ、無理しなくていいよ!

私から言ってあげるべきなのか。
姉にも、相当負担をかけてしまっている。
私の意思を尊重してくれるけれど、しんどいと思っているかもしれない。
もしかしたら、中止になってしまうかもしれない。
LINEで打ちかけては、手が止まる。

いや、でもそれを言うことは優しさなのか?
それこそ結果に責任を負いたくない自分のエゴじゃないのか?
姉は自分の意志で、来ると言ってくれているのだ。

一体どっちが、正しいんだ?

結局、言わなかった。
そして姉と姪っ子は、遠くイギリスから無事に日本に帰国した。
実家を一歩も出ずに、14日間の自宅待機をしてくれた。


ちなみに母は姉が帰宅するなり、
「無事に来れてよかった!」と涙ぐみながら
使い捨てのビニール手袋で姉と姪を消毒液をふりかけ、
お風呂に直行させたそうだった。
それだけ、気にしてるんだよなあ……とも思った。

「自粛」と、お金のこと

3月22日。式場にはギリギリまで待ってもらって
席次表の入稿と「85名」の人数確定の連絡をした。
これで料理も引き出物も発注されるので、
以降の人数キャンセル料は100%となる。

そのわずか3日後の、3月25日。

その日の新規感染者数は41名、3日間合わせて74名となり
東京都知事が、会見を開いた。

「換気の悪い密閉空間」、「多くの人の密集する場所」、「近距離での密接した会話」、これら3つの密を避けてください。
屋内・屋外を問わずイベント等への参加も控えてください。
オーバーシュートを防ぐために、
都民の皆様が危機意識をもって行動いただけますよう、改めてお願いいたします。

補償はないまま、「賢明な判断」を求められた感じだった。
しかし公式に自粛要請があったことは、大きかった。


この日で、一気に、潮目が変わる。


外出している人はもちろん、少人数でも自宅で集まっている人に対しても、
SNSでは厳しい批判が飛び交った。
「大切な人を守るために」と、周りもどんどんFBのアイコンをStay Homeに変えていく。
それすら責められているように感じてしまう。

式に招待しているゲストからの問い合わせも、一気に来た。
「思った以上に大ごとになってきて……どんな感じで開催するの?」
「お祝いだから行きたいのだけれど……決行するのかな?」
基礎疾患のある方や、自分1人のことならいいけど、家族や職場のことを考えると……という方が多かった。もっともである。
早速、1名からは欠席の連絡をいただいた。

「84名集まる」、その人数の重みがのしかかる。

幸い郊外の式場だったので、空間は比較的ゆったりしていたし、
換気も確保できそうだった。
だけど飲食はするし、謎解きすればゲスト同士の距離は近くなる。

絶対に何もないなんて、絶対に言えない。
もし私の式で、クラスターが発生してしまったら?


そして生々しい話だが、金額の重みものしかかる。
よりにもよって、金額変更が一切きかないタイミングだった。

これはゲストの皆さんには本当に関係ないことではあるのだけれど
美味しい料理を提供したい!と、
料理も飲み放題コースも、大分奮発してしまっていた。
何なら調子に乗って、オプションでエシレバターまで付けてしまった。

リアルに言えば、1人参加分(料理+飲み物+引き出物など)だけで、
一般的なご祝儀額とトントンくらいなのである。

それらが、既に発注済みだ。
欠席でもこのキャンセル費用は返ってこない。

結構な負担額となる。
これは、私たち2人だけが背負うべきものなのか?どうすればいいんだ?
なんだかもう、よく分からなくなってくる。

万が一の時に、結婚式のキャンセル費用を補償する保険に
入っておかなかったことを悔いた……が。
ネットで検索すると、コロナ影響を理由とするキャンセルにおいては補償対象外であったことが分かり、入っている人も悲鳴をあげていた。

「自粛」要請、つまりは中止命令でない以上は、
どこまでいっても「新郎新婦側の都合」のキャンセル扱いとなのだ。


決して誤解されたくないのは、
これ、式場側も一切悪くないということで。

物理的に開催不可能な状態であれば、
恐らくだけど、式場側にも何らかの保険や補償が適用される。

しかし「自粛」要請下での中止において、
何の補償もないのは式場側も同じだ。
この日のために、要望の多い我々にとことん付き合ってくれて、準備費用もかけている。スタッフも確保してくれている。材料の発注もしている。

そしてそれぞれに、家族も生活もある。

再度、ゲストへのお知らせ

都知事要請の翌日。
2人でああでもないこうでもないと文面を何度も推敲しながら、
招待客の皆さん全員にお知らせを流した。

ゲストのこと、家族のこと、式場のこと……そして、自分たちのこと。
あらゆることを考えた上で、この形にした。

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要約すると「84名を招待していること」「換気はするけどゲスト間の距離は確保しきれない可能性があること」など、
当日の環境とできる対策を、率直に説明した。

そして、ここが一番の迷いどころであったが……
欠席の希望は遠慮なくお伝えいただきたいこと、
しかし今からではキャンセル費用が発生すること、
お気持ちがある方は支援いただけると嬉しい旨を、
冒頭に、ありのままに伝えた。

その上で、ゲストに出席するかどうかを改めて選んでいただく。
これが、私たちの出した結論だった。

ゲストの皆さんに選択という負荷をかけてしまうけれど、
大切な人たちだからこそ、お金のことも含めて、自分たち2人だけで抱えて背負うことは辞めようと。
きっと私たちのゲストなら、遠慮とかではなく、自分の行動を自分で選択してくれるはずだと、ゲストの方を信頼しようと思った。

▼後編につづきます


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