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歳時記を旅する29〔立秋〕後*秋立つやをんなは素顔晒しゐて 

磯村 光生
(平成三年以前作、『花扇』)

 平安時代の短編集『堤中納言物語』の「はい墨」は無責任な男の話。

数年共住みした女が、男が家に新しい女が来るというので、よそに移ろうと思い男に牛車を所望する。だが、男には馬しか用意してもらえず、女は月明かりの中でさめざめと泣き、顔をさらして馬に乗っていく。片や、新しい女の家に、男は夜ではなく真昼間に訪れる。くつろいでいた女は慌てて白粉とはい墨を取り間違えて顔に塗ってしまう。簾を上げて入った男は気味悪がり立ち去ってゆく。

 「女心」と秋の空、という言い方、少なくとも江戸時代までは「男心」だった。
句に出てくる「をんな」は、この秋に「をとこ」との間でなにやら一騒動ありそうな予感がする。

(岡田 耕)

(俳句雑誌『風友』令和四年八月号「風の軌跡ー重次俳句の系譜ー」)



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