蒟蒻を食べる夷

こないだ見た夢。

 だだっ広いが洋式便器が一つしかないトイレで用を足していた。床は一面タイル張りで寒々しく、壁は漆喰でこれも殺風景だが、不潔な感じはしない。利用者が少ないのか掃除が行き届いているのだろう。
 一間ほどの木枠の窓からすりガラスを通して白い光が入ってきている。午前中のことで太陽の角度がまだ低い。
 窓の反対側の焦げ茶色のドアが静かに空いて、男が一人入ってきた。ノックもなしに失礼なやつだと思い睨みつけてやったが、小ぶりの頭には全く表情がない。骨相からすると北方系か。きっと言葉も通じないだろう。何より青白い顔で痩せてはいるが、背丈が天井に使えるほどもある。膂力のほどを計りかねた。いざ荒事となった時にズボンを下ろしているこちらの不利は明らか。とりあえず許してやることにした。
 とその男、我が座する便器の横にあぐらをかき、どこから取り出したのかビニル袋を両手に構えた。袋に書いてある文字はアルファベットですらない見知らぬもので、さっぱり意味はわからなかったが、素通しのビニルごしに見える内容物が糸蒟蒻であることはすぐに了解された。
 充填された水がこぼれるのをものともせず袋の端を破いた男は、これまたどこから取り出したのかわからぬがフォークを右手に構え、そのまま袋に突き入れてかき回し、巻きつけた糸蒟蒻を次々と口に放り込んだ。
 灰汁取りもせずに蒟蒻を食すとはなるほど蛮族の名にふさわしいと刹那は驚いたが、我らの蒟蒻とは種が異なるか、はたまた独自の工夫により灰汁のない蒟蒻を開発したのかも知らんと思い直していたところ、突然彼の手が止まり無表情だった顔に苦悶のそれがあらわれ青白い顔にさっと朱が差した。あきらかな嘔吐の徴である。
 ああ、やはりなと、腰をずらし便座を少し空けてやったところで目が覚めた。

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