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VCや大学、行政機関からディープティック系スタートアップを支援したい!と言われた時に話していること

どうも。
半分趣味で色んなスタートアップが生まれる場面を見てきたおかげか、VCや大学、行政機関の皆さんから「ディープティック系スタートアップを支援したいんだけど!なんかよう知らんのだが」という相談をされます。
毎度ありがとうございます。マジで楽しいです。

ご相談に何度か対応するうちに、
- 毎度同じことを話すのは大変
- お互い共通認識を持った上でさらに突っ込んだことを議論したほうが実りが増えるはず
と思えてきた。

なので僕がよく話す「ディープテックスタートアップに関する世間的な共通認識っぽいこと」をざっくり二つの軸で整理しました。

  • ディープテックスタートアップって何?という話

  • それらを見つけ支援するにはどうすればいいの?という話

「お前の考えは違う!私が真のディープテックを見せてやろ(ry 」という方は森へお帰り、ヒトの社会はあなたが思うほどヒトに優しくないの。

ディープテックスタートアップとは

- ディープテックとは

ざっくり言うと「科学的な発見や研究成果をもとにした、社会にインパクトを与えることができる技術」
定義についてはググると色々出てくるしそれぞれ一理あるけど…まずは今回はこれで進めます。

アカデミアの人が見落としがちなのは「社会へのインパクト」の部分。
「技術がすごい」だけじゃなくて「重大な社会課題の解決につながる」と言えて始めてディープテック。
(とはいえ研究の価値は「社会実装できるかどうか」以外にも多く存在するのでそこは勘違いしないでね)

- スタートアップとは

で、そんなディープテックの「スタートアップ」がディープテックスタートアップなわけだけど、世間で言うスタートアップとは「革新的なプロダクトとビジネスモデルを持ち、顧客規模と売上の急拡大を目指すチーム」と捉えて大丈夫。

「研究成果を活用して企業向けのコンサルやります」的な商売は、VCや行政などお金を出す側からするとスタートアップとは言いづらい。
(とはいえコンサルビジネスが商売としてダメなわけではない。あくまでスタートアップとは言いづらいよね、というだけ)

ディープテックとスタートアップ、それぞれの定義をまとめると、ディープテックスタートアップというのは
科学的な発見や研究成果にもとづく、社会にインパクトを与えることができる技術を活用した革新的なプロダクトとビジネスモデルを持ち、顧客規模と売上の急拡大を目指すチーム」
となる。

長えよ。
そりゃ「ディープテックスタートアップ」という言葉でくくりたくもなるわ。

- 日本での事例

詳細は省くけど大学や国立研究所などに属する研究者がその研究成果をもとにしたディープテックスタートアップが中心みたい。
企業発のチームもある。
数としては、明確な数は知らないけど米中より圧倒的に少ないというのはこの界隈で活動してる人の共通の肌感だと思う。

独断と偏見で、事業規模やジャンル関係なくいくつか並べてみました。
どれも面白いです。
エレファンテック株式会社
オプティアム・バイオテクノロジーズ株式会社
ペプチドリーム株式会社
株式会社AIメディカルサービス
株式会社QDレーザ

僕の活動範囲も関係してるかもだけど、日本は医療系が強いのかなという印象。
一方で今後は分野問わず大手企業発のチームも増える予感がある。
「新規事業創出」への意識や経験値が年々高まってるようなので。

ディープテックスタートアップを見つけ、成長を助けるには

VCや大学、行政など「ディープテックスタートアップを支援&育成する立場」から見たディープテックスタートアップの特徴と支援のポイントをまとめてみた。

- ディープテックスタートアップの特徴

良い点しんどい点、色々ある。
立ち上げから資金調達、事業拡大の流れを想像すると次の点は重要。

  1. 母体ごとに立ち上げのハードルが微妙に違う

  2. 製品のリリースまでお金と時間がかかりがち

  3. 誰が「経営」するかで苦労しがち

  4. うまくハマれば大きな売上が見込める可能性がある

1は立ち上げ前から立ち上げ直後の話。
大学や研究所によって職員の起業のしやすさや研究成果を事業化する際のルールが微妙に違う。
その結果組織ごとに起業&事業化のハードルが違う印象がある。
副業ルールとか知財の扱いとか出資についてのルールとか、そういうのが微妙に違う。
「支援したいわー」と思っている大学や研究所の支援部門の人は、職員の起業実績が比較的多い東大や筑波大などに注目して、創業や知財処理についてどういう体制を作っているかを調べると良いはず。

2のお金と時間の話もイメージ通りじゃないかな。
創薬とかだと10年計画とかザラ。
10年計画ともなると日本の場合VCによってはファンド償還期間を超えるのでホイホイ出資するのは難しい。
このあたりのギャップはVCの人たちもモヤモヤしているみたい。

支援部門の人はそうしたVCの都合も視野に入れつつ、「長期的な製品作りを進めつつ、2,3年単位で大きめの売上を作るにはどうする?」という観点で事業作りをサポートすると良いはず。
同時にそうしたサポートができるメンターを外部から呼ぶのが良いんだと思う。

3の「誰が経営するの?」もあるあるネタ。
研究者が代表としてチームをひっぱり、ビジネスも前向きに取り組んでくれれば無問題なんだけど、ビジネス側を担当するいわゆる「経営人材」を呼ぶ必要があるケースも結構ある。
得意不得意はあるからね。

じゃあどこで探すの、という話になるんだけど研究者と経営人材のマッチングの場はだんだん増えてる。VCに相談すると良い人に出会える可能性も増えてきた。風の噂ではBRAVEは良いみたいです。

一方で研究者もスタートアップに関わる以上、「経営人材」に丸投げせず顧客や売上に意識的に向き合うことは大事。
この辺りは支援側が起業前の段階から「なんで起業したいの?」というレベルから相談に乗りつつ、起業へのモチベーションを整理しながら研究者自身に「起業家モード」になってもらうことで好転することはある。
(このあたりは僕も結構やってたりする)

4はリターンの話。どんな領域のスタートアップもそうなんだけどディープテック領域は当たるとでかい。
極端な例だけどモデルナは2010年創業で2022年の売上が約2.5兆円
行くとこまで行けばどんな分野にも夢はある。これにはVCもニッコリ。

分野問わず、ディープテックスタートアップとして立ち回る上ではそうした規模の事業を目指して直近2,3年の戦術を実行しつつ10年越しの戦略を考える必要がある。
ちなみにこれ考えるの超大変。日々、計画と実行と計画変更が続く。

- 「支援側」は何をすればいいのか

次にディープテックスタートアップを発掘し支援したい人たちが行うべき具体的なアクションの話。
まずはこんなところからどうでしょう。

  1. うまくいっている支援スキームをよく調べること

  2. 適切な有識者を呼ぶこと

  3. チームのプロダクト作り、事業作りの邪魔をしないこと

まず1から。まずはうまくいってるところをパクりましょう
自分達がスタートアップとかについて理解している自覚があるならもちろん独自路線を歩むことを止めないです。
でも多分、微妙に不安だからこんな記事にたどりついちゃったんですよね?
いらっしゃいませ地獄へようこそ。

不安ならうまくいってるところをパクりましょう。
手始めに東大のFoundX筑波大の取り組みから調べると参考になるはず。

一方で、外野から見てるだけだと「こういうプログラムがあるから起業家が増えるのか、じゃあとりあえずプログラム作るか」みたいなスキームの議論にハマりがち。

これは罠で、うまくいってる所はスキームの充実だけではなく、熱量を持つ人が動き回ってる。
例えば、支援部門の人が学内の研究室をくまなく回って日頃から先生の相談に乗ったり人を紹介したりしながら「ギブ&ギブ」の精神で動いてくれている。

効率とか取れ高という観点で見ると合理的ではない。
でもそうしないと見つけられないくらい、ディープテックスタートアップを立ち上げられる研究者は日本だと希少な人材なの。
(理由は色々あるみたいだけど別の機会に)

スキームの議論に終始せず、熱量を持つ人が起業家予備軍とコミュニケーションをとっていくことが大事。
そういったこともうまくやれている所と直接議論すると見えてくるかもね。

人脈を辿って可能な限り現場の人に相談してみましょう。
イベントに行ってそこで他の大学関係者との縁を作るところから始めるのも良いかも。

次に2。有識者の話。筋が良い人に手伝ってもらいましょう
これはケースバイケースだし一概にダメとは言えないんだけど「スタートアップビジネスの有識者を呼んできました!」と言いつつ地元の中小企業にお勤めの部長さんをメンターとして呼ぶ、みたいなケースはある。
いや実績も実力も人望もあると思うんす。でもサッカーと野球くらいルールが違うんすよ、スタートアップ商売って。
もちろんうまくハマることもあるんだけど、成功率で考えるとスタートアップに触れていない人がメンターとしてスタートアップを上手に手伝える可能性は結構低い

これも1同様、うまくいってる組織がどういう人を巻き込んで起業家(&予備軍)の話し相手を立てているかを見ると良いです。
「筋良いチームの傍らにいっつもこの人がいるなー」みたいなことはチラホラあります。
これも結局は人。

最後に3。
起業を促したい!と言いつつ起業するまでの組織内手続きが超煩雑、かつ創業後も「〇〇発ベンチャー」という看板をチームに背負わせながらそれを理由に経営状態の報告を頻繁にやらせる、みたいなケースを耳にしたりする。

スタートアップは限られたリソースでいかに早く試行錯誤をするかが大事なので、本来は支援側の都合で彼らの邪魔はするべきでない
それでももし「事業には直結せず支援側都合で必要なタスク」があるなら、まずはそれらの作業を肩代わりする所から「支援」を始めるのが良いです。

これは正直、VCや大学、企業問わず大きな組織の中でスタートアップ支援をしてると油断するとハマりがち。
支援側の人たちにも社内向けの説明責任とかあるしね。
とはいえそうした都合に逃げず、「今俺邪魔してない?大丈夫?」と常に振り返るのは大事。僕はたまに「アァーーッ」ってなる。

最後に

長かった。
「ディープテックスタートアップを支援したいです、よく知らんけど」とお悩みの皆さんにはこういうことをちょいちょいお話しています。

経験値のある人とこの手の話をしていても、大きなズレは起きてないので完全的外れという内容ではないはず。
でもそれぞれの人の観測範囲や経験に応じて微妙な違いはあるのでご容赦を。
そうした部分も考慮に入れつつ、とにかく不安になったら自分だけで考えず、筋が良さそうな人を見つけて相談しましょう

上でまとめた内容はあくまで「最初に知ってもらいたい共通認識」なので、それら共通認識の上でそれぞれの組織独自の都合や戦略を踏まえた「施策」を考える必要があります。

もし「モヤつくなー」とモヤモヤしてる支援側の人はFacebookか何かで声かけてもらえれば共通認識の先の話をできるんじゃないかと思います。

ディープテックスタートアップは予備軍含めて米中に比べるとめちゃくちゃ少ない。
研究者でありつつ「起業しよう」と考え、かつ起業家として立ち回れるポテンシャルのある人は超絶希少人材。
だからこそそうした人と出会ってコミュニケーションを取ったり事業計画の話を伺うことは僕にとって超楽しいです。

僕がさらに楽しめるよう、皆様におかれましてはディープテックスタートアップの支援をがんばってください。


皆さんからのサポートはもれなく焼酎代とkindle積み本代に変換され、そこでの気付きが新たな記事のネタになり皆さんを楽しませることでしょう。多分。