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ベンチャーを立ち上げた(い)研究者がピッチを通じて何を話すべきか

大学や研究所に属する研究者がベンチャーを立ち上げるケースをよく見かける。いわゆる「研究開発型ベンチャー」。仕事柄そうした皆さんのピッチをよく拝見する。

思うところが数点。やっていることはとても面白いのにベンチャー的なピッチに慣れていない人が多い。言うべきことが言えてない、余計な情報が多い、「学会発表」になってる、などなど。研究者の人たちがピッチを設計する際のポイントをまとめてみた。研究者以外の人にも参考になるかもね。

ピッチの目的

ピッチの目的は基本的には「協力を求める」こと。詳細な目的はピッチを行う相手によって変わる。

・相手が投資家:出資を通じた協力を求める。(このケースが一番多い)
・相手がエンジニア:開発チームに加わることを求める。
・相手が顧客:購入を求める。

大抵の場合与えられる時間は3分から5分程度。もしかしたら数十秒の場合もある。(エレベーターピッチと呼ばれている)

ピッチの基本構成

顧客がどうあれ基本構成はほぼ変わらない。相手によって各パートの重み付けや情報の粒度を変える程度だ。

1)誰のどんな課題を解決するのか
2)どうやって解決するのか
3)なぜ今、自分達がやるのか
4)ビジネスモデル
5)実績
6)メンバー紹介

2)と3)の優先度はケースバイケース。プロダクトの説明を先に聞きたい人もいればWhyを先に聞きたい人もいる。VCや投資家は3)を通じてWhyを知りたいし、顧客への説明する際は3)の重要性は低い。

4)は何を誰にいくらで売るのか、が最低限必要。VCや投資家は本当に儲かるか?という観点で見るし。顧客は「でも…お高いんでしょう?」という観点で見る。

5)はもしすでに試作品の販売などを行っているようであれば入れると良い情報だ。

6)も重要。学歴、社歴の中でそのビジネスに関係深いものがあればそれらを書くことでチームの信頼度は上がる。そのチームが本当にそのプロジェクトをやりきれるか?ということを判断するためにも重要。エンジニアやスタッフを雇うための説得材料にもなる。ただ「サッカーが好き」など事業と関係ない情報は書かないほうが良い。ノイズになる。

「一枚に盛りだくさんの情報」というスタイルから脱却する

研究者が経験している学会発表の多くは下地となる論文があり、それに沿って進む。実験手法と結果は重要な情報なので、実験構成やその結果データは誤解のないよう正確に細かく記載することを求められることが多い。必然的に1枚のスライドに入る情報量は多くなるので、話している内容とリンクする場所をレーザーポインターで指し示すことになる。

こうしたスタイルはVCなどへのピッチにおいては不向きだ。
・聞く人すべてがあなたの発表に興味を持っているわけではない
・聞く人すべてがその技術分野のエキスパートではない
・1枚に大量の情報が盛り込まれたスライドはそもそも読みづらい
からだ。

嘘を書く必要はないが、協力を得るために必要な情報以外は削り取るべきだ。

・そのプロダクトが誰のどんな課題をどのように解決するのか?
・チームに関わることで得られるメリットはなにか?
をわかるようにしたほうが、より協力を得やすいピッチになる。

1枚のスライドで入れるべきメッセージは2点が限界。スライドもシンプルになるのでレーザーポインターもいらない。逆に言えば説明にレーザーポインターを使う時点でスライドが情報過多でありピッチ用のスライドとして不向きだ。

追記するなら最終ページは、
1)どんな課題を解決するのか
2)どうやって解決するのか
のダイジェストを記載するべき。ピッチ後の質疑応答のときにそのスライドを出し続けておけば聴衆はプロダクトの性質をより理解できるし、質問すべきことも考えやすい。

「ご清聴ありがとうございました」スライドはもってのほか。

ピッチは「内容を薄めた学会発表」ではない

研究者の皆さんと話をするとたまに「ベンチャーさんのピッチは勢いがあるけど内容が薄い。その点私の発表は技術的な内容が濃いから云々」という意見を聞くがそれは勘違い。ベンチャーにとってのピッチは相手の知りたい情報を精査し、話すべきことを過不足なく話すことが重要だ。

スライドの大部分を技術情報で埋めてる人に「それらのページは余計なので消しましょう」と提案すると、人生を否定されたかのような表情をする人がいるけど、ピッチにおいては自分の研究実績より相手の知りたい情報に気を使って欲しい。製品化の時には研究実績が絶対必要になるので安心してほしい。

Webにある情報色々

VC、スタートアップ関係者によるピッチのノウハウや実際のピッチが多くアップロードされている。

1)[スライド] スタートアップの 3 分ピッチテンプレート - Taka Umada - Medium
https://link.medium.com/zbwmMV8PYY

スライドテンプレートを始め、色々なtipsがまとまっている。必見。

2)500 Startups - YouTube
https://www.youtube.com/user/500startups/videos

アメリカの大手VCである500 StartupsのDemoday(投資先スタートアップがピッチを行うイベント)の動画。500 Startupsは参加チームにピッチの指導を行っているのでいずれもレベルが高い。500 Startupsの出資先には大学や研究所の研究者も多いので、ベンチマーク対象として良いと思う。

やってる事はすごいのにピッチで不利になるのは損

僕が目にする研究開発型ベンチャーの技術はすごいし取り組む課題も壮大だ。世のため人のためになるものばかり。まじですごい。

ただ、プロジェクトを進めるための協力者や、お金を払って製品を買う顧客を増やすためには、自分たちのプロダクトや存在意義をわかりやすく伝える必要があるし、スライドが原因で失敗するのは損だ。

「わからない人にはわかってもらわなくて良い」「下手な相手には知られたくない」というスタンスも状況によっては当然ありうる。しかし、本当に協力して欲しい人に出会った時に確実に協力を得るには普段からの練習が必要だ。

あなたの研究が世に理解されず、事業かもされず埋もれて終わることは人類にとっての損失なのだ。

まずは
1)誰のどんな課題を解決するのか
2)どうやって解決するのか
3)なぜ今、自分達がやるのか
4)ビジネスモデル
5)実績
6)メンバー紹介
を3分で説明できるよう、伝えるべき情報をピックアップすることを始めるのが良いと思う。

じゃあお前はピッチがうまいのか?

いや、あんまりかな…めんどくさいし…

皆さんからのサポートはもれなく焼酎代とkindle積み本代に変換され、そこでの気付きが新たな記事のネタになり皆さんを楽しませることでしょう。多分。