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2022年J2第3節 大分トリニータ-横浜FC「チャプター」

下平監督の横浜FCは波乱万丈だった。2019年二けた順位に低迷するチームの指揮官にシーズン途中で就任し、そこから勢いそのままに快進撃を続けライバルチームの追撃を振り切ってJ1昇格。勝って階段を上っていくのは楽しかった。2020年シーズン途中で戦術を転換して、ポゼッションサッカーを披露し確固たるサッカーを築き始めた。2021年その戦術に沿う選手を揃えたはずが、開幕戦でこれまでのサッカーを放棄したかのようなロングボールを徹底させたことでチームは崩壊。そこからリーグ戦では未勝利のまま彼は横浜を去ることになった。
2021年その下平前監督は、大分の監督に就任。横浜と同じく2022年J2に降格した大分としても、本人にしても再起を図る年にしたいはず。その大分と第3節で横浜は激突した。

誤算

横浜はキャプテンの長谷川竜也を欠いたスタメンとなった。これまでの2試合では、3-4-2-1で戦っていたのを、3-4-1-2に変更してトップ下に齋藤功佑を配置した。目論見としては、繋いでくる場合2枚のFWで2枚のCBを抑えて、中を通した時に齋藤が4-3-3の中盤の底にいる下田にプレスをかけたい。ここ2試合では1トップ2シャドーのシステムで、フェリペ・ヴィゼウと小川がプレスをかけて長谷川で狩り取ろうとする仕組みを再現したかったが、サイドに外された時に追いつかず縦に長いボールを蹴られてしまう。長崎戦と異なったのは、大分はここに呉屋や増山と言った前を向きたいタイプがおり、中塩とのマッチアップで優位にボールを運べたことで、大分の攻撃は右サイドから多くなった。それは自然で、長いボールを落として競り合ってマイボールに出来ればチャンスになり、相手(この場合、横浜)が奪い返しても自陣低い位置では大分のプレスがかかり、さらに奪い返してボールを握る事が出来る。ポゼッションとストーミングを合わせながらの戦術は、前線からマンツーマンでプレッシャーにいく横浜対策としては有効だった。
横浜は何度も跳ね返していたが、前線とも距離があり長いボールの殆どは回収されて大分の攻勢を受け続けてしまった。

前半14分、横浜は一旦自陣に戻したが、大分の3選手のプレッシャーを受けた中村拓が中盤の手塚に弱いパスを送るとこれを大分・町田にカットされて侵入を許すと、町田のクロスに飛び出してきた小林成がヘディングをフリーで放って先制点を与えてしまった。

2021年下平体制にケリをつける

2021年下平監督が率いていた際の横浜はポジショニングや戦術に縛られすぎて、選手の自由度が小さかった。選手達が好き放題にプレーして勝てないと批判され、最終的に責任を負うのは監督であるのはサッカーの世界では日常である。その中で誰が出ても同じクオリティにするには、よりシステマチックになっていく必要性があるのは理解できるが、戦術にこだわってしまっては柔軟性の低い戦いにしかならなかった。卵かヒヨコかではないが、戦術を実現できる選手が先か、勝利を実現できる戦術が先かはサッカーの永遠の命題な気がする。
横浜は失点してからより柔軟にポジションを変更した。高橋の重心をより低く、手塚の重心を前に。4-1-3-2に近い形にすることでサイドを抑えるように。こういった変更は、昨年序盤では殆ど見られなかった動き。

前半21分、大分・高木駿のロングフィードを回収した横浜は、高木が増山、渡邉、小出と一人で3人を剥がして大分陣内に侵入。ペナルティエリアのやや外で倒されてフリーキックを得る。蹴るのは、手塚。GK高木駿とディフェンスラインの間に落とすフワッとしたボールに反応したのは、岩武だった。彼が後ろに擦らし、一度は防がれるもののこぼれ球に飛び込んだのは伊藤。これでゲームは1-1の振り出しに。

2021年下平横浜が唯一あげた勝利はアウェイ柏戦。この時にゴールを決めたのは伊藤だった。その伊藤が一年ぶりに横浜所属であげたゴールは、敵の指揮官となった下平監督率いる大分相手なのが感慨深い。そんな簡単に勝たせたくない気迫のこもった身体ごと投げ出してボールをゴールに転がしたのは、伊藤の本領ではないかも知れないが、あれだけボールに競らなかった伊藤が今シーズン見違えている。長いボールも競ってマイボールにする。サポートで走るし、味方も使う。シュートの力もある。嗅覚も衰えていない。

そしてアシストしたのは手塚。彼は下平監督が大分の監督の就任するに辺り移籍するのではと言った声もあった。昨年も夏以降出場せず負傷なのか起用法なのか様々な憶測の中で残留を決めた。下平監督だから起用されていたのでなく、彼の足で今はそれを掴んでいる。下平監督の下で起用された選手が今度は彼に牙を剥いた。2019年の下平監督の下での昇格は今でも胸の中にある。が、今年は敵である。彼を倒していくことが2019年を本当の意味で過去に出来るのだと思う。

驚きの

同点にされた大分が先に動く。後半開始から前線の呉屋を下げて、長沢を投入。大分はサイドに長いボールを入れてクロスを上げるだけのサッカーになっていく。横浜は確かに押し込まれているが、単調なボールでは中々崩れない。
昨年のJ1開幕戦の札幌-横浜のゲームを見ているようだ。オールコートでプレッシャーを掛ける札幌に対して、下平横浜が採った策が中盤を飛ばして前線の選手に当ててセカンドボールを奪っての攻撃。あの時、札幌のヘッドコーチだったのが今の横浜の四方田監督である。戦いの場をJ2にしても、あの試合に勝てなかったことが下平監督の脳裏に残っているのか、ロングボールを当てる戦いを繰り返す。町田に代わって入った中川は殆どボールに触れず。ポゼッションサッカーとは一体何だったのかとこちら側から見ていても思いたくなる。
増山に代わって入った井上こそスピードで戦えていたが、横浜はそこで亀川を入れて4バックにチェンジして4-4-2で構えて井上が走るスペースを消していく。

横浜は後半33分、ロングボールをフェリペ・ヴィゼウが競って後ろに落とすと、大分・小出が収めようとした瞬間を山下が狙ってボールを奪取しゴールに向かう。一気呵成に横浜の選手達もオーバーラップすると、山下のパスを高橋がスルーし、イサカ・ゼインが追い越してくる中村拓にボールを流し、そのボールを受けた山下が見事なコントロールショットで大分ゴールに流し込んだのだった。驚いたのは、競り合いの最中に山下のスパイクが脱げており素足にソックスのままシュートを放っていた事。

残りの時間、猛攻を見せる大分に対し、横浜はブローダーセンのスーパーセーブ、岩武の素晴らしいクリアで難を逃れ、そのまま勝ち切った。これで開幕からJ2唯一の3連勝となった。

未来志向

2022年に横浜に加入した山下がこのゲームの決勝点を挙げた事に意味がある。2019年に横浜がJ1昇格させた時の指揮官には何を言っても色んな思いは残る。さらに同じリーグのライバルとなればなおさら。これまで横浜に所属経験のある選手やスタッフが多くのチームに散らばっている。何度も口にしているが、彼らを倒していかないと上にはいけない。2021年降格の遠因の一つは、サポーターは負けた時に2019年を思い出していた事だと思う。「次頑張ろう」ではなく、「2019年はよかった」と。
良かったよ。それはもちろん。タヴァレス監督が解任されて、下平ヘッドコーチが監督に昇格すると、面白い様に順位が上がっていき、最終的には2位でJ1昇格。イバ、カルフィン・ヨン・ア・ピン、レアンドロ・ドミンゲスと攻守にスーパーな外国人選手が揃い、中山、斉藤光毅、齋藤功佑と横浜の育成組織出身の選手が活躍、シーズン途中からは特別指定選手として加入した松尾が爆発。ハマのヴァンデイラ佐藤謙介も睨みを効かす。こんな楽しい日は2006年以来だった。
ただ、それは過去の話。過ぎ去って戻ってこないから、その瞬間瞬間に心を込めて応援するのだ。そうでなかったら今いる選手に失礼だ。

カルフィン・ヨン・ア・ピンことキャラが昨日引退を表明した。このチャプターは幕を閉じ、新しいチャレンジを楽しみにしていると。きっとキャラも第2の人生で困難があると思うが、それでも2019年が良かったとは言わないだろう。振り返り、懐かしむことはあっても、あの時が良かったと後ろ向きな人生にしたくない。
伊藤がゴールを挙げて下平監督への情念を介錯し、山下がこの先への未来を拓くゴールを決めた。2019年は良かった。でも2022年はまた新しいチャプターを作る年にする。

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