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連続する夏


車道から

海へと延びた一筋のあぜ道を

その季節

僕は

何度行き来した事だろう



残された幼い足跡は

いく重にもいく重にも

踏み固まり


やがて


油蝉の乾いた声に

掻き消された



折りたたまれた

小さく 不透明な

羽の葉脈に  

僕は

蒼く深い

その小さな夏を数え始めた



地蜘蛛の作る

立体家屋は破壊され


クヌギの木を蹴り倒し

懐は

黒い収穫に満たされ


玉手箱のクワガタは

何時しか

戦う事が無くなった



捨てられたメスカブトに

哀れみを感じる事無く


脱がされた蛙の服で

ザリガニを誘惑して


アゲハ蝶の羽粉の香りに

淡い夢を見た



紙切り虫の

鈍重な動きを神聖に思い


カマキリの腹筋に嘔吐して


穴から出された

蟻地獄の弱さに失望した 



ゼンマイ仕掛けの

オケラを懐にしまい


鬼ヤンマの

逃げ足の早さに呆れ果て


クツワ虫に与えた胡瓜は

唯 唯 しおれた



爆竹に飛んだ空き缶は

雲の狭間に消え去り


蜘蛛の綿飴細工に 

恐怖し


線香花火の儚さに

あまりにも短い

その夏を予感した



思い起こせば

全て枚挙にいとまが無い



加速し続ける時間の流れ



あの日

干潟に見つけた

虹色の魚は海に溶け込み


僕は唯

この雑多な社会に 溶けただけだ




そして





網戸で見つけた



カナブンの亡骸に



月燃える



秋の物語を見つけた




(連続する夏)











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