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母娘の心を取り持つ【鶏手羽とキノコの甘酒鍋】


飲食業の一番の書き入れ時は、夕食時と週末や祝日だ。私は飲食業の女将。だから、一人娘のお嬢は、本来家族で一番楽しい時間を過ごすべきの食事時や休日は、いつも独りぼっちだった。

「いつも一人にさせてごめんね。でも、何かあったらその時はちゃんと時間作って聴くからね。」

そう言う母に、

「いいよ、忙しいんでしょ。自分でできるからいいよ。」

忙しい母を気遣ってか、いつも気丈で笑顔を絶やさない活発なお嬢だった。

そんなお嬢も寂しくなる時もある。

「今日は、一緒にお家でご飯食べれる?」

これは、お嬢からのSOSだ。そんなサインが出た時は、店を少しだけ抜けさせてもらって、お嬢と一緒にご飯を食べた。メニューは決まって「鶏手羽肉とキノコの甘酒鍋」。

甘酒につけた鶏手羽肉は、それはそれは柔らかく仕上がる。出汁汁の優しい味もまた、お野菜をやさしく仕上げてくれる。「鶏手羽肉とキノコの甘酒鍋」を食べながら、お嬢の悩み事を聞いているうちに、母の悩み事も素直に話せた。時には、いい報告もお互いにしあったりした。

中学生になると、途端に母をうざがるようになった。正常に成長している証拠!と思うようにして、遠目で見守った。たまに、早く帰ってくることがあった。店の厨房横から顔をだし、

「あれつくってよ!!」

というお嬢。ジャージ姿で店のカウンターに座って待っているお嬢。「鶏手羽肉とキノコの甘酒鍋」を作って持っていくと、人間関係に悩んでいることや、学校であったことなどを少し話してくれた。

高校生の後半になると、予備校通いが始まった。飲食業の女将は、忙しくて娘の教育どころじゃなかった。勉強よりも元気で笑顔で過ごしていてくれたらそれで良し!そんなのんきな母だったので、お嬢の成績に全く興味がなかった。お嬢は、そんな母に、時折成績表を持って厨房を訪ねてきた。

「一応、今の時点での進捗状況を伝えておきたいんだけど・・・」

「ここのところをもっと点数をあげるとね、希望大学に近づくんだけど・・・」

そんな会話が始まると、”あれ”” をつくって!!というサインだ。

そんな日は、お嬢も一緒にまかないご飯を食べる。メニューはもちろん「鶏手羽とキノコの甘酒鍋」だ。

お嬢もスタッフさんたちと一緒に店のカウンターに座った。すでに大学生となっていた先輩たちに勉強方法や試験の攻略方法などを聞きながら、一緒にまかないご飯を食べる姿は、幸せそうだった。そして、幸せそうなお嬢の姿をみるのは、女将の幸せでもあった。

大学に入ってからは、パソコンと資料をリュックに詰め込んで、研究室のゼミ活動に夢中になっていた。寝る暇もないくらいに勉強や研究に没頭していた。時々、

「疲れたー!」

とつぶやくことがあった。

あ、あのサイン!!

そう、「鶏手羽とキノコの甘酒鍋」。不規則な生活になったお嬢に、いつでも食べられるように鍋に作って冷蔵庫に入れておいてあげると、

「自分で温めて食べられるから、嬉しい!」

そう言って、真夜中の夜食に食べていた。

卒業後、すぐに家を出て独立したお嬢。外資のコンサル会社で昼夜関係なく、忙しく働いている。

体を心配して、LINEを送っても、そっけない返事しか返ってこない。そんなお嬢も数か月に1度、ふらっと帰ってくる。

「猫のちーちゃんに会いに帰るね。」

そう言って連絡が来るときは、少し心が疲れている時だ。母の私にはわかる。だから、作って待っている、「鶏手羽とキノコの甘酒鍋」を。

仕事の愚痴もあれば、プロジェクトがうまく完了できたなど、いろいろな報告をしてくれる。

「鶏手羽とキノコの甘酒鍋」は、忙しい女将の母と忙しい娘のお嬢の心を、今も取り持ってくれている。

もしも、大切な方とほんのちょっと心が離れてしまっている!と感じているのであれば、ぜひ、一緒に食べていただきたい。

そんな思いを込めて、レシピをお伝えさせていただきます。

鶏手羽とキノコ甘酒鍋

※鶏手羽肉は、甘酒に絡めて少しねかせめおく。
※みりんの代わりに天然の甘味である甘酒をつかう。
※甘さを足したい時は、砂糖やみりんをちょいたしして調節してみて。

【材料(2~3人分)】
鶏手羽元 :6~8本 (甘酒を絡めて少し寝かせておく )
甘酒   :大さじ2
すりおろししょうが 適量
舞茸  :2パック (3cm程度に切りそろえておく )
大根   :1/6本 (半月きりにしておく )
白菜  : 1/8個 適 (当な大きさにきっておく )
小松菜  :1株 (食べやすいように切っておく) 
ねぎ  :  1/4本( 斜めの輪切りに切っておく )
なめこ  :1袋 (水洗いしておく )
水菜   :少々 (3cm程度に切りそろえておく )
豆腐   :1/3丁 (一口大に切っておく) 
水    :3カップ
昆布だしの顆粒:2グラム
かつおだしの顆粒 :2グラム
醤油・酒 :各30ml

【作り方】
鶏手羽元はすりおろしショウガと甘酒をなじませておき、フライパンで油をひかずに素焼きする。表面に焼き色がついたら、フライパンから出しておく。

鍋に水、昆布だし・かつおだしの顆粒、しょうゆ、酒で鍋つゆをつくる。沸騰したら、素焼きした鶏手羽肉を入れる。ショウガと甘酒も一緒に入れる。

ぐつぐつと沸騰させて、あくをとる。弱火にして煮続けて、鍋つゆが透き通ってくるまで沸騰させつづける。

透き通ってきたら、野菜とキノコを入れる。火が通ったらなめこと豆腐を入れてひと煮立ちさせる。
最後に水菜を乗せて、一度ふたをしてむらして、できあがり。

ちなみに甘酒は疲労回復などの効果が期待されています。疲れてるんだなぁ~と感じた時などに、ぜひ作ってあげてくださいね。


#我が家の秘伝レシピ

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