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記録(5)SAVE KAKOGAWA FES 2022

 8時起床。睡眠時間4時間だ。やばいなぁ。おれは8時間睡眠を取らないと思考が安定しないので、できるだけ勝負どころでは睡眠時間を削りたくないのだ。しかし短期決戦なら問題ない。ひとまず今日までが勝負だ。

 寝床から起き上がってそのままデスクの前に座る。「SKFで夕食を食べて」の原稿を見直して細かく手を入れた。Facebookでの発信予定時刻は午前9時とした。ソーシャルメディアへのだいじな投稿は、平日なら朝夕の通勤・通学のタイミングや昼休みの直前に投稿する。被読率が高まるからだ。しかし今はお盆だ。8時台はまだのんびり朝食を食べたり家事をしている人が多いだろう。情報の拡散を瞬間最大風速的に広めるとしたら、朝の気ぜわしさがひと息つくころの午前9時がベスト──だろうか。

 とりあえずそう推測した。なにしろ人に訊く時間も調べる時間もない。お盆期間中にくわえ、コロナで人の出など読めたものではない。
 
 重要なお知らせなのでFacebookの個人のページのトップに固定し、ムサシオープンデパート朝市(MOD)のページでもシェアする。この投稿は短いように見えて800字もある。もっと短い文章で端的にお願いしたいものの、経緯をあまり省くと実際の切実さが伝わらない。はたしてどう出るか。

 送信ボタンを押す。

 さいわい投稿直後からいろんな人からすぐに反応がある。「超いいね!」を押したりコメントを返したりしていく。とりあえず重要な仕事がひとつ終わる。

 そうこうしているうちにもう一つ良案を思いついた。この事態を岡田康裕加古川市長にもシェアしてもらったらどうか。
 
 おれのFacebook友達は約1800人いるが、たくさんの人とつながっているようでいて、ソーシャルメディアの投稿というのはじつはごく限られた人にしか届かない。壁を乗り越えるためには、いかに普段つきあっていない人にシェアしてもらうかだ。
 
 おれは普段はソーシャルメディアでそれほどたくさんの人に自分の投稿を見てもらう必要はないと思っている。限られた人だけに突き刺さる投稿をして、みんなの人生に彩りをそえられたらそれで満足だ。有名人になるつもりもない。しかしきょうはそういうことを言っていられない。締切は今日の夕刻つまり6時間後。それまでに可能なかぎり多くの人に「SKFで夕食を食べる」という決断をしてもらわないといけない。駐車場もない川原のイベントにだ。
 
 どう考えても市長にシェアしてもらうのがベストだ。市内でもっとも広範囲にあらゆる階層・クラスターにつながっているのは彼である。Facebookの友だちの数はもちろん上限の5000に達している。市長本人には昨日会場に対談に来てもらったし、「かわのまち」は彼の目玉政策だ。そのうえ、夕食を食べるだけでフードロスを防ぐ意味もある。シェアしてくれるのではないか。

しかし岡田市長はソーシャルメディアの使いかたにはかなり慎重な面があるのも確かである。明石の市長は舌禍ギリギリの投稿をも辞さずに議論を起こしていくが、彼はそういうスタイルは避けている。あくまで紳士的だ。そこで念入りに書いた依頼をメッセンジャーで送ってみたら、一瞬で返事があり快諾してくれた。ほんとうにありがたい。こういうサポートがもらえるとこちらも一層やる気が出るというものだ。

 とりあえずやるべきことはやった。おそらくこれ以上はあがいても短時間で結果が出ることはない。現場の川原に向かう。

 すでに1100時、スタッフの打ち合わせが始まり、現場は前日発生した問題の修正に忙しい。初日最大の問題はキッチンカーエリアが狭すぎたことだ。これを大幅に変更する必要がある。

 前述したように、今回の会場である河川敷公園の最大の問題はだだっぴろくて真っ平らで変化がつけにくいことだ。弟の岡本亮はこの問題を解決するためにテント多数による回廊商店街を作り、キッチンカーにも変化をつけて斜めに並べた。しかし問題発生をうけ、2日目はキッチンカーを単純なストレートの列に戻す。見た目には便利で分かりやすいレイアウトになる。出店者からも「そうするのが普通だ」という意見が聞かれた。

 しかし、キッチンカーがたんに営業しやすいのと、訪れる人が歩いて楽しいのとはまったくベクトルがちがうのだ。シンプルなレイアウトがおもしろいわけではない。あちこち歩いてみて「なにがあるだろう」と探究心を呼びおこすような市場づくり。そのほうが宝探しのように楽しいのである。昔の祭りの縁日を思い出してみてほしい。どれくらいの広さなのか、どこにどんな店があるのか、全体像がよくわからない縁日のあの楽しさは、ごちゃごちゃしたレイアウトこそが生んでいたはずだ。海外旅行で地元のマーケットや蚤(のみ)の市をそぞろ歩くのがおもしろいのも同じ理屈だ。

 しかし前夜の営業ではあまりにスペースが狭すぎて物理的に見通しが悪くなってしまっており、売り上げにも営業に悪影響をおよぼしていた可能性があった。これは改善するしかない。おもしろいレイアウトだったが、一歩後退である。こういうところを次回の課題として引き継いでいくしかない。

 レイアウトの大幅変更は順番にクルマを並べればいいだけではない。たとえばピザ屋が3軒連続並ぶようなことになると興ざめがする。そういう店の内容も判断して店舗を選択して並べているのだ。急な変更なので万全にはできないが、できるだけの努力はしないといけない。こういう小さな工夫や努力の積み重ねが来場者の数だけ掛け算になり、人々の体験に「ワクワクして楽しかった」という感情の変化をもたらす。

 レイアウトを変更するとキッチンカー入退場の動線も完全に変更になる。動線設計は設営・撤収の安全や効率にもおおきく影響するイベントの基礎だ。安全はあたりまえのことであり誰も評価しないが、イベントにはなくてはならない前提条件でありベースである。出店者は協力者であり仲間なのだが、「時速6km/h以下」に指定してある会場内で速度を出してクルマを走らせたりすると、キツく注意をする。おれは交通事故で知人を亡くし、大ケガに見舞われたりもしている。自分も交通事故で一生呪いたいような経験もした。そういう意味では容赦しない。イベントの中で交通事故が起きるのは絶対に避けたい。可能性をゼロにはできないからこそ、事故の発生は押さえ込むという意志を強く持って活動するしかない。

 いいレイアウトは設営と撤収を早め、結果として出店者たちを早く帰らせてやれることになる。忙しい出店者の睡眠時間を伸ばし、翌日の準備を入念にし、行き帰りの交通安全にも直結する。満足度に貢献するのだ。面倒な要求が多かったり段取りの悪いイベント会場には誰とて出店したくなくなる。出店者がラクできるレイアウトを当たり前のように工夫しておく。こういうところで他のイベントとの違いが出てくる。

 初めての場所なので細かい修正が多いが、なんとかこなしていく。

 1400時をすぎ、いよいよ2日目の開業が近づいた。営業直前の出店者朝礼の時間である。飲食物の販売促進のための4項目の大改善を告げる時間である。(つづく)

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