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記録(1) SAVE KAKOGAWA FES 2022

 SAVE KAKOGAWA FES(SKF)が終わった。

 初めてづくめのイベントだったので、こういうことをくわしく記録しておくのも貴重だと思うので、備忘のために書いておくことにする。
 今回は現場で働いた人々やお客さんはもとより、ソーシャルメディアなどを通じてもたくさんの人にたいへんお世話になった。困り果ててのおれの投稿をシェアしてくれた100人を超える方々のおかげで、初めてづくめのイベントはなんとか成功にこぎつけた。
 加古川に住んでいるやたらに反骨的な兄弟のイベントなど放っておけばよい話である。そこをあえてステイクホルダー(関係者)になってくださったたくさんの方へのレポートの意味合いもこめている。

 13日。SAVE KAKOGAWA FES(SKF)営業当日。

 1500時の開業にむけて準備の最終局面。アウトドアサービスのブース構築を追い込む。昼近くになると気の早い出店者が続々搬入に入ってくるので焦るが、基本的に20年もやってきたことだから、カヤックと丸太と斧を用意しておけばなんとかなる。最悪なにもできなくても会場の飾りにはなる。
 それより気がかりなのは、今回は新しい試みがやたらに多いことだ。おれは最終決定者なので、担当の仕事も持ちながらある程度はアイドリング状態で手を空けておく必要があるのだ。普通のいわゆる仕事(デスクワーク)なら頭を空けておけばいいのだろうが、オレの仕事場はオフィスではない。身体も空けておく必要がある。炎熱や雨のなか、力仕事も入ってくる現場だからだ。そもそもフィジカルな要素が入っていない人間を脳のバケモノみたいにする現代的仕事は好きではない。

 今回のむつかしさについて書く。
 まず会場そのものが初めての場所であることだ。
 ひとくちに「川原」という。おれはアウトドアばかりやってきたので川原を使うのは得意だが、じつはここは川原ではなく川原を埋め立てて造成した都市公園である。しかも洪水に洗われるためレイアウトの手がかりになる植物もないし、やたらに真っ平らで殺風景。だだっ広く締まりもへったくれもない。なんならソフトボールグラウンドにはクルマを停めてはいけなかったり、コンクリート製のベンチなどが地面に打ち込まれていたりする。
 訪れた人を感動させる官能性を生みだすには人為に頼るしかない。弟の岡本亮はかなり冒険的なレイアウトをほどこした。通常は出店者の入居場所であるテントを4列ならべたうえで長大に連ね、屈曲部をほどこして回廊を作ったのである。テントを試し張りしてみたら、案の定美しさを作ることはできた。圧倒的によくなった。
 しかし問題はまだあった。この回廊のなかでお客さんの長蛇の列が発生しないか、発生した場合どう制御するか。
 さまざまに検討はしたがうまく機能するかどうか、どこまでいってもまったく未知数である。

つぎに「KMA(川まで歩こう)」のキャッチフレーズのもと、駐車場レスでこのイベントの決行を決めたことである。今回最大の冒険といってもいい。
 加古川駅前の市街地と川を接続できるのか。しかも徒歩で。
 これは「かわまちづくり」というこれまでにないすばらしい加古川市の政策を側面サポートするため、かれらが目指すものを先んじて実行し、テストケースとして提供したいと考えたのである。
 昔は川と街が自然とつながっていた。国道2号線の街道沿い、しぜんに生まれた人の動線にしたがってできた商店街が寺家町商店街である。
 しかしもはやその商店街がシャッターの展示場になって久しい。日常的に動線がまったくないところをイベントだからといって人が歩くのだろうか。まして1年でいちばん暑い時期である。
 確証や確信などどこにもない。常識で考えればそんなことはムリであろう。告知はしたもののかなりの確率で失敗する可能性があると思った。
 そもそも駐車場がなければお客さんがぜんぜん来ないという可能性もおおいにある。するとどうなるか。
 一緒に朝市を作ってきた仲間だったり、わざわざ声をかけて県外から来てもらう出店者に多大な損害が出る。信用を失うとかそういうメンツの話ではない。われわれの冒険により、その冒険の「仲間」に「実質的な損害」が出るのだ。
 反対にもくろみがクリーンヒットした場合、飲食物は足りるのか。これも大きな課題である。出店者には飲食物は十分に持ちこんでもらうようすでに案内した。過去のイベントで飲食物が圧倒的に足りず、空き腹を抱えたお客さんをたくさん出した苦い経験があるからだ。
 しかしKMAが失敗したら、出店者にたいへんな迷惑をかけることになる。初場所はこのあたりが完全な賭けだ。
 スペースはあるのだから、駐車場は作ろうと思えばいくらでも作れるのである。
なぜわざわざイバラの道を行くか。
 100メートルの距離すら歩きたがらない二足歩行動物の群れという、クソみたいにモータリゼーションが進んてしまった地方都市・加古川の次の未来を考え人々の生活を見越せば、ここにいち早く踏み込む意志と可能性を持つのはおれたちしかいないのである。
 とにかくやることに決めた。

 新しい要素がほかにもある。会場を一文字に横断させてつくった70mのドッグレースの開催も不確定要素だ。一般参加型ドッグレースなんてものに、いったいどれくらいの人(イヌ)が参加してくれるのかまるきり不明。推定すらできない。
 そもそもスタッフにドッグレースを見たことのある人間が1人もいない。唯一事前視察に行ってくれた沼ちゃんは体調を崩して偶然にも会場すぐそばの加古川市民病院に入院してしまい、イベントを上空から見守るしかなくなった。
 イヌがレース場から飛び出して逃げまどう(足の速いイヌはよくあるらしい)とかさまざまなトラブルが考えられるが、レース用のイヌなので「あまり言うことは聞かないが人は噛まない」ということらしい。ここ数年、イヌという動物についてかなり理解を深めたが、「イヌ」とひとくちにいっても犬種や繁殖家の取り組み、しつけの入れかたによってほとんど別の動物になる。
 さまざまな点から考えてみたが大問題になる可能性は低いと判断した。近年は犬種の理解や品種改良も進んで飼いイヌもおとなしくなったし、飼われかたも昔よりずっとましになった。日本では愛犬家はあまり社会的に優遇されていない。カフェやレストラン、商業施設でも連れて入れるところはまれである。そもそも遠慮して飼っている傾向が強い。そのうえ、あまり凶暴なイヌを人が集まるイベント会場に連れてくるモチベーションはわきにくいし、毎週末の朝市でもイヌが問題になったことはない。

 暑いさなかのイベントなので、散水コーナーを作って大量の水をまくことにしたのも初めて。熱中症対策と会場の彩りが目的だ。1トンのタンクを4個買ってポンプとスプリンクラーのテストをくりかえした。本番でちゃんと水が出るだろうか。また1日目終了後に水を会場外で詰め直して運搬するのにトラックを往復させないといけないのだが、スタッフの勤務時間も通常より遅くまで延びる。
 このあたり、どう出るか。

 そのほか会場周辺を多数の歩行者が歩くことによって渋滞が発生しないか。交通事故を誘発しないか。市長が来てトークショーに出てくれることになったがどう接遇すればいいか。お客さんや出店者が熱中症でバタバタ倒れた場合──など根本的には自信を持てないままスタートせざるをえない課題が多すぎるのである。

 1500時開場。とりあえずアウトドア用品は並べたが心ここにあらず。会場全体もまだ状況が見えてこないので浮わついた雰囲気である。
 客数は少ない。開場直後だし一番暑い時間帯だからしかたがないだろう。夜がメインのイベントだし。

 しかし肝心要の駅から開場までの動線をチェックしにMTBを飛ばしてみると、ほんの数人しか歩いていないではないか。

 嫌な汗が出る。ほんとうに客は来るのか。(続く)

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