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記録7 SAVE KAKOGAWA FES 2022

 始まった2日目の営業はあきらかに手応えがよかった。初日より人が多い。昨日のお客さんがもういちど来てくれている人も多い。

 お客さんの動線確認にJR加古川駅まで見に行ってみる。要所に配置した地元サッカーチーム、チェント・クオーレ・ハリマの選手たちは想像をはるかにこえる笑顔で呼び込みをしてくれている。健康的で全身からみなぎる若く溌剌としたインパクト。見回っていてもなんだか自然に笑ってしまうくらい楽しい。

 ちなみにこの改札前に並ぶ選手たちはすでに選考をすませてあった。かれらに今日の任務を伝えるときにこう伝えた。

「きみたちはサッカーチームのメンバーだろ。お互いのことをよく知っているはずだ。ついては右から左へ、お調子者の順番に並びなさい」

 めちゃくちゃ元気な若者ばかりが集まるプロサッカーチームのなかで、さらに自他共に認めるお調子者を選りぬき、駅改札前に配置したのである。

 改札から出た乗降客は驚くはずだ。自動改札の向こうに、見たことのないくらい愛想のいいニイちゃんたちがユニフォーム姿でズラッとならび、日に焼けた顔に白い歯をだしてこちらを見てニコニコ笑っているのだ。

 問答無用にイイ。おれがこの国の日常にほしかった、ちゃんと存在しているのに活かせていないリソースとはこういうものだ。キミら最高だわ。

「駅の改札前での呼び込みは困る」とJRの職員にクレームを受けるひと幕もあったが、この職員は「でもあまり細かいことは言いたくないんで」と理解してくれ、改札前で声を出さなければOKということになった。笑顔が最大の武器なので問題ないのである。

 おれのFacebook投稿を見て「来たよ」と訪ねてくれる人が多くてびっくりした。

 朝9時に投稿した来場のお願いはすばらしい勢いでシェア数を伸ばしている。稀有なことにコメント数よりシェアの数のほうが圧倒的に多い。「投稿を見て来たよ」とわざわざあいさつしてくれる人もたくさんある。最終的にはシェア数102件にまで達した。

 もともと2日目に来る予定だった人にくわえ、1日目に来場して2日目も来ることにした人。会場で働いているスタッフや出店者自身が1日目のようすをソーシャルメディアに投稿しているので、それを見て来てくれた人も相当数いる。

 よし、なんとかなる気がしてきた。

 ドッグレース(ルアーコーシング)は、ドッグスポーツの周知広報と一般からの気軽な参加を募るため、本番直前に無料化した。初日100頭の参加があり予想以上の盛況となった勢いをかって2日目はさらに参加者数を伸ばそうとしている。(最終的には120頭の参加があり、およそ半数が一般参加。初回としては驚くほど受け入れられた)

 準備段階では不安げだったドッグレースのスタッフたちの顔はいきいきと輝き、終始忙しそうにしている。

 このドッグレースをチェント・クオーレ・ハリマの選手が手伝っているのだが、これもフィールドにユニフォームが見栄えがしてたいへんいい。当初から準備していたかのようなハマり役。

 サッカー選手たちは自主的に会場のゴミ拾いもしてくれている。なんてありがたいことだと思っていたら、そういえばサッカー選手たちは球技場やスタンドのゴミ拾いをするのを習慣みたいにしているから、慣れてるんだということに気づいた。奇跡的なマッチングがここでも起きていた。

 みんないつもやっているとおりに、目の前の仕事をやる。それが集まったときに予想もしないよい結果を生む。

 こうした「創発」があちこちで起きていた。

 創発というのは聞き慣れないかもしれないが、自然界に起きる不思議な現象である。たとえば生物の世界ではよく挙げられるのがアリである。

「小さなアリは目の前のエサを集め、穴を掘っていただけなのに、いつしか巨大なアリ塚が地面の上にボコボコでき、周辺の環境すら変わってしまった」

みたいな現象のことをいう。小さなことをやっていたらレベルのちがう結果に結びついてしまう。不思議なのだが、そういうことがこの世界ではまま起きる。

 これはイノベーションの大きな要因の一つで、企業が他社がマネできない地位に達するにはこの創発をいかに起こせるかにかかっていると考えている。およそ人はこういう「レベルの違うできごとが起きうる」とは考えていない。1+1=2、2×2=4になると思いこんで、ロジックの奴隷みたいに生きている。

 現実はそうではない。

 毎週の朝市も、われわれがやっていることは基本的なインフラを整えることに終始していて、それに小さな小さな改善を加え続けていくことだ。株式会社ムサシは主役ではない。人生を楽しむ力を持っているのは出店者でありお客さんのほうなのである。それが発揮され、思わぬところで創発を起こしていく。

「創発が起きやすい場を作る方法があるはずだ」

そう信じて場所作りをしてきた。2日目のSAVE KAKOGAWA FES(SKF)の現場を見ていると、それぞれの現場が担うべき役割以上のものが明らかにできつつあるのが見て取れた。

 おれ個人にもひっきりなしにお客さんが来るのだが、ときどき現場からふっと消えて、離れた場所から会場を見物してみる。そのときにこういう現場ができていればいいという具体的なイメージがある。映画の1シーンなのだが『紅の豚』の飛行機工場Piccolo S.P.Aと『もののけ姫』のタタラ場である。


 それぞれが自信を持って目の前の仕事に集中している。全体の一部であることに誇りを持っている。予期せぬことが起きることを楽しめる状態にある。こういう状態に、その日その場所がなっているかどうかを確認する。

 これが実現できていれば安心していい。自分の持ち場にもどっておれも自分の目の前にいる人を楽しませるだけだ。(つづく)

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