夜道で子どもを拾った

 加古川の堤防を夜中の11時にクルマで走っていたら、白いサッカーウエアを着た子どもがひとりで歩いている。

 どういうことだ!?

 堤防の上、勢いよくクルマが走る歩道もない車道を、路傍の雑草の背丈よりも小さな男の子が歩いているのだ。驚いてクルマを止めた。

 話しかけると「大久保から歩いてきた」というではないか。お母さんに家を追い出され、おばあちゃんの住む加古川まで歩いてきた──と話す。

 歩いて!?うーん、まあなんだか知らんがとりあえず乗れよ、送ってやるよ。というと遠慮せずに乗ってきた。

 出発したのは夕方の6時ごろ。歩いてようやく加古川までやってきたという。バイパスづたいに来たんだとか。JR大久保駅から加古川駅を歩くと、最短距離でも13.5kmある。最短ルートは知らないだろうから、クルマで来たことのある道をたどってきたのだろう。16─17km歩いたとすると子どもの足で5時間といえば、たしかにそんなもんだ。

 晩ご飯は食べたのか?と問うと「食べてない」。

 大久保の親元に送り届けるか、それとも警察かとおもったが、それよりとにかくなにか食わせてやらないとかわいそうだ。吉野家が開いているかと思ったがさすがに11時をすぎるとやっていない。セブン・イレブンに寄ってオニギリを買う。「もっと買えよ。おっちゃん金持ちだぞ」と言うが、昼の学校の給食が焼き肉で、腹一杯食べたのであまり腹が減っていないのだという。

 4年生とは思えないくらい小さく痩せてもいるが、おれも食が細くあまり腹が減らない子どもだった。ウチの息子たちもこういう体型の子どもなので親近感をおぼえる。疲れているのか声は小さいが、ハキハキと質問に答えるまともな子だ。公文式で算数のトロフィーをもらったらしい。ヤンチャなので妹をいじめては怒られるんだという。「軽トラは初めて乗った」と。

 虐待事件かとも思ったが、家を放り出されたのは5回目というから、こりゃハチャメチャで親が手を焼くタイプの子どもかもな。「おまえみたいなワルガキは出て行け!おばあちゃんの家にでも行ったらええ!」とママに言われ、ほんとうに来ちゃった──てなところか。

 帰ったらママにまた怒られるといって心配している。それじゃやっぱりおばあちゃんの家にしようということになった。警察には届けない。こんな夜中から警察になど行っても、めんどくさい調べ物が増えるだけだ。早く子どもを安心して寝かせてやればいい。

 おばあちゃんの家への道順は覚えているという。夜にもかかわらず、案内させるとほとんど迷わずに宝殿駅前のマンションにたどりついた。地理勘のいい子だ。降りたらマンションのエレベーターに向かってずんずん歩いていく。

 もはや0時まえ。部屋の前までいっしょに行くと、パジャマ姿のおばあちゃんが出てきてびっくりしたようす。そりゃそうだ。いきなり孫と知らん坊主頭が夜中に訪ねてくるのだから。「じっとしてられない子なんです」とのこと。やっぱりそういうことだろうな。やさしそうなおばあちゃんで安心する。あまり怒らないでやってくれとママに伝えてくれるようお願いしておいた。

 「よかったな」と握手してやると嬉しそうに握り返した。廊下の端のエレベーターに向かい、乗り込むと後を追ってドアの前まで見送りにきた。ドアの締まりぎわにもう一度握手して別れる。

 じゃあな、おやすみ。

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