見出し画像

「値が飛ぶ」- ひどい相場の最終形。欧州通貨危機(1992)の経験から。

 標題に貼ったのはドル・韓国ウォンの短期チャートである。結構ひどい相場付きだ。2019年にはあれだけ日本のメディアが書いていた韓国ネタであるが、ここまで酷くなっているのに今はあまり日本では報道されていない(都合の悪いニュースは報道しない、ということだろう)。

 3/23東京時間22時頃から画面上の価格が@1273近辺からピクリとも動かなくなった。何か起きたのか? 想像だが、あまりに相場の変動が激しくなって*売りと買いの価格差(相場用語でターン=Turnという)が広くなったのではないか。市場流動性が枯渇してくると起こりやすい現象である。

 例えばそれまでは(売)1273.50  -(買)1273.40のような板で売り買いが成立していたのが、取引参加者が取引を止め始めると  1274-1273 → 1280 - 1250 → 1300 ー 1200 のようにターンが拡がってくる流動性が落ちると手掛けた取引の手仕舞いが難しくなるからだ。

 「損切丸」が経験した最悪の事例が1992年の欧州通貨危機。忘れもしない9月16日、英国ポンドが特にマルクに対して暴落した。ソロスが「イングランド銀行を打ち負かした日」として伝説になったあの1日である。

 「あれ、画面がおかしいぞ」

 為替の画面で時折出てくるポンドの値がどんどん下がるので、モニターが壊れたのかと思った。変に思った筆者がブローカーにT/N(Tommorrow Next、翌日-翌々日の1日物の金利)をチェックするとオファー(資金の出し手)が消えているという。みんながポンドをショート(売り)にしたためポンドを保有している銀行が激減したのである。

 その当時イギリスの政策金利は10%「損切丸」2億ポンドほどショート(資金不足)。少し経ってから出てきたオファーが@15%。かなり高いと思ったが気持ち悪かったので取りにいった。しかし**「フル・アップ」

 **マネーマーケットは基本銀行の信用をバックに取引される「無担保」取引が主流。担保を求めない代わりに「貸し手優位の原則」というものがあり、資金枠が一杯ならこの時のように「フル・アップ」と言って取引を断れる。資金の取り手は貸し手の名前を聞いたり、本当に枠が一杯なのかを確認したりできない。なのでこの時の例なら、貸し手が金利がもっと上がりそう、と感じれば(枠があっても)「フル・アップ」にしてしまえばいい。甚だ不公平なマーケットなのだが「無担保」なのでやむを得ない部分もある。

 この後が大変だった。@15%の次のオファーが@20%。ターンは(貸し手)@20%-(取り手)@15%「損切丸」、意を決して取りにいったがまたもや「フル・アップ」体中から汗が吹き出る

 次のオファーは@50%だが、これも「フル・アップ」資金不足が埋まらない。次は@100%これも駄目。資金繰りをショートのままにできないので、やむを得ず取ったのが1週間で@150%。保険の意味もあって2億5千万ポンド調達し、翌日のお金を5千万ポンド余らせた

 この一発でそれまで半年間積み上げてきた収益が吹き飛んだ。やり場のない怒りと虚脱感。「流動性枯渇」の恐ろしさを痛感した場面だった。***救いは余らせた5千万ポンドを翌日@200%で運用できたことぐらい。

 ***なんとか損を取り返そうと「損切丸」その後もあきらめずに取引を続けた。結局イギリスは今回のBREXITではないが、ERM(European Exchange Rate Mechanism、欧州為替相場メカニズム)を離脱するのだが、その際ポンド防衛のために行った+5%もの利上げ=@10%→@12%→@15%を同日中(9/16)に取り消した。その場面、6か月物@15%で資金放出(金利が下がる方のポジション)を試みたが、結局カウンターパーティーが現われず「未遂」に終わってしまった。

 今のようにマーケットが危機的になってくると、特に取引規模の小さい、いわゆる「エマージング・マーケット」でこのような「値が飛ぶ」現象が起こり易い。現在のように圧倒的にドル需要が高まると、ブラジル・レアル、メキシコ・ペソ、韓国ウォン(いずれもFRBの設定した「Doller Liquidity Lines」 の対象先)等の「エマージング通貨」に対してドルを交換してくれるカウンターバーティーが激減するからだ。

 もう明日(3/24)になろうとしているのに、ドル・韓国ウォンの為替画面はフリーズしたまま(苦笑)。これは極端なことが起こる前触れかもしれない。とにかくこうなると「エマージング通貨」でポジションを持っていること自体が大きなリスクになる。ますます手掛けるトレーダー、投資家が減って悪循環してしまうのがこれまでのパターンだ。

 とにかく流動性の低い Bold Markets は要注意。嫌なフェーズに入ってきたと感じている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?