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若者のことを知りたかったらこれを読め!「 映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ―――コンテンツ消費の現在形」

今回はどうしても気になって仕方なかったこの本を取り上げてみます。


「映画を早送りで観たことはありますか?」

20~69歳の男女で倍速視聴の経験がある人は34.4%、内訳は20代男性が最も多く54.5%、20代女性は43.6%。次いで30代男性が35.5%、30代女性が32.7%だ。男女を合算すれば、20代全体の49.1%が倍速視聴経験者だという。

マーケティング・リサーチ社
クロス・マーケティング「動画の倍速市長に関する調査」(2021)
をもとに著者が作成

倍速視聴とは、Netflixをはじめとする動画配信サービスで実装された「0.5倍速~2倍」「10秒送り/10秒戻し」の機能を使って視聴することです。
2時間の映画を2倍速で視聴すると、半分の1時間で観終えてしまう計算になります。また10秒送りでシーンを丸々飛ばすことによって、短時間で映像を視聴することも可能です。

著者の稲田豊史さんは、倍速視聴でいち早く映画を観終えてしまおうという風潮がここ最近強く感じるようになったことからこの本の執筆に至ったそうです。

「AERA」2021年1月18日号には、ある種の人々にとって我慢ならない記事が載っていた。タイトルは「『鬼滅』ブームの裏で進む倍速・ながら見・短尺化 長編ヒットの条件とは」。そこには、映画を通常の速度では観られなくなったという男性(37歳)の、「倍速にして、会話がないシーンや風景描写は飛ばしています。自分にとって映画はその瞬間の娯楽にすぎないんです」という声が紹介されていた。
同記事中、別の女性(48歳)は、Netflixの韓国ドラマ『愛の不時着』を「主人公に関する展開以外は興味がないので、それ以外のシーンは早送りしながら」観たそうだ。
この記事に怒り、嘆き、反発した人は多かった。

P11~12 序章 大いなる違和感


倍速視聴する要因として、次のようなものが挙げられていました。

  • 映像作品の供給過多

  • 「コスパ」を求める若者たち

  • 作品とコンテンツ、鑑賞と消費

  • 「ファスト映画」という効率的摂取

  • 最初と最後がわかればいい

  • “予習”のための倍速、“平凡なシーン”は不要

  • 「観たい」のではなく「知りたい」

もちろん他にもたくさん挙げられています。

ただ、ざっくりとピックアップしたものだけでも、今の若者の価値観や環境が伝わってきませんか?


わたしはこの本を通じて『現代を生きる若者の心理を知る』ことができると確信しました。これまで読んだどの本よりもお気に入り。いい出会いができたと思っています。

著者もこのようにおっしゃっています。

9本のウェブ記事をベースに書籍として構成するにあたり、倍速視聴が現代社会の何を表していて、創作行為のどんな本質を浮き彫りにするのかを、突き詰めて考えることにした。
その意味では本書は、「消費」と「鑑賞」の視点を行き来しながら綴るメディア論であり、コミュニケーション論であり、世代論であり、創作論であり、文化論である。

P296 おわりに

現代社会における「創作」についてまとめたところ、若者を中心とする文化やコミュニケーション、それに違和を感じる世代間の問題、果てはメディア全体のあり方についてまで広がっていった感じでしょうか。
すべてが深いところでつながっていて、倍速視聴はほんの一部だとも述べています。


TVアニメシリーズ『鬼滅の刃』(第一期)の第1話。主人公の竈門炭治郎は、雪の中を走りながら「息が苦しい、凍てついた空気で肺が痛い」と言い、雪深い中で崖から落下すると「助かった、雪で」と言う。
しかし、そのセリフは必要だろうか。丁寧に作画されたアニメーション表現と声優による息遣いの芝居によって、そんな状況は説明されなくてもわかる。

P30 序章 大いなる違和感

実際にアニメ第一話<https://abema.app/f4RW>を見てみると・・・確かに言ってますね。

この丁寧すぎる説明の背景には、視聴者の「リテラシーの低下」とともに制作側の「わかりやすさの追求」があるとしています。
映画を観終えた直後にはTwitterに感想があふれかえる時代。「おもしろかった」「映像に引き込まれた」「迫力がすごい」というポジティブな感想も、ごく短いフレーズになってしまうため細やかなディティールが伝わってきません。
またネガティブな感想も「期待外れだった」「よくわからなかった」という何がどう期待に応えられなかったのか、何がどのようにわからなかったのかが伝わらない感想ばかりです。そしてネガティブな感想ほど影響力が大きいため、制作側としては「よりわかりやすい映画づくりを」という意識になってしまいがち、というわけです。


倍速視聴がもてはやされるのは、タイムパフォーマンス(タイパ、時間効率)を重視する若者の影響が大きいとしています。

Netflixをはじめとする定額制動画配信サービス(いわゆるサブスク)は、いつでも好きなだけ作品を見ることができます。それは1本1本の「作品」から、大量の「コンテンツ」へと視聴者の意識を変えてしまうことになりました。

映画館で2時間2000円をかけて作品を味わうよりも、PCやスマホですきま時間を使ってより多くのコンテンツを短時間で視聴するスタイルへと変化してきました。さながら、映像作品は「鑑賞するもの」から「消費するもの」へと変わってしまったわけです。

より短時間で観終えるためには、2倍速再生や10秒送りのテクニックを駆使して、いち早く終わりまで観てしまうことが大切です。これがタイパの高い視聴法なんですね。


そうせざるを得ない背景には、「とりあえず内容を知っていたら周囲と話が合わせられる」「会話に入れるくらいの知識が欲しい」「途中経過よりも結論が知りたい」という欲求があります。SNSで横とのつながりが強い現代の若者だからこそ、「『みんな知っていること』についていけないことは致命傷となる」と肌感覚で理解しているからなのでしょうか。
ファスト映画と言われる違法動画も、多くは内容をギュッと圧縮してあらすじと結末がわかるように編集されているそうです。「ようするに~」と話せるくらいの知識が得られるわけです。


その結果が「タイパ重視」の文化です。
「ムダなことはしたくない」
「(相手に)わかりやすく説明してほしい」
「必要かどうか(指示者が判断して)最初に提示してほしい」
という、どこか他人任せで自己中心的な考え方を生み出してしまいました。

責任の一端は、批判を恐れてわかりやすさばかりを追求した我々世代にもある―――そう感じざるを得ません。

先ほど『現代を生きる若者の心理を知る』ことができると言いましたが、『若者と共に生きる我々の価値観を見直す』きっかけとなる本でもあると、改めて感じています。他者批判ではなく、自己省察の視点で読み進めると、これまたおもしろい気づきがあっていいですね。2度3度と読み返したくなる素敵な本に出会えました。


先月惜しまれつつ閉店したTSUTAYA若里店。
今回紹介したのは、最後に読みたかった本として買ったうちの一冊でした。
いい思い出と貴重な学びを与えてくれてありがとう!




明日も佳き日でありますように

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