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「苦い涙」


 フランソワ・オゾン監督「苦い涙」を観たので感想を。ドイツの映画監督ファスビンダーの作品「ペトラ・フォン・カントの苦い涙」を現代的に再構築した作品。彼の戯曲を元にした「焼け石に水」以来のオゾン×ファスビンダーなんて最高に決まっていると思っていましたが、予想を裏切らない濃密な85分でした。(ちなみにファスビンダー版は未見なので、16日からの特別限定上映で観る予定。ということで現時点の感想。)

 ファスビンダー版はファッションデザイナーのペトラと助手のマレーネと友人から紹介されたカーリン、本作はそれを映画監督ピーターに置き換えて彼の助手カールと女優シドニーから紹介されたアミールの関係が描かれています。完璧な装飾の部屋でアミールに夢中になって我を失い感情を爆発させるピーターは、哀しくもどこかユーモラスでまさにオゾンの真骨頂。
 恋愛における独占欲や支配欲、映画監督と役者というパワーバランスの描き方は現代的で「TAR/ター」との共通点も。ピーターが「映画祭で質問攻めにあってうんざり!」と叫ぶところはオゾンの本心が垣間見えるようで面白かったです。愛だけでなく全てを失ったように見えるピーターに唯一残ったのが「映画」というのは、皮肉であると同時に希望も感じられました。

 夫が珍しくパンフレット(見出し画像)を買い、私は劇中でシドニーが歌う「人は愛するものを殺す」が頭の中でリフレインしながら劇場を後に。助手カールがチラリとのぞく表紙はとても象徴的で、さすが大島依提亜さんによるデザイン。カールが着こなすタイトな衣装も素敵なのでご注目ください。ちなみに7月にはリニューアルしたル・シネマでファスビンダー特集上映もやるようなので、そちらも行かなければ。

 今月は「怪物」「ウーマン・トーキング」も公開中で嬉しい悲鳴です。また台風がやってきたり不安定なお天気ですが、皆様引き続きお気をつけて。