とある雨の日

気持ちがいいほどざーざーと雨がふった今朝は、ふと傘をさしたくなった。
車社会なもんで、フード付きの服が好きなもんで。このところどうやら傘をさす機会がなかったらしい。今日のその時まで、そのようなことは考えたこともなかった。降りしきる雨の中を歩こうだなんて最後に思ったのは、いつのことだろうか。

これまではずっと折りたたみ傘を使っていた。無印良品で買った、えんじ色をした折りたたみ傘で、肌身離さず持っていた。リュックの飲み物を入れる場所にすっぽりと収まってくれるから、これが可愛い。でも折りたたみ傘は、やはり折りたたみ傘でしかない。コンパクト故に、骨組が細い。

つまるところ、今朝はしっかりとした傘をさしたい気分であった。
それほどの、ざーざー降り。
水泳選手の飛び込みのような雨。傘の先にいる僕まで潜り込まんと、その身を投じてくる。そんな本気の雨だから、しかとこちらは迎え撃ちたい。

どこぞで買った母の傘を持ち出す。傘のグリップを握ると、その安心感が伝わってくる。

***

雨の日の地面には、別世界がひろがる。

水を弾く音が響きわたり、波紋が世界を作り、水溜りが世界を写す。
歩けばまるでパラレルワールドが足元に広がったかのように思えてくる。その出来上がりつつある世界を踏んづけても、崩れはしない。これまた波紋が広がるだけで、完璧な世界がそこにはある。でもきっと、その世界が完璧に僕らに見えることはない。

行こうにも行けないその並行世界は誰のものでもなく、ただただ広がっている。
でもそこは完璧であると同時に、何やら悲しげでもある。

完璧が故に、悲しげなのか。

触ると冷たいから、悲しげなのか。

そうやって想像するのが人間の限界で、散歩から帰るころには雨はあがっていた。
これまた雨が降る日を待つしかない。


2020.4.26
おけいこさん

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