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カラフルをぶちまけろ。 前編

その車は、クラシックのフォルムに、シートもボディも

ピカピカの可愛いピンク色をしたオープンカーで、

まさにインスタ映え間違いなし!

その車に乗ると、まるでタイムマシンのように、

時間を加速して進むことができるらしい。

加速はするけど、歳をとるわけではないってとこは、

さすが女子のことをわかってらっしゃる。

頭にスパンコール付きのツノを生やした、真っ白なユニコーン以来の

スイートな乗り物の存在は、脳みそが虹色をした、ファンタジーの住人である

私ぐらいしか信じない。

白馬に乗った王子様に出逢うように、私はいつかこの車に出逢うのだろうと思っていた。

けど、もうちょっとドラマチックな場面でもよかったんじゃない?

ファッションが大好きな私は、オリジナルブランドを立ち上げて、

ネットでハンドメイドの服を売っていた。

いつものように、お気に入りのピンクのヘッドフォンで、ガンガンに音楽を流しながら

デザインスケッチに合わせて、服をビリビリに解体している時だった。

絶好調に集中していたから、すごい形相をしていたに違いない。

後ろからものすごい風圧がきて、ヘッドフォンを吹き飛ばし、髪をバサバサにした何かに

全ての感情が一瞬で怒りにスイッチした。

睨むように振り返った目の前に、大きなヘッドライトがあった。

怒りを止められなかった私は、ヘッドライトに思い切り頭突きをしてやったが、

逆に跳ね返されて、大量の服の山に倒れ込んだ。

星がちらつく頭の中で、ぼんやり頭突きをしたヘッドライトについて考えた。

ピンクのオープンカー ピンクのオープンカー ピンクのオープンカー!

頭の中で、エコーのように言葉が響き、意識もはっきりしてきた。

考えるより先に体が飛び起きると、目の前にはピンクのオープンカーがいたのだった。

「待ってたよ!」

車に向かって声をかけると、そいつは嬉しそうにエンジン音を鳴らしならした。

可愛い奴め。

実はこの日のために用意していたものがある。

真っ赤な革のキャリーバック。

それを持って、スキップしながらノリノリで車に乗り込んだ。

首に引っ掛けたヘッドフォンからは、大音量で音楽が溢れている。