捨てろ。 後編
僕は意外と冷静で、それはこいつの存在を信じていたからなのか、
そのまま運転席に飛び乗りハンドルを握り閉めると
流れるようにアクセルを踏み込んだ。
ピンクの艶やかなシートからは、車の色と同じくらい
甘ったるい香りを放っていて、目眩がするほどだった。
ものすごいスピードで車は走り出し、
体はシートに押さえつけられるほどで、
暗い外の風景はあっという間に通り過ぎ、
街の光が、線になって通り過ぎてゆく。
ネオンの光がパチパチと、フラッシュのように見えた。
鳥のように、僕のノートが群れをなして逆方向に飛んでった。
前の彼女と、彼女が出て行った扉が一瞬見えた。
煙を上げて、赤と青に点滅したパソコンが吹っ飛んでった。
火花をあげながら、たくさんの巨大ロボットが通り過ぎて行った。
あれは僕が創ったものだっけ?
コンビニのビニール袋、明太おにぎり、骨つきチキンが、どっさり飛んでった。
流石にこれには笑った。
たくさんの、本当にたくさんの、僕が創ったものや、身の回りにあったものが
煙を上げ、壊れながら、どんどんどんどん通り過ぎて行った。
挫折、暗闇、つまらないもの、焦り・・・いろんなものがほどけていくようで、
その過程は脱皮みたいだと思った。
目をむき出し、前のめりにハンドルを握り、アクセルを思い切り踏み込んで、
どこまでもどこまでも、ピンクのオープンカーを走らせた。
「ヒィエエエエエエエーーーー!!!」
息が続く限り、変な声を上げながら、僕は笑っていた。
大口を開けて、涙と鼻水を出しながら、息もできないくらい笑っていた。
最高だぜピンクのオープンカー、お前は誰に作られたんだ?
コンチクショウ、いつかこれに負けないものを生み出してやる。
怒りは時に人を成長させる。
チクショウ、誰の言葉だっ!?