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オンライン。 後編

ビュンビュンと、景色は高速で流れていく。

その景色に目をこらすと、たまに見えるものがあった。

巨大なピンヒール。

真っ赤な口紅。

色とりどりのメイクパレット。

粉っぽいファンデーション。

大きな鏡に向かう自分。

3年前、私は私を捨てた。

短大の頃は、流行りのメイク、流行りのファッションで、

出来るだけ沢山の人がするような行動を心がけた。

目立たないように、意見だって多数派に合わせた。

そうやっていれば、一人になる事はなかった。

大学を卒業し、社会に触れた途端、世の中は個性が大事だと言いだした。

見た目も中身も、雑誌のコピペの様な私を、社会は受け入れないと悟った。

全てが嫌で嫌で、自分の存在さえもいやで、

ビリビリに破いて捨ててしまったあの日、

オンラインの世界にするすると流れていくことは、

至極自然なことの様に思える。

そこでは、みんなが私を一人の実在する存在として扱ってくれたのは

とても居心地が良かった。

でもスイッチを切ってしまった途端、その関係は途絶えてしまう。

まるでそこに何もなかったかの様な空虚感に、最近気づいてしまっていた。

ピュウウウウウ・・・

風が耳に当たって音を立てた。

高速で通り過ぎる景色に、

ごちゃごちゃと考えていたことが吹っ飛んでいく。

ぐちゃぐちゃと絡み合った電気コードがほどけていく。

私は今まで何をやっていたのだろう。

生きていた、雑誌のコピペで着飾っていたのも私で、それも個性だ。

私は生きていた。ちゃんと生きていた。

自力で生きる術を見つけ、努力し、生きていた。

暖かい日の光が、体を温める。

向こうから来る風を、思い切り吸い込んだ。

ハンドルを握り直し、自力でアクセルを踏み込んだ。