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オンライン。 前編

頭がズキズキする。

眉間を指でつまみながら、パソコンのキーボード横に置いた、ビタミン入りの

スポーツドリンクを手にした。

体には気を使っているつもりだ。

2台のパソコンモニターには、オンラインゲームの戦場が映し出されていた。

このゲームを始めて、そろそろ3年になるだろうか、課金で装備を増やしながら

しまいにはパソコンやキーボードにもお金をかけ、ゲームを中心に生活を変えていった。

家から出なくなって、そろそろ2年になる。

着々と続けていたが、最近は熱が冷めてきたのか、ゲーム内のパーティメンバーに飽きたのか、

なんか気持ちが向かない。長時間対戦していると、頭痛までしてくる。

あー、イライラする。足元で絡まる電気コードを踏みつけた。

集中力がなくなったときに見るのが、SNSやまとめサイトだ。

そこでちょいちょい「ピンクのオープンカー」という言葉を目にするようになった。

オンラインゲームのパーティメンバーの何人かに聞いてみた。

その車は、クラシックのフォルムに、シートもボディもピンク色をしたオープンカーで、

その車に乗ると、まるでタイムマシンのように、時間を加速して進むことができるのだそうだ。

ビンクのオープンカー、私には似合わないな〜なんてことを思ったのを記憶している。

そのピンクのオープンカーが、、、今私の目の前にいる。

私はいつ家を出たのか?

どこからこの車はやって来たのか?

その辺りの説明をすっ飛ばして、その車は今目の前で

低いうなり声を上げている。

私はといえば、課金で手に入れたゲームの装備を身につけていて、

あぁ、こりゃ夢だな、なんてぼんやりと思っていた。

車は再び唸り声を上げ、お腹に響くほどの振動で、運転席に私を招き入れた。

「ピンク嫌いなんだよ!」と吐き捨てながら、

乱暴に運転席に乗り、ドアを閉めようとした瞬間、車は勢いよく走り出し、

頭が持ってかれそうになったのを耐え、しがみつくようにハンドルを握った。

外の風景は色でしか認識ができないくらいで、赤や黄色水色などが帯状に通り過ぎていく。

3年間ゲームにどっぷり浸かっていたけど、夢にまで見たのは初めてで、

興味の温度が下がってきたこのタイミングで見るのも、変だなと思った。