見出し画像

No.1173 3月9日、サンキュー!

4日前に上京した目的の一つは、母校の大学教授になっていた大学時代の友人が、3月9日に定年退官するということで、最後の授業を聴講することにありました。

寒い日でした。しかし、彼の最後の講義を言祝ぐような快晴の日でした。サンキュー!

新宿に向かう満員電車の中で、池袋駅から白杖の70代の男性と60代の付き添いの女性が乗ってきました。「優先席」ではない普通席でしたが、目ざとく見つけた50代の男性が、
「どうぞ、ここへ!」
と導き、自分の席を譲りました。
「有り難うございます!」
と盲目の男性はハッキリと礼を述べて座りました。すると、隣にいた20代の男性もつられるように立って女性に席を勧めました。女性も頭を下げて座りました。気持ちの良い光景でした。小さくて暖かい色の豆電球が辺りを照らしているようでした。サンキュー!

母校の大学のある街の奥まった一角に「昌久」という蕎麦屋さんがありました。懐かしさのあまり50年ぶりに訪ねようと思いましたが、道が思い出せません。表通りの四つ角に交番が出来ていたので尋ねてみました。30代の黒縁眼鏡をかけた若々しい警察官が、地図を指さし懇切丁寧に場所と行き方を教えてくれました。別れ際に、
「気をつけて行ってらっしゃい!」
と見送ってくれました。サンキュー!
店は、今も注文の電話が何度も鳴る忙しさでした。

万葉集研究の大学教授となった友人の最後の記念授業は、14時から始まりました。200人ほど入る教室が満席になるほどで、学部の学生や教員は言うに及ばず、他校の学生や教員もいたようです。大学時代の先輩たちに交じって、われわれ同級生有志も拝聴しました。参加者には、3月5日に発行されたばかりの著書『上代文学史を学ぶ』(翰林書房、2,200円)がプレゼントされました。その太っ腹の心遣いに、サンキュー!

彼の最後の授業のタイトルは、
「神社を訪ねる―行間を埋める旅―」
です。
「兵庫県西宮市に転居したことを契機に、神社に注目することで古代史に近づけると気付いた。」
ということで、彼の座学からフィールドワークを含む研究への取り組みのさまざまな視点論点からのお話を約90分聴きました。若い研究者や学生達にとっては、興味深い話のてんこ盛りだっただろうと思いました。多様な解釈と明解な自説に、サンキュー!
 
個人的には、彼の「序詞」(じょことば)に対する考え方に唸りました。
一般的に「序詞」の解釈は、
「和歌などで、ある語句を導くための前置きとする言葉。枕詞(まくらことば)と同じ働きをするが、五音(四音)とは限らず、二句以上にわたる。」
と辞書に説明されているとおりです。

しかし、彼の考え方は、少し異なっていました。
「何をどんな言葉で伝えるか、なぜその言葉を序詞として詠んでいるのかを考えた時、それは読者に対するアピールの強さであり、詠んだ人の知力能力を知らしめるものである。」
というのです。歌人の力量を識ることの出来るのが「序詞」であるとする解釈は、私にとって斬新な考え方であり、大いに学びました。サンキュー!

講義の後、彼は学部生や先生方からの慰労会に出席したので、我々は50年前にもあった新宿東口のビヤホール「ライオン」(現在の新宿ライオン会館は、1973年からだそうです)で古希を祝うささやかな会を催しました。Y子は千葉から、F夫は静岡から、M雄は埼玉から、そして私は大分から参集しました。互いの50年を語り、無事を喜び、再会を約束しました。店内の喧騒に負けない元気な声で話しました。力をいただきました。サンキュー!


※画像は、3月9日の最終講義の1葉です。私は、前の方の席で視聴できました。サンキュー!