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No.841 一冊の絵本

昨日のコラム「840 石ころのかたち」で、向田邦子の『眠る盃』に収められた「字のないはがき」のことについても触れました。すると、noteのお仲間のナツメさんからコメントを頂戴しました。
 
「先日、友人から薦められ『字のないはがき』をよんだところです。学校の朝の時間に読み聞かせしたそうです。子供たちにも、伝わったと思います。」
「文が角田光代さんで絵が西加奈子さんの絵本です。」
とありました。
 
向田邦子のエッセー「字のないはがき」が絵本になっていることを全く知りませんでした。すぐに県立図書館に行き、借りてきました。『字のないはがき』は、向田邦子=原作、角田光代=文、西加奈子=絵で、小学館から2019年5月27日に初版第1刷発行されたものだと知りました。
 
画像は、その表紙の一部です。角田光代さんが、向田邦子の原作を子供向けに読みやすくし、西加奈子さんの挿絵がその世界を独特の視点で象徴的に描いており引き込まれます。

西さんのお父さまは、大分県杵築市狩宿のご出身だったそうです。彼女が幼い頃には毎夏杵築に帰省していたとかで、奈多海岸が最も思い出深いという内容の新聞記事を、杵築市にある「海鮮亭ざこば」という料理店に掲げられた新聞で読んだ記憶があります。
 
その絵本『字のないはがき』の表紙には、一輪のタンポポが描かれています。タンポポの花言葉として、欧米ではタンポポの綿毛を一吹きで飛ばせられたら恋が叶うとされたので「愛の神託」であったり、タンポポがまっすぐに太陽に向かう事から相手を真に思うという意味で「真心の愛」であったり、風が吹くと綿毛が飛んで行ってしまうので「別離」の意味が与えられたりしているようです。
 
「字のないはがき」は向田邦子の一番下の妹・和子さんが疎開して病気を患って帰って来るお話で、迎えた父親の情の厚さに思わずほろりとしてしまいます。和子さんの無事を祈る「神託」、両親の一途な「真心の愛」、疎開という形の「別離」をタンポポに重ね合わせたのかなと思って読みました。
 
思いがけず、絵本の最後の編集のページにその答えがありました。
「お話に登場する『ちさないもうと』は、向田さんのいちばん下の妹・和子さんのこと。絵の中のたんぽぽは、『ちさないもうと』を象徴しています。」
とありました。和子さんの孤独な思い、綿毛のような繊細で儚い感じ、けなげに生きようとするちいさな命の強さのようなものとして表現しようとしたのかもしれません。
 
ナツメさんのお陰で、嬉しい本との出会いをいただきました。有り難うございました。