見出し画像

No.1160 三楽フォーエバー!

「少しのことにも、先達はあらまほしきものなり。」
エッセイスト兼好法師は、『徒然草』(52段)「仁和寺の法師」で、そう述べています。
 
1988年(昭和63年)、当時、国語科長(余談ながら、「長」がついたのは、人生でこの1回だけです。あっ、私は「冗長」です。)だった私は、B4サイズの「国語科通信」(手書き)を始めました。そのコラムはリレー形式で、国語科の同僚にお願いしました。
 
今日のコラムは、「国語科通信」に寄稿いただいたT先生のユニークで興味深い文章です。御用とお急ぎの方も足を止め、お目通し下さいますようお願い申し上げます。

私は酒が好きだ。晩酌はかかさない。ほとんど毎日飲む。時には、夜のとばりがおりる頃、都町界隈を徘徊する。世人の風評もあまりよくない。
 ところで、酒にもいろんな銘柄がある。私はよく焼酎を飲むが、焼酎にもいろいろあり、中でも「三楽」は洒落た名前だと常々思っている。なぜなら、この「三楽」という語は、中国の『孟子』という書物の「尽心章句上」に出てくるからである。
 「君子に三楽あり。而(しか)うして、天下に王たるは与(あづか)り存ぜず。
  父母俱(とも)に存し、兄弟故(こと)無きは、一の楽しみなり。
  仰ぎて天に愧(は)ぢず、俯(ふ)して人に怍(は)ぢざるは、二の楽しみなり。
  天下の英才を得て、之(これ)を教育するは、三の楽しみなり。」
 世の中には、権力を握ることにのみに汲々としている人物や、権力を握っても疑心暗鬼で部下を信用しない人のなんと多いことか。
「竹林の七賢」も酒を飲み清談した。私もこの「三楽」を実行せんがため、さあ、今夜も晩酌だ!  

(「国語科通信」第2号、昭和63年3月12日発行より)

今から約2,300年~2,400年も前の儒学者・孟子が述べた言葉だそうです。
「両親や兄弟が無病息災であることが第一の楽しみ。」
「天にも人にも恥じることがないのが第二の楽しみ。」
「優れた人材を得て教育できることが第三の楽しみ。」
本当にその通りで、「楽しみ」は「感謝」にも置き換えられる言葉だと理解しています。

コラム文末の「!」に強い意思を感じ、T先生への思慕は増すばかりです。
そのT先生は「カラスの鳴かない日があっても、彼があちこちで飲まない日はなかろう。」と揶揄されるくらい、飲んで、飲んで、また飲みました。奥さんと飲み屋で合流し晩酌することもたびたびです。また、その二人の息子たちにも幼いころから同席させるという英才(?)教育ぶりに、目が点になったこともあります。最初に覚えた漢字は「酒」?
 
たぶん、おそらく、いや間違いなく、人生の飲み代だけで、もう1軒家が建っただろうとの憶測も十分真実味のある御仁でした。そんな先輩も、今や傘寿が近くなりました。
 
コロナ禍により飲む機会が失われ、楽しく、面白く、身になるお話を間近で先輩方から聴くことが出来なくなりました。口角泡を飛ばしながら、ついでに盃も飛び交わした日々が、懐かしく思い出されます。そして、今更のように、何て贅沢な時間を過ごさせてもらったのかと感謝もしたくなるのです。


※画像は、クリエイター・黒糖焼酎飲もうでぃ!/前田“まえぴょん”秀樹(黒糖焼酎エヴァンジェリスト)さんの、タイトル「自然遺産登録 決定!」の1葉をかたじけなくしました。「奄美大島 酒屋まえかわの黒糖焼酎の壁」とのこと、もうパラダイスです!お礼を申し上げます。