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No.566 「水無月」は「水の月」のはずなのに

「目には蚊を耳には蝉を飼っている」
「第11回シルバー川柳」(2011年9月)で応募のあった9,441作品の中から入選(20句)となった中村利之(大阪府)さんの、身につまされるような五・七・五です。
 
こうして書きながら、私も右に左に浮遊するアメーバのような、蚊のような、蟻のような、ちっちゃな新種のゴキブリの蠢きのようなものを目の中に感じています。そればかりか、部屋の中にいるのに、「チー」とも「ジー」ともつかぬ蝉のような鳴き声も聞こえているのです。耳の奥底まで「爺」になってしまったのか…。
 
「老人の悲しみよこんにちは!」
とでも言われているような気分に浸りながら、愛犬チョコと夕方の散歩に出ました。すると、裏の雑木林から聞こえてきたのが、例の蝉鳴でした。小山全体が、鳴き声で木霊しているようでした。えっ、もう鳴いたの?
 
鬱陶しい梅雨が終わるとバトンタッチしたかのように鳴き始めるセミです。大分の「梅雨入り」は、平年より7日遅い6月11日でした。ところが、その17日後の6月28日(昨日)、な・な・何と、史上最速にして6月中の「梅雨明け」となりました。梅雨らしい雨の降り続く記憶の無いまま夏本番を迎えようとしているのです。我が人生初の経験です。蝉たちは、そのことを予測していたという事でしょうか?自然の驚異です。
 
尤も、例年、7月中旬の梅雨明けという過去の経験から、梅雨明けの修正報道もないとは限りません。それでも、深刻な水不足、電力不足、それらによる物価の上昇が思いやられ、一層暑い夏を避けることはできなさそうです。「ラニーニャ禍」のもたらす世界的気候変動の波をまともに受けている私たちです。
 
「梅雨」は、「梅雨前線」の影響によるものでしょうが、東アジアの国々に特徴的で、韓国、北朝鮮、中国や台湾などに見られると言います。彼らの国や地域も、日本と同じく短い梅雨だったのでしょうか?さらに、「梅雨」とは言わず「雨季」と呼ばれるものが、東南アジア、オーストラリア、中東、ヨーロッパ、アフリカにもあるそうです。それらの地域や国々の、例年比による今年の傾向も気になるところです。グレタ・トゥンベリさんの活動と厳しい物言いが、強い現実味を帯びてきます。
 
ただ、老いの身に襲いかかる猛暑は容易に拭えませんが、既に聞きづらくなりつつある我が耳に蝉を飼っているのかという不安や疑問だけは、ぬぐうことがました。
 
俳人の西東三鬼(1900年~1962年)の句に、
「おそるべき君等の乳房夏来る」
という戦後すぐの頃の句があります。颯爽と歩き働きだした女性たちの姿も、乳房に象徴される生命の根源的な輝きのようなものも「畏れ」と評したこの俳人の感性とその句に、私は「ほ」の字です。
 「算術の少年しのび泣けり夏」
という句跨りとなった新傾向の歌もあります。夏休みも終わろうとする頃のやり残した算数の宿題に泣きそうになりながら悪戦苦闘した少年時代を思い出させてくれた句でもあります。今年も、どこかで、誰かが?