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No.1172 忘れん坊?

大学時代の恩師は、2011年(平成23年)に95歳で雲隠りました。『建礼門院右京大夫集』の校本研究の第1人者でした。
 
一昨日、本当に久しぶりに隅田川のほとりにある恩師宅を訪問しました。お嬢さんは、いつの間にか80歳を迎えておられました。足取りが少し覚束ないのですが、お肌はつややかで、目で物を言います。目から鼻へ抜ける反応の速さ、言葉遣いの美しさにシビレます。
「八十路女は言葉遣いで身を飾る」
 
下手な私のジョークにも付き合ってくれる気前の良さ、話のたびに笑顔でうなづくサービス精神の良さに、話ははずみ、あっという間に小一時間が経ちました。腕時計を見て驚き、「再会」を約してお暇をし、鳥居に一礼をして近くの駅に向かいました。
 
駅に向かって300mほど行った時、ふとジャンパーの忘れ物に気づきました。粗忽者にふさわしく面目躍如です!急いで恩師宅に引き返していたら、足を引きずるように、お嬢さんがジャンパーを広げてこちらに向け歩いてくるのが見えます。慌てて走っていきました。
 
「ああよかった!駅まで車で行こうか、歩いて追いかけようかと迷ったけれど、まだすぐだからと思って…。」
「はい。袖を通しなさい。」
と言って、ジャンパーを広げてくださいました。その心遣いに感激です。恐縮しながら着ました。背中に温かいものを感じました。
 
忘れ物をしたおかげで、思いのほか早い「再会」となりました。
ふと、田舎の亡き母が、私が忘れ物をして取りに帰った時に言った言葉、
「忘れもんは、恥ずかしい事じゃねえで。忘れもんのお蔭で難を逃れたんかも知れんで!」と言ってくれたことを思い出しました。
 
忘れん坊?いや、忘れん爺?
私は無事に帰りつきました。


※画像は、クリエイター・すえぽん🍩旅と援農とドーナツさんの、「神社の手水舎」の1葉をかたじけなくしました。この日、私も手と口を浄めさせていただきました。お礼を申しあげます。