見出し画像

No.324 癒しと潤しの朗読ライブ

 朗読をするのがとても上手い生徒がいました。教師よりも、ずっとセンスが良くて、思わず聞き惚れてしまいます。感情移入があって、間や緩急や強調表現が巧みです。そのような感性は、幼児期の頃から芽生えているものなのでしょうか。

 ひと昔ほど前のお話ですが、中学生の時の一人の女子生徒の「読み」にクラスメイトが感化されたことがあります。彼女が読み始めると、教室がシーンとしてみんなの集中力が急に高まるのです。どんな息継ぎをし、どんな間を置き、どんな風に話せば、あんなに魅力的な読みになるのか、自分なりに考えて聴き入っている、そんな態度に見えました。M子効果は絶大で、三年間でクラス全員の読みがレベルアップした程です。

 これも随分前のことですが、カミさんと「BRICK BLOCKで聴く 原きよ朗読ライブ」に行きました。原きよさんは、大分放送でアナウンサーを務め、結婚と子育てを経て仕事を再開。米国留学で朗読に関心を持ち、太宰治の短編作品の面白さに気づいたといいます。

 原さん曰く、
 「『愛されたがり屋』だった太宰の語りかけるような文体は、ライブの朗読によく似合います。普通なら秘めておきたいような気持ちでも、正直に書いているのが太宰治です。だから、どんな登場人物にも共感できる点が見つけられるんです。」
と太宰作品の魅力を説明されました。他人に自分の弱みを晒すことができた太宰治、実は、とても強い人間だったのだという逆説的な説明もされました。

 その原さんのその日の朗読の演目は、森鴎外の『高瀬舟』と、太宰治『貨幣』でした。特に『貨幣』は、台本無しの「一人語り」です。もう痺れちゃいました。情熱をもって惚れ込んだ作品の読み聞かせ(朗読)に生涯を捧げようとする人の、力みのない自然体の語りは、乾いた地面にじわっと水がしみこむように、私の心の渇きを潤してくれました。
 磨き込まれた「朗読」が与えてくれる世界の広がりは、いいようのない楽しさでした。

この記事が参加している募集

国語がすき

現代文がすき