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No.571 「ふるさとの水をのみ水をあび」 山頭火

8月1日は、「水の日」です。2014年(平成26年)に制定された「水循環基本法」で、「国民の間に広く健全な水循環の重要性についての理解と関心を深める日」として位置づけられた、国が定めた日です。空梅雨と言えそうな今年、水不足が予想されます。避けがたい台風によってもたらされる雨が、恵みの慈雨であれと祈らずにはおられません。
 
「水の日」が制定される1年前の2013年4月20日発行の「北海道新聞」のコラム「卓上四季」に、こんな興味深い記事がありました。「穀雨」を意識しての執筆のようです。
 
 地球は「水の惑星」とも呼ばれる。どれほど豊富な水に恵まれているのか―▼直径約1万3千キロの地球が、もし大きな風船ほど(直径1メートル)の球だったら、表面積は畳の2畳分ほどで、そのうち1畳半弱が海という。なるほど、ほとんどが水に覆われている▼が、その縮尺で計算すると、海の深さは平均0,3ミリしかなく、体積は660ミリリットルでビール大瓶1本分ほど。淡水にいたっては、たった17ミリリットルで、そのほとんどが氷河など氷として存在している。飲める水はわずかに5ミリリットル。スプーン一杯にも満たないという▼科学絵本の「地球がもし100cmの球だったら」(世界文化社)に教わった。(以下、略)
 
「バーチャルウォーター」(仮想水)のことを知ったのは、2016年のテレビドラマ「重版出来」(漫画本「重版出来」で松田奈緒子さん、2012年から「月間!スピリッツ」に連載中)によってです。そのことは、「仁の音」の「No.560 入道雲一座は、740万個のお握りを抱えている?」でも紹介しました。
 
実は、このバーチャルウォーターは、ロンドン大学東洋アフリカ学科のアンソニー・アラン名誉教授が、1990年代に提唱した考え方だそうです。食糧などを輸入する際に、その生産に必要な水も輸入したことになると考えて、輸入した水の量を計算したものだといいます。食材を他国から輸入すると、その生産に必要となるはずだった水を国内で使わないですんだことになります。輸入した穀物や畜産物には、目の前に見えるもの以上に大きな背景まで輸入しているのだという認識を持つことを意識した提言のようです。
 
環境省のページには、仮想水計算機(バーチャルウォーター量児童計算一覧)なるものがあり、畜産製品(4)、主食(8)、野菜(31)、果物(14)、その他(2)、乳製品(5)、調味料(12)、のみもの(6)など、計82種の品目が計算できるようにしてあります。そして、具体的に、このような例を示してあります。

 「例えば、1kg のトウモロコシを生産するには、灌漑用水として1,800 リットルの水が必要です。また、牛はこうした穀物を大量に消費しながら育つため、牛肉1kg を生産するには、その約20,000 倍もの水が必要です。つまり、日本は海外から食料を輸入することによって、その生産に必要な分だけ自国の水を使わないで済んでいるのです。言い換えれば、食料の輸入は、形を変えて水を輸入していることと考えることができます。」
 
バーチャルウォーターの概念は、水不足が問題となっている国で、食料や衣服などの生産時にどれだけ大量の水を使用しているかと言う問題意識から生まれたものだそうです。ありとあらゆる商品がグローバルに取り引きされる現代、品物を輸出する国々の水の大量消費に依存していることに、私は気づいていませんでした。水の量だけでなく、生産のための労働力も、想像するだけで商品が味わい豊かになり、生かされてくるのかも知れません。
 
「水」の文字は、世界に共通の「>|<」という記号に似ています。見ようによっては、「命の源」を意味している形にも見えます。1971年(昭和46年)、ジョン・レノンは「イマジン」を世界に発信していますが、半世紀を経た今、新たに世界が想像力をたくましくすることが、次世代につないでゆく地球にとって最も大事な精神活動なのかも知れません。決して、武器をもつことではなく…。