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No.1110 万葉人からのメッセージ

教え子に飯牟礼(いむれ)君という珍しい苗字の男子がいました。色白で、ひょろっと背が高く、天然パーマで、シャイで遠慮がちに語る、友達思いの子でした。
 
「新しき 年の初めに 思ふどち い群れて居れば 嬉しくもあるか」
万葉集の原本(万葉仮名)には、次のようにありました。
「新 年始尓 思共 伊牟礼氐乎礼婆 宇礼之久母安流可」
(新しい年の初めに、気のあった仲間たちで集まっていると、何と嬉しいことか!)

これは、『万葉集』巻19・4284番、道祖王(ふなどおう)の歌です。道祖王は天武天皇の孫で、奈良時代の皇族の一人だそうです。
1200年前にも正月に料理を囲み、親しく和やかに団欒(まとい)を過ごしただろう事が伺われます。家族や友人がうちそろって新年を祝い、家族の無事や人々の安寧を願ったのでしょうか。「いむれ」は「居群れ」であり、「人々が集う」意味なのでしょう。その伝統は、庶民にも根付き、継承されています。皆さまで、おつどいでしょうか?
 
その後、道祖王は756年(天平勝宝8年)に聖武太上天皇の遺言により孝謙天皇の皇太子になりましたが、翌757年(天平宝字元年)素行の乱れを理由に皇太子を廃された上に、橘奈良麻呂の乱に与したとして捕縛され、拷問にかけられて亡くなった悲劇の人物です。
 
史実の重みが、新年の祝意の歌を一層意味深く哀切にします。春風に乗って、万葉人からのメッセージが送り届けられるように思います。
「この時を、友や家族と群れて、心を通い合わせられよ!」
と。


※画像は、クリエイター・KEN壱.S − 蜃気楼旅団さんの、「春風駘蕩」の1葉をかたじけなくしました。お礼申し上げます。