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No.1129 去りゆく人

『文選』は、中国南北朝時代の南朝梁の昭明太子蕭統(しょうとう、501年~531年)によって編纂された詩文集です。全30巻。
 
その1500年以上も前にあらわされた『文選』の巻二十九に「古詩十九首」が載せられています。作者未詳の十九首の五言詩です。その十四首目は、以下のようです。
 
 去者日以疏  去る者は日々に以て疏(うと)く
 来者日已親  来る者は日々に已に親しむ
 出郭門直視  郭門を出でて直視すれば
 但見丘與墳  但だ丘と墳とを見るのみ
 古墓犁為田  古墓は犁(す)かれて田と為り
 松柏摧為薪  松柏は摧(くだ)かれて薪と為る
 白楊多悲風  白楊 悲風多く
 蕭蕭愁殺人  蕭蕭として人を愁殺す
 思還故里閭  故(もと)の里閭に還らんことを思ひ
 欲歸道無因  歸らんと欲するも道に因る無し

 去り行く者は日を追って疎遠になり
 やって来る者は日ごとに親しくなる
 城門を出てまっすぐに見通すと
 ただただ丘と墓とがあるばかり
 古い墓は耕されて田んぼとなり
 松や柏は伐り割られて薪となる
 白楊には悲しげに風が吹いて
 寂しげな音は私を愁えさせる
 故郷に帰りたいと思うのだが
 帰るべき方法が見つからない
 
去る者にも、来る者にもいろんな理由や事情があります。そこには人間関係の真実があり、出会いと別れの物語が生まれ、万人に当てはまる情趣や感慨が感銘を与えるのだろうと思います。
 
知人の急逝に、人の世の、人の命のはかなさを思わずにはいられません。むなしさ、かなしさ、さびしさに包まれています。思い出すことを供養としたいと思います。


※画像は、クリエイター・nibeさんの「白梅の花」をかたじけなくしました。その白さに浄化される思いです。お礼申し上げます。