移住コラムその4絵日記

あなたの「おいしい」が、わたしへの対価に変わるときー拝啓、西条より。移住コラムその4

おきてがみ編集部の長尾愛里です。

昨年9月から愛媛県西条市に移住しました。現在は「Next commons lab 西条」という一般社団法人に所属し、フードディレクターとして食に関する仕事に携わっています。

移住の経緯については、移住コラム1回目でまとめています。

今回紹介するのは、6月22~23日に主催した「たべものシネマ」というイベントです。このイベントは、「たべもの」をテーマにした映画を上映し、見た後に映画にまつわる料理を食べながら感想を共有するというもの。今回上映したのは、以下の2本です。

●カレーライスを一から作る
http://www.ichikaracurry.com/

●人生フルーツ
http://life-is-fruity.com/


(会場は、Next commons lab 西条が運営するコワーキングスペース「紺屋町dein」)

共感してくれる人はいるのだろうか

映画会を開催しようと考えたきっかけは、「人生フルーツ」という映画を見たかったからです。「人生フルーツ」は、2017年に「ポレポレ東中野」という東京の小さな映画館にて上映されました。「人生フルーツ」は、愛知県に住む建築家の津端修一さんと修一さんを支える英子さんのご夫婦が、ゆっくり、コツコツ積み重ねている日常を切り取ったドキュメンタリー映画です。

東京で「人生フルーツ」を最初に観た時、映画のもつ優しさと美しさと温かさに心を揺さぶられました。ただ、もう一度観たいなと思っても、DVDレンタルや配信を全く行っていない映画だったので、「自主上映会をやるしかない!」と決意。直接、配給会社に自主上映会申し込みを行い、映画を手配してから、開催を決定しました。上映後には、ゆるく感想をシェアする会もやりたいな……と構想が膨らんでいきました。

土日の2日間でイベントを開催したいなと思ったため、もう1本は「カレーライスを一から作る」という映画上映を決めました。探検家で医師の関野吉晴さんが武蔵野美術大学で行った課外ゼミの1年間を追ったドキュメンタリー映画です。野菜や米、肉はもちろん、スパイスや塩、器やスプーンまでもすべて自分たちで一から作るというあらすじに心惹かれて、ぜひ上映したい!と思いました。

また、上映後のごはん会では、「カレーライスを一から作る」上映後はスパイスカレーを、「人生フルーツ」上映後にはビーフハヤシを作ってお出ししました。

(カレー好きの友人がスパイスを混ぜるところから作るカレー。美味しかった!)

実際に上映会を行ってみて驚いたのは、思った以上に多くの反響があったことです。今まで東京にいた時は、人口も多い分、興味関心は多種多様、どこを切り取ってイベントを企画しても、共感を持って参加してくれる人は必ずいました。

一方、今回の映画会の開催地は、愛媛県西条市。しかも、西条市に来て感じていたのは、「文化を気軽に楽しむ機会」が少ないことでした。映画館も隣の市に行かないとないですし、「人生フルーツ」のような単館上映系の映画ですと、なおさら観ることが難しい環境です。そんな環境の中で、この企画に共感してくれる人がどのくらいいるのだろうか……と不安に思いつつ、一か八かの気持ちで開催を決定しました。

しかし、そんな不安は杞憂で、「気になる!」「行きたい!」と言ってくれる人が予想以上に多くいました。全部の回で満員御礼!とまではいきませんでしたが、2日間で60名くらいの方々に楽しんでいただけました。この企画に喜んでくれる人がいて、映画を観ている時に涙してくれている人がいて、「すごく良かったです」と言って会場を後にしてくれた人がいて。なんてありがたいことなんだろうと。

(上映会後は、ご飯を食べながら映画の感想を語り合いました。この時の空気感がやわらかくて、すごく良かった。)

自分の作り出した味に、お金を払ってもらうということ

映画会の開催にあたって、「1つチャレンジしよう」と思っていたことがありました。それは、自分で作った食事を参加者の方にお出しし、きちんと対価をいただくことでした。

今、私は「Next commons lab 西条」メンバーとして、食のコンサルティング業での起業準備中をしながら、食全般のプロデュースを行う会社で修行をしています。そこでは、私の学びたいところとする地域産品の商品化だけではなく、飲食店の経営指導やメニュー開発、食品ブランディング事業なども一括して行っています。

修行をさせていただく中で、地元飲食店のコンサルティングにも携わるようになり、楽しい反面、後ろめたい気持ちがありました。それは、自分は「食べものを提供してお金をいただく」経験をしたことがなく、コンサルティングをする中で「自分ごと」としての解釈が追いついていない部分があったからです。

何ごとも、自分の中の経験がないことを語りたくないという我を持つ私。もともと飲食店でしっかり働いたことはなく、特に食系の学問を専攻していたわけではないので、「自分で食事を出して、お金をもらうなんておこがましい」と思っていました。

しかし、前述したように、修行先で飲食店のコンサルティングの手伝いを既に行う中で、「そんなことも言っていられない!」と感じるようになりました。

以前、「なぜ、きついと言われる飲食業に、生涯を捧げる人がいるのか」という問いに出会ったことがあります。その答えは明白で、「食べた人が『おいしい!』と喜ぶ瞬間が忘れられないから」です。しかも、その感動した味に対価も払ってもらえる。この感覚について、私は「きっとそうなのだろうなあ」と共感はしましたが、実感を持って理解することができていませんでした。

その感覚を実感として理解するために、自分の作り出した味で一度、勝負してみよう。そんな決意をして、イベント当日を迎えました。緊張しながら出したのは、映画にも出てきたビーフシチューをアレンジした、ビーフハヤシでした。参加者のみなさんに食べてもらったところ、「おいしい!」と言っていただけました。

「おいしい!」と言って、その味にお金をもらえる瞬間の、ありがたいこと。うれしいこと。これがあるから、飲食の世界で生きていこうと思えるのだなあ、と。「ああ、この感覚か!」と、実感をもって理解しました。アートや建築、映画、小説などの「芸術」と呼ばれるものたちと同じく、料理も「自分」の中からしか生まれないものであり、それに共感してもらえることの、なんと尊いこと。味を認められるのと同時に、自分も認めてもらえるような感覚。この瞬間のことはずっと忘れないだろうなあと実感しました。

(お出ししたビーフハヤシ。レシピにあった通り、とにかくゆっくり、少しずつ煮込みました。)

地方のコンパクトなコミュニティの中で生きるということ

「おいしい」と言ってもらえることに、味をしめた私。定期的に、自分の作り出す「食」の味試しをしていく場を作っていこうと決めました。色々と面白いことを企てていければ良いなあ、と思っています。

最後は良かった!と終わった映画会ですが、開催までの1週間は自分の準備不足によるトラブルの連続で、西条の様々な人に手助けしてもらって、無事に開催までこぎつけられました。上映30分前に、映画上映に必須なパソコンの充電器が壊れた時は、さすがに半泣きでした……。何か困ったことがあったら、気軽に相談できる人や応援してくれる人が身近にいて、人が人をつなげてくれるコンパクトなコミュニティのあり方は、地方ならではだなあと実感しました。

いくつもの学びがあった映画会。これで終わるのはもったいないので、第2回、第3回と続けていけたらいいなあと思っています。


(カレーを作ってくれたもえちゃん(右)。おいしいカレーをありがとう。)

毎度恒例の絵手紙もつけて、終わりとさせていただきます。読んでいただき、ありがとうございました!


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