見出し画像

東京都美術館「マティス展 Henri Matisse: The Path to Color」感想と見どころ



1.概要

東京都美術館で開催されている「マティス展 Henri Matisse: The Path to Color」を観てきました。例の如く「日曜美術館」、「新・美の巨人たち」を見て興味が湧いたのですが(笑)、とても楽しめる展覧会でした。

20世紀を代表するフランスの巨匠、アンリ・マティス(1869-1954年)。強烈な色彩によって美術史に大きな影響を与えたフォーヴィスム(野獣派)の中心的な存在として活動したのち、絵画の革新者として、84歳で亡くなるまでの生涯を、感覚に直接訴えかけるような鮮やかな色彩とかたちの探求に捧げました。彼が残した仕事は、今なお色あせることなく私たちを魅了し、後世の芸術家たちにも大きな影響を与え続けています。

世界最大規模のマティス・コレクションを所蔵するパリのポンピドゥー・センターの全面的な協力を得て開催する本展は、日本では約20年ぶりの大規模な回顧展です。絵画に加えて、彫刻、素描、版画、切り紙絵、晩年の最大の傑作と言われる南仏ヴァンスのロザリオ礼拝堂に関する資料まで、各時代の代表的な作品によって多角的にその仕事を紹介しながら、豊かな光と色に満ちた巨匠の造形的な冒険を辿ります。

展覧会公式HPより

2.開催概要と訪問状況

展覧会の開催概要は下記の通りです。

【開催概要】  
  会期:2023年4月27日(木)-8月20日(日)
 休館日:月曜日 ※ただし、8月14日(月)は開室
開場時間:9:30~17:30、 金曜日は20:00まで ※入室は閉室の30分前まで
一般料金:一般2,200円 大学生・専門学校生徒1,300円 65歳以上1,500円
     ・小学生・中学生・高校生は、会期中無料
     ・身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健
      福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方とその付添いの方
      (1名まで)は、会期中無料。

展覧会公式HPより

訪問状況は下記の通りでした。
    
【日時・滞在時間】
日曜日の13:30 頃訪問しました。全8章とボリュームのある展示だったのですが、導線が工夫されているのかテンポよく鑑賞することができました。グッズも買って16:00頃会場を後にしました。

【混雑状況】
結構混んでいましたが、混雑しているというほどではありませんでした。会期末なると大混雑かもしれません。

【写真撮影】
4章~6章のフロアは撮影可でした。

【グッズ】
ポストカードの種類が豊富で迷ってしまいました(笑)。マティスは「窓」がテーマの作品が多かったそうですが、窓にちなんでかポストカードやポスターを入れる額縁のグッズが推されていました。

3.展示内容と感想

展示構成は下記の通りでした。

1章 フォーヴィスムに向かって 1895–1909
2章 ラディカルな探求の時代  1914–1918
3章 並行する探求─彫刻と絵画  1913–1930
4章 人物画と室内画      1918–1929
5章 広がりと実験       1930–1937
6章 ニースからヴァンスへ   1938–1948
7章 切り紙絵と最晩年の作品  1931-1954
8章 ヴァンス・ロザリオ礼拝堂 1948–1951

出品リストより

幅広い作品群からマティスの研究熱心さが伝わる、知的好奇心を刺激される内容でした。ほぼ年代順に作品が展示されていて、各年代で色と形(1章~2章)、平面と立体(3章)、装飾と単純化(4章~6章)といったテーマを徹底的に考え抜いて制作にあたっていたことがよくわかりました。会場では完成作と構想段階の素描が並べて展示されていたり制作風景を記録した写真があったりと、制作過程を想像できる工夫がされていました。マティスは自分の感覚を表現するというよりは色や形が感覚に訴える要素を突き詰めることに関心があったと思うのですが、素材の持ち味を最大限に活かすシェフのような制作態度だなと思いました。

会場内の年譜
同時代のアーティストとの交流も豊富で、色々な刺激を受けたんだろうなと想像できました。

展示には第一次世界大戦の閉塞感の中で制作された「窓」をテーマにした一連の作品や大病の後に取り組んだ切紙絵の連作も含まれていて、逆境をバネに傑作を生みだす人間力も感じることができました。

制作に対するストイックな姿勢の一方で、作品自体は鑑賞者に対して開かれているように感じられました。自他ともに集大成と認めるロザリオ礼拝堂について「神を信じているかどうかにかかわらず、精神が高まり、考えがはっきりし、気持ちそのものが軽くなるような場所」(展覧会キャプションより)を目指したと語っていたそうですが、こうした感触はマティス作品に共通しており、このあたりのバランス感覚が作品が愛される所以かと思いました。

4.個人的見どころ

これだけ作風の変遷が激しいと全ての期間がストライクというのは難しいのですが、私としては特に2章、4章に好みの作品が集中していました。

◆アンリ・マティス「グレタ・プロゾールの肖像」1916年末 ポンピドゥー・センター/国立近代美術館蔵
かなり簡略化した描写なのですが、モデルの知的な魅力が伝わるところが凄かったです。青と黄色というのはマティスが良く使う配色の1種ですが、黄色の鮮やかさによって絵の印象を自在にコントロールしているように思いました(この作品の場合は黄土色に近く落ち着いた感じがします)。

アンリ・マティス「グレタ・プロゾールの肖像」1916年末 ポンピドゥー・センター/国立近代美術館蔵
※グッズのポストカードを撮影

◆アンリ・マティス「金魚鉢のある室内」1914年春 ポンピドゥー・センター/国立近代美術館蔵
◆アンリ・マティス「窓辺のヴァイオリン奏者」1918年春 ポンピドゥー・センター/国立近代美術館蔵
この2点は色の持つ印象がダイレクトに伝わってきて、インパクトがありました。「窓辺のヴァイオリン奏者」は亡霊のような人物に加えて、窓から見える赤く染まった空が終末的なものを感じさせ、赤ならではの動的な緊張感がある作品だと思いました。一方で「金魚鉢のある室内」は青が基調で金魚鉢の外の世界は時が止まっているかのような印象を受けるのですが、こちらは青の持つ静的なイメージが活かされているように感じられました。

アンリ・マティス「金魚鉢のある室内」1914年春 ポンピドゥー・センター/国立近代美術館蔵
※グッズのポストカードを撮影

◆アンリ・マティス「ニースの室内、シエスタ」1922年1月ごろ ポンピドゥー・センター/国立近代美術館蔵
白い服の女性の清楚な雰囲気とお洒落な室内の描写の取り合わせが魅力的でした。人物が画面の下側に斜めに配置されていて、人も含めて室内空間全体でシエスタ(休憩)を表現しているように思いました。

アンリ・マティス「ニースの室内、シエスタ」1922年1月ごろ ポンピドゥー・センター/国立近代美術館蔵

◆アンリ・マティス「赤いキュロットのオダリスク」1921年秋 ポンピドゥー・センター/国立近代美術館蔵
華やかで目を引く作品でした。衝立とヴェール(?)、絨毯とキュロットが一体化して見える一方でモデルの女性の描写は立体的(特に腹筋)で、不思議な存在感がありました。

アンリ・マティス「赤いキュロットのオダリスク」1921年秋 ポンピドゥー・センター/国立近代美術館蔵

◆アンリ・マティス「馬、曲馬師、道化」(「ジャズ」より)1947年 ポンピドゥー・センター/国立近代美術館蔵
「ジャズ」シリーズは奔放なフォルムとタイトルの関連性を想像する楽しさに加え、どこか毒気があるところも面白いところだと思いました。「馬、曲馬師、道化」は楽しいサーカスの中で馬の楽しくない感が滲むようで、シュールな味がありました。

5.まとめ

マティスと一緒に絵画探求の旅に出たようなワクワク感が味わえる展覧会でした!会期まだありますので、気になっている方は混む前に行かれることをお勧めします!!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?