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~地域と繋がる空き家再生~ 頴娃おこそ会8軒目となる【「つきのや、」プロジェクト】を振り返る

 この2か月ほどにわたり力を注いできた頴娃おこそ会8軒目となる空き家再生プロジェクトは、移住者である上村ゆいさんを迎え、ヨガ教室開設に向けた3日間のオープンイングイベントを無事終えるなど、ひとまず峠を越えました。ヨガ教室の名称である月下美人から一文字を頂き、「つきのや、」と名付けたこの拠点。改装作業はまだ残ってますし、ゆいさんがこの地でヨガ教室を運営していくというチャレンジはむしろこれからが本番ですが、この空き家再生がもたらした意義や学びなどを少し振り返ってみたいと思います。

ことのはじまりは・・・?

 そもそものはじまりですが、約1年前の2018年2月に鹿児島市内の妙行寺というお寺を会場としておこそ会による空き家再生活動の報告会を開いた際に、たまたま近隣に住むゆいさんが参加してくれたことがきっかけでした。おこそ会の活動や頴娃の取り組みに興味を示し頴娃に通ったりしたゆいさんからその半年後に、「私、頴娃でヨガ教室を開きたいのですが、空き家を探して下さい!」と相談を受けたことで、つきのや、プロジェクトが始動しました。


ビジネスベースで取り組む

 この空き家再生を手掛けるにあたりこだわったことのひとつは、補助金などに頼らずビジネスベースで取り組むという点でした。おこそ会がこれまで手掛けてきた7軒の空き家再生は、金額の大小はさまざまですが行政の支援を受けてきたものでした。過疎のまちで移住者を受け入れ、持続自走に向けてなりわいを創るというのはなかなかハードルの高いことであり、地域おこし協力隊員というかたちでの人材受け入れや、そのための拠点整備に助成金を活用するなどの行政支援を受けるという必要性はあったと感じています。
 しかしながら今回は全くの民間人として飛び込んできたゆいさんを頴娃に迎え、住居と職場を提供するという、おこそ会にとって新たな次元のプロジェクトであり、おこそ会としても行政助成に頼らない新たな手法で空き家再生を手掛ける重要性も感じていたことから、ビジネスベースでいこうと決意したものでした。


業者を頼らずDIYで手掛けた改修作業

 とは言え不動産や建築のプロから、もはや経済原理では手を付けることが困難と放置された物件の存在こそが過疎地の空き家問題の根幹であり、そんな物件の再生をビジネスベースで手掛けるということは、並大抵のことではありません。今回ゆいさんに提供する物件は、過疎地の頴娃にあっては、比較的立地や建物の状態に恵まれていたとはいえ、家主は賃貸での活用を諦めていた物件であり、採算面の厳しさは変わりません。よって部材仕入は普通に行うものの、改修に伴う人件費部分は私のDIYとしあまりシビアな計算を行わないことで、なんとか収支を黒字にしたいと考えたものです。また全てを自身で手掛けることで、今後の空き家再生に繋がる何かが見えてくるかもとの期待もありました。


家主・入居者折衝、改修、管理などをワンストップで行う

 あわせて、通常なら不動産業者、管理業者、工務店などが行うさまざまな業務をワンストップで手掛けることでコストを下げるという手法を取りました。さらに移住者と地域を繋ぎ、地域との関係構築やなりわいづくりをスムーズに進めるためのサポートもおこそ会が担います。この部分はこれまでの7軒の空き家再生で手掛けたのと同じ手法です。


改修作業で心掛けたこと

 そうして始まった改修作業。THE古民家という感じの太い柱や梁が目立つ風情のある物件ですが、その反面、和室と障子・ふすま主体の間取りではプライバシーが確保し辛かったり、廊下や洗面スペースがなく、部屋からそのままトイレや風呂へ繋がるなど古い家特有の生活導線に課題もあったことが、賃貸としての活用を困難とさせていました。
 改修作業で意識した点は、そうした課題の改善とあわせ、ゆいさんの希望を考慮しつつ思い切って選択と集中を進めるということでした。不動産屋さんが介在すれば、不特定多数の入居希望者に受け入れてもらいやすくするために水廻りの改善や壁紙の貼り換えなどが求められがちです。ヨガ教室を始めたいというゆいさんの希望はヨガスタジオの確保と、生徒さんがくつろげるための囲炉裏や茶室的な空間が欲しいというかなり特殊なものでしたので、彼女の希望を叶えることに特化し、風呂もトイレも内装も最低限の作業で留めました。採算が厳しい空き家再生においては、業者目線の一般的なリフォームとは一線を画し、物件と入居者のマッチングによる思い切ったコストセーブが肝となります。
 今回の物件における改修作業の詳細は、また改めて詳しく書きたいと思います。


30名以上が携わった改修ワークショップ

 私が実際に現場作業に携わったのは、日によって作業時間の違いはありますが、計20日ほどでした。うち1日は一般の方に広く呼び掛けての改装ワークショップというかたちを取ってみたところ、10名ほどの方が参加してくれて、床張りなどの作業が一気に進みました。そしてそれ以外の日にも、DIYに興味ある方が代わる代わるやって来てはペンキ塗りなどの作業を手伝ってくれたり、また大工になることが決まった近隣の高校生、素人ながら家一棟をDIYで仕上げたことのある猛者などプロまがいの方々や、建築士や設備業者さん、熊本からわざわざ泊まり掛けでやってきた空き家再生を事業として手掛ける不動産屋さんなどまさにその道のプロまでが加わり、技術が必要な個所の作業でも力を貸りることが出来ました。こうして実際の改修に関わった方々は数えてみたら30名を超えていたのには、私もびっくりでした。


プロジェクトの収支

 ビジネスベースとお伝えしましたので、お金の話にも触れておきます。頴娃の家賃相場は月額3~4万円程度ですが、家主とは年額の家賃を1か月分程度とさせて頂き、その代わりとして家の改修や管理に関わる一切はこちらが負担するというかたちを取りました。一方、入居者のゆいさんからは、相場の月額家賃を頂くこととし、あわせて仲介料に相当する額を礼金のかたちで5万円と設定させてもらい、物件紹介から改装の相談、はたまた地域への橋渡し役や創業のお手伝いを担うこととしました。家主に払う家賃と、入居者から頂く家賃の差額が3年間でみれば100万円くらいはあがりますので、この額で改修やその他管理コストをカバーするというスタイルです。
 実際のところ、改修に掛かった部材代は40万円弱でしたので、あとはDIYとした私の人件費をどうみるか、そしてこの先の家に管理にどれだけの出費が必要かという計算です。私にとっては、このプロジェクトは過疎地の空き家再生を不動産、建築、まちづくりをワンストップで繋ぐことで進めていくモデル事業という位置づけでもありましたので、あまり杓子行定規な人件費の計算は行わないことにしました。ということで、まあ決して楽ではありませんが、なんとか収支は合ったというレベルで仕上がったと考えています。


このプロジェクトが生み出したもの

 ビジネスベースと公言した以上、当然ながら収支は大切な要素ではありますが、もっと大切なことは、このつきのや、プロジェクトに大変多くの方が関心を寄せてくれたという事実です。上述の通り、改修作業を手伝ってくれた方は30名を超えますが、その改修作業の合間に見学に来られた方は50名、そしてゆいさんが行った3日間のオープニングイベント期間中に足を運んでくれた方は70名と、一連のプロジェクトに関わった方は合計で150名にも達しました。ヨガ教室のオープン前にこれだけ多くの人が関心を寄せてくれたということは、過疎地での創業というチャレンジにとって、大変大きな後押しになるものと考えます。
 空き家再生というと改修作業そのものに目が行きがちですが、むしろ重要なのはその後しっかり活用され続けるかどうかにあります。改修というハードはある意味お金さえ積めば実施出来ますが、活用というソフトを応援するためのお金では買えない地域との関係性を生み出せたことにこそ、つきのや、プロジェクトの意義であったと考えます。そしてゆいさんのチャレンジを見て、頴娃で拠点を構えたいとう人が後に続けば、まちの活性化にも繋がります。地域と繋がる空き家再生を通じた好循環をこれからも生み出していくべく努めていきたいと考えています。




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