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時代小説『龍馬が月夜に翔んだ』第31話(最終回) 「月に帰る」

「お龍」

布団の中にいて寝つかれなかったお龍は、今確かに龍馬の声を聴いた。

はっきりと、龍馬から名前を呼ばれた。

夜明けのように障子から薄明かりが差し込んでいる。

お龍は、障子を開けた。

見事な満月。

何処から聞こえるのか、清らかな鐘の音か長く尾を引いて流れている。

向こうの山影から青白い光の玉がすっと上がった。一直線に満月に向かって昇って行く。

そしてその青白い光は、満月の光に照らし出されて龍に姿を変えた。龍の首が一旦こちらに向いた。

そして天に向かって駆け上がって行った。

知らず知らずにあふれ出た涙が、視界をにじませて満月を二つの輝いた星に姿を変えた。

お龍は、悟った。

「龍馬が死んだ」
 

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