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靴。


バス停で並んでいた。
前の女性の靴の後ろ、エナメルの靴の縫い目から綿のようなものが出ていた。
黒く光沢がある綺麗な靴。
お気に入りなのかもしれない。

どの時点で綿のようなものが出ていることに気づき、そして、少しの落胆をするのだろうか。
でもまあ、しないのかもしれない。
既に気づいていて、帰るまではまあいいさとそのままにしていて、家に着いたら捨ててしまうのかもしれない。
沢山の靴を持っていて、今履いている靴のことなんか一週間もすれば忘れてしまうのかもしれない。

僕は何となく、その女性は靴の破損にまだ気づいていなくて、そしてどこかで気づいて、そのことに少し心を痛めて、修理に持って行ってくれたりすると良いなぁなんて思ったりもする。

そんな自分のことを勝手だなぁなんて思ったりする。

その靴について、プレゼントなのか、自分で選んだのかも、きっと重要になってくるのだろう。

僕は自分の靴を見ようと、下を向いた。
「……」
ズボンのチャックが開いていた。
まあ、閉めるだろう。
出来るだけ慌てず、そして自然に。

誰かがチャックのことを僕に言わないように。
僕も靴の綿のことは勿論言わない。
そして少し思いを巡らす。

この世界にはそういう優しさがある。





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