事解男命とは(1)ー熊野権現ファミリー

事解男命が現在の熊野三山で祀られているかを見てみます。このブログでは三山の祭神は三社それぞれの祭神と本地仏で説明していますが、それには祭神として事解男命は出てきません。また『御垂迹縁起』にも出ていません。『日本書紀』では泉津事解男神とありますが、その名前でも出ていません。『日本書紀』一書第十に登場するのは、イザナギ、イザナミ、速玉之男、泉津事解之男、泉守道者、菊理媛神ですが、この場面はイザナギとイザナミの夫婦喧嘩がテーマなのでその関係者ということで熊野権現ファミリーと言えます。そういうことからも事解男命が熊野三山で祀られていない筈はありません。それでは泉道守者はどうでしょうか。男性だと思いますが、「命」にはなっていません。イザナミの従者というところでしょう。菊理媛神は加賀国一宮白山比咩(しらやまひめ)神社の祭神白山比咩大神と同一とされ、同神社にはイザナギとイザナミも祀られています。白山は修験の霊場であり、神仏習合時代はイザナミを白山妙理権現と称していました。令和4年(2022)の和歌山県誕生150年記念式典の講演で白山を「はくさん」と呼ぶようになったのは江戸時代中頃からで、それまでは「しろやま」あるいは「しらやま」。漢字の「白(はく)」は「白骨化した頭蓋骨」を意味するのでそれを嫌ったそうです。熊野の入り口に白浜温泉がありますが、それを北に伸ばしていくと白山に至るそうです。一方は「浜」、もう一方は「山」。どちらも「白」で共通しています。菊理媛神も熊野権現ファミリーの一員と言えます。このファミリーをそっくりそのまま祭神にしているのが「甲明(こうめい)神社」。「御綱掛け神事(3)」で少し書いています。本宮大社の末社で、和歌山県神社庁のサイトによると祭神は主祭神がイザナミ、配祀神が事解男命、速玉之男命、泉守道命、菊理媛命。速玉神はイザナギと同一、泉守道は神として「命」になっています。新宮市熊野川町相須にあり旧村社。小さな神社ですが氏子地域は相須、宮井、小船(こぶね、熊野市紀和町、熊野川の対岸に位置)だとのことです。
私が熊野信仰に興味を持って調べ始めたとき、祭神名に事解男命と出てきます。しかし熊野三山の祭神として事解男命の名前は知りませんでした。「事解男命、who?」。
調べてみると本宮に祀られていますが、「表に出てこない神様」と書いてありました。「表に出てこない!」。「?」。それでますます熊野信仰に興味を持ったと同時に事解男命に親近感を持ちました。兄弟のような感覚です。私も熊野権現ファミリーの一員というとこです。
和歌山県神社庁のサイトによると、事解男命は、本宮大社では第一殿西御前に熊野牟須美神(夫須美神)と一緒に祀られています。那智大社では配祀神として御子速玉大神と共に泉津事解之男尊が祀られています。ところが速玉大社には祀られていません。なぜ?
それを解く(事解男ですから)カギは「阿須賀神社」。「速玉大社の祭り」の章で書いていますが、「神馬渡御式」では前日に神馬を阿須賀神社に連れて行って神事を行い、当日は阿須賀神社の神を大社に迎え、速玉の神と一緒にお旅所に渡御します。「お燈祭り」でも特別な奉幣神事を「阿須賀神社」で行った後、大社の夫須美神(イザナミ)を祀る結宮でも行います。なるほど「阿須賀神社は速玉大社にとってとても重要な存在」ですね。
また『御垂迹縁起』には熊野の神が最初に祀られた石淵谷をわざわざ「阿須賀乃社乃北」と書いています。
阿須賀神社とはどういう神社なのでしょうか?


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