見出し画像

【医師の立場から】私の思い

産婦人科医として、がん治療後の性交渉について考えさせられたのは、入院中の方からの相談でした。
その方は、30代で子宮頸がんの診断で、広汎子宮全摘術を受けられた方でした。

今は手術後の入院期間もだいぶ短くなり、術後に化学療法が必要な方も、外来での投与がかなり多くなってきましたが、当時の抗がん剤投与はほぼ全例入院して行なっていました。
自然と、抗がん剤投与中の方が多い大部屋があり、患者さん同士も顔見知りとなり、病室やラウンジで術後のことなどを情報交換したりしていることをよく見かけました。私自身も毎日病室で顔を合わせていると、患者さんと世間話をするという機会が今よりも多かったかもしれません。

そんな時、その患者さんから、夫の浮気が心配だと相談されました。
医者になりたての頃でしたので、がんの治療中にそんなことを心配するのかと驚きました。
ただ、話を聞いていってわかったのは、抗がん剤投与による外見の変化、がん治療中であることのストレス、子供を自分で産めなくなってしまったという思いなど、色々なことから自分自身に自信がなくなってしまい、パートナーとスキンシップをとったらいいのかわからなくなってしまったという状況でした。
さらには、根本的に術後に性交渉を持っていいのか、痛いのか、何に注意しなければならないのかなどなど、色々な疑問や不安をお持ちでした。
それまで、がんを治すということこそが医療者、患者さんの目標と考えていました。
それはそれで間違いないでしょうが、我々医療者と患者さんが接するのは、極々一部の時間のみであり、その背景には患者さんそれぞれの生活があり、命に関わるがんの治療中だからこそ、
普段の生活とはまた違う、肉体的、精神的な性への関わりの変化に患者さんも直面しているんだなと実感しました。

このような、性に関する疑問は、そもそも手術直後から抗がん剤投与の時期は怒涛のように過ぎていく時間でしょうから、患者さんも考える余裕がないかもしれません。
また、なかなか患者さんから言いにくい事でしょうし、医療サイドも治療中に特に訴えがなければ、あえて話題として出すことでもないと思っていることかもしれません。
ただ、皆さんにわかっていただきたいのは、医師も看護師もそのような質問をされても誰も「なんでそんなことを聞くんだ」なんて思うことは決してないということです。
そもそも、産婦人科は性に一番近い科です。婦人科腫瘍を専門としているものも、お産をとったり、生殖医療を提供したり、性感染症の治療に当たったり、皆が女性の性に近いところで医療を担っていて、助けたいと頑張っています。入院中でも外来でも、気軽に聞いてもらいたいなと思います。
ただ、医師にはなかなか切り出せない・・・。なんてことがあれば、看護師にまず聞いてください。色々なアドバイスをくれるはずです。また、医師とも情報共有して、そっと医師とも相談できるように動いてくれます。

このサイトを通じて、現在がん治療を頑張っている女性、治療後の女性、健康な女性のみならず、
そのパートナーさんにも、正しい知識を提供するとともに、みんなで情報を共有できるような場を作っていけたらと思っています。
我々医療者側も、がん治療と性の問題、実臨床での情報提供の方法など、色々と意見を伺って、確立を目指したいと考えています。

————————————

今回いつも記事をチェックしていただいている医師に記事を書いてもらいました。

活動、研究資金とさせていただきます。