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【コラム】キズナアイ、スリープの明日を見つめて②――upd8の終焉、XRへの挑戦、5周年、そしておやすみ

キズナアイの分人前後から2024年5月現在に至るまで、Activ8株式会社、Kizuna AI株式会社の動向を振り返るコラムシリーズ『キズナアイ、スリープの明日を見つめて』。

前回はキズナアイの分人を起点に2019年から2020年までの動向を振り返った。

第2回となる今回は2020年の新型コロナウイルス感染症、XR関連動向などについても振り返ろうと思う。途中、VTuber古参の皆さんの注目度の高いだろうupd8終了についても解説していく。

家にいながらも繋がる

この説は、キズナアイ”らしい”エピソードとして紹介したいと思ったので、解説しようと思う。
キズナアイは2020年4月にリリースしたEP「Replies」収録曲である「Again」のミュージックビデオを同年7月に公開した。

このミュージックビデオは、 キズナアイとGalaxyのコラボレーションで制作されてものだ。
ミュージックビデオの特徴として、登場する人間は全員が家にいることが表現されており、新型コロナウイルス感染症によって閉ざされた最中であるような様子をみせている。

そんな中で「また笑って」と明日の希望を感じさせるような歌詞がリフレインしており、こんな中でも人を笑顔にさせたいという気持ちを感じさせられる。

一方、長岡花火とのコラボでは、花火の映像を彼女と一緒に見ることが出来る取り組みが行われた。新型コロナウイルス感染症では、そのリスクから人が密集することが忌み嫌われていたため、全国的に花火大会が中止された。そんな中でも楽しむことができるコンテンツとして制作されたことと思う。

この時期の取り組みの一部は苦しみも乗り越え、人を喜ばせ、人間と繋がりたいという気持ちを強く感じさせる。そんな人のためにと動いていたのが今では懐かしい

Touch the Beat!リリース

キズナアイが登場するVR音楽ゲームがリリース。
この頃からキズナアイは、Oculus(現META、旧親会社はFacebook)のVR HMD(ヘッドマウントディスプレイ)の宣材に使われるようになった。

このため、スリープした現在でもキズナアイの宣材を目にすることができており、2023年開催の「東京ゲームショウ2023」でも大々的に宣材に使われる様子と、試遊が実施されている様子があった。

「キズナアイ界隈」の形成

こうしたコロナ禍にある中でキズナアイは、VTuberとの交流を図ろうとする様子もみられた。これはより人間と繋がるため、人気を得るための施策であると現実的に筆者は考えている。
実際、PANORAでも「チャンネル登録者増加が下火だった」と捉えており、低迷の時期にはあっただろう。

本人が楽しんでいる様子を見ると、人間とつながりたいと楽しい気持ち半々の気持ちだったのかもしれない。

こうした横とのつながりを作ることでいわば一時的に「キズナアイ界隈」といえるような輪が出来ていった。以下は抜けもあるが、その配信の一例である。

こうした動きは当時KAI-YOUが動向を報じていた一方で、あまり他のメディアに取り上げられることはなかったと記憶している。

upd8の終了

upd8 ha mou9。最近はそんなジョークがたまに聞こえてくる。
upd8とは、Activ8が運営するVTuberのMCN(マルチチャンネルネットワーク)だ。
いわゆる「箱」「事務所」というわけではなく、Activ8が参加メンバーに対して案件を振ったり、スタジオを関与するなどのサポートを行うものだ。
この枠組み、現在でいえば日本テレビ子会社のClaN Entertainmentが実施するC+がそれにあたるだろう。なお、余談ではあるが同社には元Activ8社員が従事している。

ではそのupd8に所属していた現在でも一線で活躍するメンバーを紹介しよう。

  • AZKi

  • 春日部つくし

  • 周防パトラ(当時はハニーストラップ所属)

  • 海月ねう(現在は「をとは」として活動)

  • 因幡はねる

  • YuNi

  • おめがシスターズ

  • 懲役太郎

  • のらきゃっと

  • 歌衣メイカ

  • ケリン(初代。現在は2代目が活動)

  • MonsterZ MATE

  • 夜乃ネオン

  • 兎鞠まり

などなど。途中で脱退したものもいるが、このほかにも多数のVTuberが所属しており、今も昔も聞いて驚くようなメンバーが居たことには間違いない。しかし、そんなupd8も2020年幕を閉じることとなった。

実のところ、キズナアイなど多数のメンバーが2020年の途中で脱退をしており、その存続自体が危ぶまれていた時期は長かった。これにおめがシスターズも反応し、直接upd8に取材する動画をアップしている。

そして、2020年12月に事業継続が難しいと判断されたことで、upd8クローズを発表。おめがシスターズからActiv8 CEO 大阪氏へのインタビューによると事業は赤字だったと語られている。

また、この時のインタビューの中で大阪氏はメタバースへの興味を示しており、「最終的にはメタバースを作りたい」と発言していることも時代背景をよく反映しているように思う。

2ndライブの開催――オンライン化/XR

2021年1月にキズナアイの2年ぶりの2ndワンマンライブ「“hello, world 2020”」が開催された。2ndライブの特徴が2つある。

ひとつはオンライン開催であること。1stライブはZepp DiverCity、 Zepp Osaka Baysideで開催された。対して今回はYouTubeなどオンラインで無料で公演がされる施策になっている。

2つ目の特徴はXRだ。
さて、前回の記事の中でActiv8はタレントマネジメントなどを行う子会社、Kizuna AI株式会社を設立し、自社はXRコンテンツの開発に注力することが目的だっただろうことについて解説した。
今回恐らくその成果が出たのがこのタイミングだったのだろうと思う。キズナアイは公演を無料で行っているが、恐らくこれはActiv8などの関連企業が「自社もXRコンテンツが出来る」という宣伝(アピール)目的などがあるだろう。

キズナアイの2ndライブのXRは、映像で見るとライブステージにいる人間と同じ舞台に立っているような構図になっており、実際はキズナアイは背景と合成して作られている。

なお、ライブは2020年12月に開催予定だったが、機材トラブルの関係で翌月の2021年1月に延期されている。

キズナアイ、世界へ向けて動く

このライブにてハリウッドの4大エージェンシーのひとつUnited Talent Agency(UTA)とパートナーシップを結ぶことが発表。

これがどれくらいすごいことか。日本のほかのアーティストでは日本のアーティストではONE OK ROCKやBABY METAL、きゃりーぱ みゅぱみゅに並ぶことを意味すると書けば少しでも伝わってくれると信じたい。
これに応じて、アライナ・カスティーロとのコラボ楽曲「down 4 u feat.Kizuna AI」をリリースしている。

また、全歌詞が英語で書かれた初の曲「Hello World」を2020年末に発表しており、この時期はかなり海外を意識していたことがわかる。

(キズナアイは2020年末にMoguLiveのインタビューに答えているので、当時の参考として掲載しておく。)

USツアー開催

そうした査証がもっとも現れた瞬間は「Kizuna AI Virtual US Tour」の開催だろう。MOMENT HOUSEというプラットフォームで配信し、海外向けに発信することを目的のオンラインライブを催した。

しかし、これはあくまで私見であるが、たとえジャスティンビーバーなど人気アーティストが使ったことのあるプラットフォームを使い、海外でも人気のVTuberであるNyannersに加え、Moe Shop、Alaina Castilloを呼んだうえ、時間を現地時間に合わせた開催にしたとはいえ、あまり日本/海外の差は当時あまりなかったように感じる。
ただ、この頃にはすでにXRの技術は確かでMoe Shop、Alaina Castilloなどが登場した際も海外のEDMフェス・トゥモローランドのXR映像と比較できるほどの質になっていたように思う。

数年ぶりに現地ライブを開催

2021年は新型コロナウイルス感染症に波がある時期で、時期によってはイベントなど催事が行える年でもあった。
そうした状況下から、声を出すことは難しい状況ではあったが、誕生5周年を記念した現地ライブ「A.I.Party 2021」を開催した。

ライブではこれまで参加してきたコンポーザーが曲を流し、さらに生演奏も合わさるようなスタイルになっており、おそらく最初で最後のバンド編成を現地で見ることの出来るライブとなった。
以降、現地開催でのライブは行われていない。

Kizuna AI Virtual Fireworks Concert

この頃はライブが集中していた時期だったといえる。キズナアイとOculusのコラボとして、Oculus Quest(Quest 2)を持っていれば、誰でも無料で参加可能なライブ「Kizuna AI Virtual Fireworks Concert」を2021年9月に開催。開催後日にYouTubeで無料再放送された。

このライブでもXR技術がふんだんに使われており、映像専門誌『VIDEO SALON』2022年2月号でも実例として紹介されたほか、ウェビナーも開かれている。

余談だが、この『VIDEO SALON』は映像業界にも属する筆者にとっては業界誌であり、たまたま普段お邪魔しないスタジオで仕事をする際に営業さんが一生懸命にVTuberのライブ事例を読んでいたことは面白かった出来事としていまだに鮮明に記憶に覚えている。

おめでとう、そしておやすみへ

12月4日とは、筆者にとって忘れられない日である。
あの日の細かい、いち動作すら覚えている。

11月30日にキズナアイが活動節目となる5周年を迎えた。とてもめでたいことだった。それまでの自分たちの長きファンとしての時間を見つめながらも、少なくとも筆者らの頭には12月3日のことが目の前に迫っていることに様々な感情を抱いていた。

12月3日、それまでバーチャル音楽においてクラブカルチャーなどを形作ってきた『VIRTUAFREAK』が最後の開催となるのだ。
その時の様子についてnoteに書き残しているので、知らない人は参考にしていただきたい。

筆者の場合は、仕事もあったため途中で眠りにつくことにし、その足で仕事に行った。noteには大幅に省かれている話がある。

筆者はこの日、単に仕事に行っただけでなく、仕事終わりにVTuber周りでお世話になっている先輩の現場に手伝いに行ったのだ。
当日はキズナアイにかんする雑談も聞こえてきたが、そんな話題を聞く中で筆者には気掛りがあった。

それはその日、日が空けて12月4日20:00から始まる「5周年記念!からの超重大発表・・・!」というタイトルだった。
収録もギリギリに終わり、歩きながら配信を見る。配信が聞こえてくる。しかし、いっこうに耳に入っても内容がすっきりと入ってこない。立ち止まり、内容に集中した。

そこでようやく筆者は内容を理解したのだ。

そこで話していたのはキズナアイがスリープするという発表だったのだ

筆者は愕然とし、道を戻り、ある川沿いの開けた公演に座って空を見上げた。少し肌寒い日だった。
あまりに寒いて感じて、缶のミネストローネを買ってコロコロと手で回して体を温めたのも覚えている。
人間は、どんな大切な記憶でも、その温度まではあまり記憶できないものだ。
しかし、そんなことすらも覚えている。当時、生放送が多くなり、気持ちは少しでも離れていたのは事実だった。
でもキズナアイは自分にとっては大切だったのだ。
朝のツイートや動画をはじめ、見続けてはいたのだ。
それが失われようと、一時的にでも姿が見れなくなることに動揺したのだ。

こうして、キズナアイと会社と私たち「キズナアイのファン」による「スリープの明日を見つめる日々」が始まった。

次回の『キズナアイ、スリープの明日を見つめて』は、キズナアイのスリープ直前後についてお伝えしていく。


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