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十年ぶりに読んだ/放浪息子/志村貴子

冬期休暇最終日、明日から始まる仕事に向けて休日出勤をし、その帰りがけにBOOK OFFに立ち寄った。

山積みにされたセット販売の古本。

今現在も新刊購入をしている漫画が数冊あるため、昔の作品に触れる機会はかなり減ったように思う。電子書籍が隆盛を迎えている世の中だから尚更である。

そんな中で半ば衝動買いしたのが、志村貴子作の「放浪息子」(全15巻)だ。

2003年から2013年にかけてコミックビームで連載されていたこの漫画。
と言っても私がこの作品に出会ったのは、2011年にノイタミナ枠で放送されていたアニメがきっかけだ。

その頃は私は大学2年生。人生で一番時間を持て余していると言っても過言ではない時期であり、連日さほど興味もないテレビ番組を深夜遅くまで垂れ流していることが多かった中で、ある日流れてきたのが放浪息子であった。
淡いタッチで描かれる日常は可愛らしく、でもどこか不安定で。その不安定の根幹にあるのはタイトルにもある通り「放浪」する少年少女の心だった。

「少年少女」という呼称が正しいのかもわからない。
物語の主人公である二鳥修一は「男」として生まれながら「女」として生きたい自分と、ヒロイン?とも言える高槻よしのは「女」として生まれながらも「男」として生きたい自分との間を放浪しているからである。

アニメが放送されている当時、漫画自体はまだ連載中だった。
十年ぶりに読んだとタイトルで書いたが、実質物語の終わりを見届けたのは今回が初めてだ。

アニメでは描かれなかった二鳥くんと高槻くんのその後。
二鳥くんが徐々に男の子らしくなっていく姿。そして、それを受け入れられなかった昔とは違い、放浪することのない「女の人になりたい」という自分の思い。それを受け入れる安那の姿。全てが愛おしい物語だった。

安那とは二鳥くんの彼女だ。「放浪息子」の中で二番目に好きな登場人物。
容姿も、性格も、全てが個人的に完璧で。
そんな安那とストレートに気持ちを伝え合う二鳥くんに嫉妬の念すら覚えた。

二鳥くんと高槻さんを取り巻く他の人物たちもとても魅力的で、自分の人生を振り返った時に、そのままとまではいかずとも「こんな人いたなあ」という気持ちを抱かせる。

意地悪だけど、どこか憎めない土居
エキセントリックで、でも可愛らしいちーちゃん
口は悪いけど、弟を想う真穂

一番好きなのは佐々ちゃんだ。
この物語の中で一番友達思いで、一番「普通」な女の子。
全体を通して、重いテーマを扱うこの物語をそれでも楽しく読めるのは佐々ちゃんがバランスをとってくれているからだろう。
高校に入学し、髪を下ろした佐々ちゃんの姿を見た時がある意味一番物語の中の時間の経過を感じたように思う。

もう10年近く前の作品ではあるけれど、今の世の中だからこそもう一度手にとってもいい漫画だと思う。

またふと読み返す日まで、本棚に大切にしまっておくことにしよう。

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