9-5.完全に詰まってしまった。

 完全に詰まってしまった。

 俺は、あらためてスマホに目を落として問題を読み直す。


 問三

 “アルミのパペットマスターだけが、すべての答えを知っている”

 この文と同じ意味の文はどれか?

 1 アルミのパペットマスターは、全員がすべての答えを知っている

 2 すべての答えを知らないのならば、その人物はアルミのパペットマスターではない

 3 アルミ以外のパペットマスターは、誰ひとり、すべての答えを知らない


「なにか、とっかかりがあればいいんだけど」

 俺の言葉は、廊下に充満するぬるい空気に溶けていった。

 沈黙に押されてヒロムが肩をすくめる。

「……こういう理屈っぽいのはダメなんだよ。思い切って直感に賭けるか?」

 ヒロムは俺とトシの顔を交互に見た。

 トシは床に座り込んで両手を頭の上で組むと、そのままノートPCの画面を見つめ続ける。

「同じロジックでも計算式で解けないロジックは苦手なのだよ」

 ――理屈。ロジック。

 ぼんやりとした考えが、俺の中でゆっくりと固まっていく。

「文章を構造化してみたらどうだろう? 数式みたいに」

 俺は手に持ったペンを回しながら、最初の文をぼんやりと見た。

「……AだけがBである。最初の文をシンプルにすると、こんな構造じゃないかな?」

 トシとヒロムの視線が、自分に刺さるのがわかった。

「では、数式のように入れ替えると、BであるのはAだけ、ということなのだな」

「じゃあ、トシ。AでなかったらBはどうなるんだよ?」

「AでなければBではない、のだよ」

「じゃあじゃあ、BでなかったらAはどうなるんだよ?」

「そもそも、Aだけというのが条件なので、BでないのはA以外、となる」

 俺がぼんやり思い描いていた考えが、ふたりの力でたちまちはっきりしていく。ヒロムの言う「三人寄れば仏の知恵」も、なかなかあなどれない。俺はペンを回しながら、頭の中で情報を整理する。一問平均五分で解くという目標は、とっくに過ぎていた。

「ここまでの話を整理すると、ひとつめの答えはAはBだと言っているだけなので不正解。ふたつめの答えはAだけという条件を満たしているのか表現が微妙」

 おそらく、この微妙というのがユウイチが狙ったところだ。

「三つめの答えは、ぱっと読むと正反対のことを言っている。だから、話がそれているように感じるけれど、実は問題文とは表裏の関係で言っている意味は同じなんだ」

 トシはふうっと息をつく。

「合理的な答えなのだよ。たしかに、ふたつめの答えに違和感はあるが、三つめの答えの合理性と比べれば、消去法で判断できるのだ」

「よし。ンじゃあ、とっとと答えちまおうぜ。今度はトシの番だよな?」

「全員が足並みをそろえるならば、そうなるのだよ」

 トシは手に持ったスマホをタップする。俺とヒロムは同時にうなずいた。トシはスマホのマイクに向かって答えを告げる。スマホの画面に映し出されたユウイチが小さくうなずいた。


 正解。

 

これで俺たち全員が第二ゲームを抜けるのに王手をかけたことになる。つまり次の問題からは、正解をするたびに誰かが先に抜ける。そういうことだ。

「早く次の問題を出すのだよ」

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