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税務署還付申請3時間バトル

 会社員は、普通11月頃に会社に書類を提出すると、年末調整をしてくれるので、わざわざ確定申告をする方は、どちらかと言えば少数派だと思う。
 退職すると、色々とイレギュラーなことが起こるし、起こすので、書類を揃えて、税務署での還付手続きをとる。
 最初の手続きの際、今後のことを考えてだろうが、署員に国税電子申告を丁寧にご指導いただいた。翌年はめでたく、自宅でチョチョイと電子申告に成功し、短時間で還付金を受け取るに至った。我ながら自分を褒めた。還付申請は間が丸一年あくので、記憶力が物凄く試されるのである。

 残念ながら、今回の還付申請は、一生に一度のイレギュラーが二つ重なり、電子申告にも自宅でトライしたが、にっちもさっちもいかない。仕方ないので、2年振りに書類を揃えて税務署に出動である。
 税務署入口で受付カードを貰い、コロナ下の人数制限に対応して、40分間自家用車の中で待機する。9時半が指定時間なので、どんぴしゃりで入室を許される。
 最初のチェックポイントは、携帯電話と全ての書類の所在と問題点の洗い出しである。全ての書類を見せて、署員に、つたない言葉で、何故今年は電子申告が出来なかったかを説明し、署員がチェックシートに、書類の種類別に、大丈夫というポイントにはOK判を押し、問題点はシートに赤ペンで書き込みをしてくれる。そして、チェックシートと共に、次の実際の還付申請場所に送り出される。
 ここでは、若い女性が、わたしの携帯を還付申請の画面に誘導してくれて、一つ一つ、本当に丁寧に教えてくれる。まるで学生さんの若さなので、途中で尋ねると、きちんと教育されたアルバイトさんである。操作は本人がしなければならないので、押す位置がわからない時の指差しを除き、全て自分で入力だ(当たり前だ)。しかし若い方から見れば、わたしのスマホ画面の入力は、天然記念物級の遅さ。彼女の忍耐力こそ、天然記念物級である。
 さて、勿体をつけたイレギュラー2点は、家族の学生時代の国民年金を、退職金を受け取ったので、いっぺんに後払いした点と、その退職金自体の受け取りであった。
 最初の点は、書類を明示したので、難なくクリア。社会保険控除に丸々組み込めた。問題は退職金の受け取りで、分離課税されているので、税金的にはちゃんと納税が済んでいる。ただ、わたしは退職金が全額所謂「確定拠出年金」タイプだったので、受け取りを退職時ではなく、数年間更に運用し、加えて、途中外国企業に直雇用されて、日本の年金払い込み制度から外れた期間があるので、雇用の始めと終わりが、払込期間と一致しない。これが電子申告できなかった理由だ。
 さすがにアルバイトの方には手に余る問題で、彼女は署員を呼んできた。署員は希少存在なのに、一人では解決できず、二人目が来て、かんかんがくがく、一人増える度に、背景の説明を繰り返すので、どんどん時間が経っていく。
 ついに、税務署員が「彼はうちのスマートフォンのエースだ」と呼ぶ、3人目男性署員が出てらした。前のお二人が去り、もう一度すべて最初からを説明し、議論すると、どうも折角アルバイトの人が協力して、ここまで入力したすべての項目が無駄になるらしい。
 わたしが、自宅で退職金の入力を試みたが、外国雇用や、運用期間の延長で、入力自体が出来ない点、ここはシステムの不備ではないかというと、エースの方は、恐縮した上で、自分がオフィスでやってみるから、全ての書類を預からせてくれと、還付申請場で椅子をあてがわれて、待ちになった。
 相当の待ち時間の後、エースが再登場し、なんと彼でもこの問題は乗り越えず、手書きの書類を書くしかないと言う(!)。退職金は分離課税で納税は済んでいるんだから、問題ないのでは?と言うと、ここはエースをべた褒めしたい点だが、社会保険控除が大きすぎるので、微少な収入からの源泉徴収からの還付だけではカバーしきれず、退職金分離課税の際、既に納入した所得税からも還付が行われる筈だという。ほおおおおおおおおおおお、書きましょ、書きましょ、手書きでも!
 彼は、わたしの能力を正しく推察し、自分が計算し手本を書いて来る、わたしはそれを自著するということになった。別の静かで単独の場所に案内され、再び待ち時間である。イヤフォンを付け、携帯でドラマを見てしまった。
 エース再々登場。彼の指導で、書類を書き始める。エースはもてもてなので、書き終わるころを見計らって来るから、と消える。彼の手本の細かい書き間違いに気が付く(理解した証拠か?)。探して、間違いを訂正してもらって、書き続ける。
 結局、署員が受領したという判子を押してくれたのが、12時半。入室から退室までが丁度3時間であった。ちなみに還付金は、これまでの最高額に達した。つまり取りすぎだよ国税局、と思ったが、まあ例外的なのだから仕方ない、そこはきちんと還付してもらいましょ!

 一生に一度のことは、これで済んだ。ただ、これからは、雇用の流動性(国外雇用も含む)や、制度の多様性(例えば運用期間の延長)に該当する方々が増えるはずだ。雇用の始まりと固定した終わり項目だけで、退職金の申告が出来るような単純なシステムは、合わない人が増加していくのは明白だから、是非国税局にはシステムの可塑性の改善をしてほしい。
 最後に、強調したいのは、若い方の素晴らしい能力を正当に評価してほしいということだ。最初のアルバイトの方の、優しさ、忍耐力の素晴らしさ。エースの署員の方の行動力、洞察力、人当たりの良さは、途中BGMの様に登場した、経験豊かな署員より明らかに上回っていた。

 去り際に、もう一度、アルバイトの方とエースに、直接お礼を申し上げ、深々と頭を下げ、税務署を出た。来年はスマホでチョチョイの予定である。
 
 
 
 
 

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