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ドラマ「エルピス」を、日本国憲法制定時における地方自治政策と、逆コース後の再中央集権化の、重ね合わせの日本統治の実態を軸に「テレビ局」「検察」「警察」の関係で論じても面白いのでは

日本のテレビ放送は、戦前戦中に警察幹部で戦後にA級戦犯となった読売新聞の正力松太郎らが推し進めた事業で、50年代初頭に新聞ラジオに変わる戦後体制の世論統制装置として目論まれた部分は強い。街頭テレビの力道山のプロレス放送はその嚆矢だった。
50年代後半に郵政大臣だった田中角栄らがテレビ局を「全国紙新聞社 - 在京キー局 - 地方局」と統制する。ここでテレビが中央政府の情報統制システムが完遂して、政府のプロバカンダ化となるかと思いきや、そう単純にことは運ばない。

地方局は名古屋だったら中日新聞のような地方新聞社が創設に参画したりなど、現在も地方局は地方新聞社が筆頭株主であることが多い(東海テレビの株主構成は、間に東海ラジオを挟んだりしてるが)。だのでキー局であるフジテレビに対して地方局の東海テレビみたく、キー局とは政治的主張の異なる報道や行動をすることがしばしばある。
暴力的に構図を単純化すれば、ここには戦後日本統治でGHQ民政局が推し進めた地方分権(中央権力の弱体化)と、その後の冷戦激化で米国政府内でのGHQ民政局の失脚(逆コース)による日本の再中央集権化と再軍備化が折り重なった極点がある。
更には警察も複雑だ。戦後の冷戦下で正力松太郎や岸信介などA級戦犯を復権させ、日本の中央政治による検察警察権力を高めていく中で、警察も日本国憲法施行後に一度は地方警察に解体されたが、結局は逆コースで再び中央警察機構に再編される。
ただし今も都道府県警察で編成されているのはその名残だし、そのあたりは現在の警察も完全な中央統制組織だと言えない。
しかし検察は国家組織であり、エルピスで出てくるように検察は裁判所と敵対関係でない(検察と裁判所とで人事交流すらあるくらい)。これは三権分立原則の一丁目一番地に反する。だから日本の司法システムの実態は専制国家と何ら変わらない。東京地検特捜部などは典型で、恣意的な政治犯経済犯の捜査をするので「中世の司法」と揶揄されるのはこのため(しかしエルピスで言及されてるようにいずれの組織も一枚岩でないだろう)。
検察は起訴権を独占していて、権力を優位に維持するためにエルピスで出てくるように有罪率を99.9%で維持している。不起訴そして無罪は検察にとって不名誉なので、(刑事訴訟法上は)検察の捜査下部機関である警察は、事実関係や証拠が不十分なら捜査に着手しないし逮捕しない、なぜなら起訴に至らない“危険性”があるからだ。なので逮捕した人物はできる限り起訴になるまで運んでいく。不法に拘禁したり様々な手段で自白の強要をする。警察がよほどじゃなければ動かないことと、一旦逮捕したら是が非でも起訴に持っていこうとするのはこのためだ。
ただし現時点での日本はあくまで日本国憲法も改正されていないし、逆コース以前に編成された様々な行政の仕組みによって地方分権の構造はかすかに残存しているし、ここに複層的で複雑な重ね合わせがある。(この文章と関係ないが、東京23区が自治体組織として体制がずっと不安定なのは、戦前戦後の中央集権と地方分権の揺れ動きに翻弄され続けてるケーススタディである。)

だけどもそんな歴史的な構造によって実際に現在の国家政府を取り巻く中央権力は50年代の冷戦激化以後に非民主化し、あまりに強権であるのは確か。ただその事実と「権力が黒幕」の陰謀論的なフィクションが巷に多いこととは、別の次元にあるものでもある。

陰謀論が広まることは、専制権力にとっては世論統制ツールとして利便性が高い。だので大衆娯楽を通じてプロバカンダに陰謀論を利用する。「前政権の陰謀」だとか「敵国の陰謀」「特定の民族・人種の陰謀」などを煽って、自らの権力の正統性を謳う。
しかし、フィクションで扱われやすい「権力が黒幕」みたいな陰謀論的プロットは、プロバカンダの要請からも生まれるけど、それだけではない。端的に、「権力が黒幕」プロットは脚本術として利便性が高い。ストレートに扱うにしてもそれを捻るにしても、フィクションで物語を構成するのに使い勝手がいい。「権力が黒幕」プロットは過去作の積み重ねも豊穣だ。だので作り手側の事情や、「権力が黒幕」プロットを作り手が内面化しすぎて無意識で多用してる部分も多々あるだろう。

テレビドラマである以上「3S政策」や「パンとサーカス」のツール的な、世論を何かしら誘導したりの構図からはどうしても逃げられない。
エルピスの場合、脚本術としての「権力が黒幕」プロットを創作としてどのように扱うか、またテレビドラマなどフィクションの創作者が「権力が黒幕」プロットの乱用したことによって、現実の世間に陰謀論者を増やしてきたことの罪についてを、論じることになるのではと思う。

ここを丁寧に描くことがおそらくはエルピスの主題だと個人的には思う。

さて、エルピスを制作してるのはカンテレで、カンテレはフジテレビの地方局であり筆頭株主はフジテレビだが、二番目の株主は阪急阪神東宝グループの阪急阪神HD。一方、キー局のフジテレビはかつてのホリエモン騒動を契機に資本構成が再編されて、現在の筆頭株主はなんと東宝。そして、エルピスの主演は東宝シンデレラ出身で東宝芸能所属の長澤まさみ。
なので、阪急東宝グループ(または阪急阪神東宝グループ)という存在の、歴史的な立ち振る舞いを軸にエルピスを論じてみても面白いのではないかと思う。

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