『偏好演芸日記』#1 令和5年のまとめ篇
エッセイ番外編です。
本編も軌道に乗っていない状態で番外編という意味不明な状態です。
これをねぇ、見切り発車って言うんですよ多分。
そんな訳で、番外編ですが何卒お付き合い願っておきます。
昨年の秋から演芸、とりわけ落語や講談を聴きに行くようになりました。
ペースは平均週に1回くらい。多い時は週の半分以上、落語か講談の会に行くこともあります。
平日の夜にある会も多いんで、なんとか仕事を片付けて駆け付けます。
公演は寄席をはじめ、ホールでの落語、独演会、講談の連続読みや定席、大学の講演のようなものまで色々。
箱(会場)も1000人規模から20人程度まで様々。
この『偏好演芸日記』は、今まで自分用に演芸記録としてメモしていた内容を「人様に読んでいただけるような文章として昇華してみますかぁ」という誰得な試みでございます。
で、また『戯言用心記』に続き仰々しいタイトルでね…。
いやね、自分はかなり趣味の好みが偏っているから。
それを明記しておかないといけないな、と思ったもんで。
ですから、ここでは落語や講談を始めとする演芸の批評をしたいのではなくて「聞いて聞いて、この前おもろい会行ったんだけどさぁ」というノリで綴りたい訳です。
あと、蛇足や何やら書いてますが、その道の専門家に裏取りしたり研究書や論文を読んで書いている、なんてことはありませんので「諸説あるよね」という心づもりで居ていただければ幸いです。
以後お見知り置きくださいませ。
さて、演芸に興味を持った理由等々は別途『戯言用心記』で書くとして、とりあえず『偏好演芸日記』の初回は昨年、令和5年の記録のまとめを。
***
2023.10.29
【寄席】落語芸術協会 十月下席
於 浅草演芸ホール
生まれて初めての寄席!
生まれて初めての浅草演芸ホール!
生まれて初めて観る生の落語と講談と色物!
右も左も分からなかったんで、とりあえず受付のお姉さんに「どこに座るのがおすすめですか?」と訊きました。
お姉さん、「正面の前から5列目あたりが良いですよ!」と明確な回答。有り難いなぁ、その通りに座りました。
この日は思い立ったように突然ふらっと行ったので、演目も演者も全く知らない正真正銘“素”の状態です。今はどの芸人さんがどの協会だとか、誰が師弟だとか、なんとなく枕で演目の予想がつくとか、その程度には知識を蓄積してしまったので、本当に真っさらな自分で浴びた最初で最後の寄席だったかもしれません。
100%の完全素人目ながら、桂伸治師匠が圧倒的に面白くて…。心掴まれるとはこの事で。
この日から私の演芸アクティブ生活が始まります。
2023.11.03
【寄席】落語芸術協会 十一月上席
於 新宿末廣亭
文化の日だし文化らしいことをしようじゃないか、と意気込んで寄席へ。
この頃もまだそんなに落語や講談には詳しくなくて、聴く噺はほとんど全てが初めて。
学ぶように高座を眺める。
噺のオチが毎回楽しみで仕方がない。
忘れもしない仲入り前、桂文治師匠の「親子酒」が余りにも面白かったです。腹が千切れるほど笑いました。
いやぁ、本当に酔っ払っているのではないかと心配になるくらい、どう見ても本物の酔っ払いで。登場する父子が二人揃って酔っ払いなので、とにかく会話がコテンコテンしていて楽しい。
後々、寄席の楽屋裏を配信している『伯山ティービー』(神田伯山先生のYouTubeチャンネル)を観て、この十一月上席時のものではないんですが、文治師匠がカメラに向かって「『親子酒』は息子が帰ってきて倒れ込むところが見せ場」(筆者意訳)というようなことを仰っていました。
そこで爆笑した自分は正真正銘、文治師匠の芸に気持ち良く転がされていたと。
はぁ〜納得。
蛇足。
恥ずかしながら後々知ったんですが『桂文治』という名跡は大名跡で、江戸桂一門の止め名になっているそうで。つまり東京の“桂”の中で最高位なんだそうです。
はぁ〜納得。
2023.11.16
早稲田大学演劇博物館主催 河竹黙阿弥特別展
於 大隈記念講堂
神田伯山先生の講談を生で聴いてみたい、と思い立ち参加!
加えて、会場である演劇博物館は学生時代にゼミの仲間と行った思い出の場所でもあり、懐古の気持ちを温めるという意味でも行きたいなぁと。
そんなことより大隈記念講堂。
広い!
学生優先、一般席は基本2階。キャパ1000人はゆうにあると思います。
所々、司会や演者の声が聴こえづらいところがあって少々苦労したってのは本音ですが…。
なんたって広くってよ。
河竹黙阿弥の特別展にちなんだ講談ということで、伯山先生の講釈は「雨夜の裏田圃」。
調べればいくらでも話のあらすじは出てくるのでここでは割愛します。
村井長庵、本当にどこまでも悪い奴で逆に清々しい。
どの時代に置き直しても犯罪者であることに変わりはないのだが、古典として楽しむ分には深みがあります。
肝心の黙阿弥についての話はすっかり忘れ、長庵をしっかりインプットして帰宅。
2023.12.17
【寄席】落語芸術協会 十二月中席
於 新宿末廣亭
通常、寄席は当日券で自由席なんですが、この興行は指定席の前売り券がありました。
予定通り事が進むことに慣れている現代人の自分にとっては、指定席の方が気楽なこともあります。
どこで拾った運か、嬉しいことに桟敷席の前から2列目の席。
桟敷席は前後2列の座敷なので、ほぼ最前と言っても過言ではない。桟敷席デビューには余りにも贅沢な環境で寄席を浴びる…。
この日、初めて“できたくん”という発泡スチロールアートの芸人さんを知る。スチロール切りの技術もさることながら、独特の声色に巧みな話術が癖になる、最高のエンターテイナー!
そして三遊亭遊雀師匠の視線で魅せる芝居に引き込まれ、また凄い芸人さんを知ってしまったよ…と内心ニコニコ。噺は「熊の皮」でした。
その後、伯山先生の「中村仲蔵」で映画を一本観たような気持ちに。
三本締めをして少し早い年送り。
演芸で年の瀬を過ごす風流を噛み締める。
2023.12.25
神田伯山独演会「神田伯山PLUS」
於 イイノホール
神田伯山先生の公演では、25歳以下限定のU25という有り難いサービスがあります。
U25の木戸銭が安すぎて逆に申し訳なくなるんですが、とりあえずふらっと見てみたいという演芸ビギナーの若人には本当に有り難いシステム。
この日は、上方からお越しの旭堂鱗林先生がゲスト。
講釈が始まって、ふと張り扇を叩いたときの音が違うなぁと気になり出す。
終演後に調べてみると、上方は張り扇を皮革で包み仕上げているらしい。江戸の方は和紙。なるほど音が違う訳で。
芸はもちろん、そんな些細な違いもこの目と耳で確かめることができる貴重な機会になりました。
冬の講釈、鉄板は赤穂義士ということで、トリの伯山先生は「南部坂雪の別れ」。
これも話のあらすじは割愛しますが、とても切なくて、それでいてやはり美しいなぁと感じてしまいます。
客電が落とされ静まり返った会場。
自然と意識は高座へ注がれる。
大石内蔵助がしんしんと降り積もる雪を見上げ一言、「美しい…」と呟く。
余韻を引く数秒の沈黙。
と、その瞬間どこからか鳴り出すスマホのアラーム音。
まったく別の意味で、とても切ない。
聖なる12月25日ということに免じて致し方なく赦したが、やはり多少の怒りはあるもんで。
しかし偶然に切なさや怒りが発現したことで、図らずも浅野の家臣が持っていた心に少なからずリンクしたような気も…。
義士伝(外伝)で過ごすクリスマスも良い。
***
令和5年の記録はこの辺りで。
今年は昨年の比ではないくらい、まあまあな頻度で偏好に演芸を楽しんでいるので、またある程度まとまったら綴ろうかな。
ここまで読んでいただいた方には地味地味と伝わっているかもしれないが、ほとほと嗜好の偏りが凄い。すみません。その辺、ご容赦ください。
そんな中、最後までお付き合いいただいた方、ありがとうございました!
また次回。
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