2019 J2 第2節 FC琉球

3-4での敗戦。内容も完敗だった印象の琉球戦でしたが、改めてよく見返してみると、ボールを回され続けた前半からしっかりと修正し、相手の狙いに対応しようとしていました。昨シーズンにはなかった、相手の戦いに合わせて自らの戦い方も変えられるという特徴が今節の勝利につながることはありませんでしたが、琉球が攻撃やポジティブトランジションにおいて完成度の高いチームであったために高木監督は様々な課題を発見したことと思います。きっと、そのような課題を改善できる監督だと信じていますので、むしろこのゲームが2節にあったことで、早めに気づけて良かったではないか!と自分を元気づけながらこの記事を書きます。

1.両チームの布陣

この試合では大宮が前半3421、後半3142と前後半でシステムを変更したのに対して、琉球は一貫して4411を採用していました。今回はボール保持時、ホール非保持時の項目の中でシステムについて触れたほうがより分かりやすいかと思いますので、本項では図示するのに留めます。

【前半】大宮3421 琉球4411

【後半】大宮3142 琉球4411


2.ボール保持

2-1大宮のボール保持時

大宮のボール保持については60分になるまで語るべきところが少ないです。というのも、琉球の攻撃が完結(ゴールキックで終わるなど)していたことや、ハイプレスをかけられたことにより速攻にならざるを得なかったこと、ネガティブトランジション(攻撃から守備への切替)が速かったために安定してポゼッション(ボールを保持し、パス回しをすること)できなかったためです。
そんな苦しい中でも、全くいいシーンが作れなかったという訳でもなく23:15頃にはサイド奥を突破して決定機へつなげたシーンがありました。右サイドからのファンマのクロスが流れ、素早くサイドでトライアングルを形成、石川が相手SBをターンでかわし、ライン裏へ侵入、中央のファンマに合わせましたが惜しくもシュートは枠外でした。
甲府戦でも同じような位置で菱形を形成し、ライン裏に侵入していましたがこの時にも大前が縦パスを出し、河面や大山がサポートに入っていました。後半になると、頻繁にサイドでの三角形や菱形を形成していたのでチームとして意図のあるプレーかもしれません。期待しましょう。

また、ハイプレスやネガティブトランジションなど相手のプレッシャーが激しい局面では、中継役となる大山が四方八方に展開することで、プレス回避をしていました。DFラインから縦パスを受けた前線の選手が大山に落とし、展開するというパターンは多々見受けられましたので、今後もプレス回避の主な手段となるでしょう。なお、下図のシーンはこの試合の中でも最も上手く相手のプレスを躱した場面です。ポイントとしては石川が縦パスの受け手になっている点でしょう。これにより、ファンマ、大前の2枚を前線に残しつつ、相手の守備網の中に拠点が置けたのです。いいアイデアだと思いますので、続くと面白いですね。

2-2富山投入後のボール保持

琉球が4点目を決めた60分頃から試合終了まで大宮が押し込み続ける展開が続きました。その理由は、琉球のブロックラインが自陣深くまで下がったことにあります。詳しくは後述しますが、琉球は大宮のビルドアップ(DFやDHでのパス回しにより敵FWラインを超えること)の局面においてHV(3枚のCBのうち河面と山越のポジション(ドイツ語で HalbVerteidiger(ハルプフェアタイディガーと言う)))に対してSHが素早くアプローチをかけることで大宮のボール回しを妨害していました。琉球のブロックラインが下がれば自ずとHVとSHの距離が開くため、HVはフリーになりライン裏へのボール供給が自由できるようになります。このため大宮の前線によるライン裏への走り込みが頻発し、琉球のDFラインは押し下げられます。すると、琉球のライン間(DF-MFラインの間のスペース)が広がります。このスペースにおいて躍動したのが他でもない富山です。ただし、富山のライン間で受けるための、一度裏を狙うフリをしてからライン間に落ちる動きもキレがあり、効果的ではありましたが、ライン間が広くなったことが大きな要因であると考えます。箇条書きしてみると以下のようになります。富山には今後、ライン間にでも本籍を移してもらいましょう。
①琉球のブロックラインが自陣まで下がる
②HVがフリーになる
③前線の裏抜けの動きが活発になる
④DFラインが下がり、ライン間が広くなる
⑤富山がライン間で起点になる
なお、富山がライン間で起点になることで、ファンマや小島がクロス時にゴール前に侵入できることにもつながりました。3点目などはこの利点が顕著に表れたシーンでしょう。

2-3琉球のボール保持時

対する琉球のボール保持時の基本陣形はSBを高い位置に上げ、SHはハーフハーフスペース(フィールドを縦に5等分した中央および大外の間のレーン)に絞ります。ビルドアップ時の第一ターゲットはCFの鈴木で、ラインと駆け引きしつつ縦パスを受けます。

2-4ライン間を利用する琉球

さて、次に琉球のボール保持時の動きを詳しく見ていきましょう。この項が本記事の本丸です。
前述したように琉球のSHはハーフスペースに絞ることで、大宮ライン間には前線の4人が位置取りします。ここでCF、SHの1~2人がライン裏へ走り込み、DFラインを下げることでライン間を広げる一方、残りの一人や中川がボールを受けることでライン間に侵入します。

また、面白いのがライン間へ侵入してからのボール運びです。前半によく見られたのが縦パスをライン間に入れ、DHが寄せて空いたスペースを使い、再び縦に前進する形です。攻撃するレーンを変えることでより縦に速い攻撃ができていました。

上記のような攻撃パターンの理想形としては下図になるでしょう。大宮の守備ブロックである541は構造上、1トップの脇にスペースがありますのでここに上里がポジショニングし起点にします。フリーでボールを持つ上里に石川がプレッシャーをかけるためにライン間で田中がフリーになり、大山など周囲の選手が食いついたところでライン間での横パス、ライン裏に走りこむ選手にラストパスを送ります。
縦パスを受けた選手が前を向けることができればそのまま縦に攻め、横パスができれば素早く横パスを出し、強くプレッシャーを受ければ縦パスをリターンしDHを経由してレーンを変えます(下図でいえば上里→田中→上里→中川)。実に用意周到な攻撃です。

このような攻撃パターンを単純化すれば以下のようになります。
①縦パスをライン間に入れる
②相手を縦パスを受けた選手(エリア)に集める
③横に展開し攻撃するレーンを変える
④再び縦にアタックする
もっと単純化すれば「縦→横→縦」です。
ここで、失点した4シーンを見返してみるといずれのシーンもこの「縦→横→縦」の流れで失点していることが分かります(③がドリブルだったりしますが)。つまり、琉球の狙い通りの形で得点できたということです。

琉球の素晴らしい点はこの攻撃パターンを右からでも左からでも繰り出せることです。前半は右DHの上里を起点に攻め、後半は大宮が532にして中央を締めてきたため左サイドのライン際から攻めていました。相手の対応によって、攻め方を変えることができるのは恐らくJ3での戦いの中で身に付けたものでしょう。大宮サポーターにとって長らく虚言となっている「積み上げたもの」が琉球にはあった訳です。


3.ボール非保持

3-1大宮のボール非保持

さて、次に大宮のボール非保持時の動きです。基本的には前節と同様に523でのプレスはあまりなく、541でのブロックで守る時間が長かったです。
ブロックを敷いた守備では相変わらず大前が縦パスを制限するのかSBへのパスを制限するのかが曖昧。
プレスの局面では、大前が鋭いプレッシャーをCBやDHにかけていましたが、中村のアプローチが遅く、ボール奪取には至らないどころか、ピンチを招いていました。中村のアプローチの遅さは前節でも見られましたが、今節では失点にまで結びついています。早急に改善が必要だと思われます。ただ、今節に限っては縦パスが頻繁に入っていたため、DFラインに下がらざるを得ない部分もありますが。
なお、前述のようにプレスの局面では石川がファンマの横まで押し上がるものの、空けたスペースを利用され、起点にされてしまいました。この点が、後半の532へのシステム変更にもつながったのではないでしょうか。

3-2利用されたライン間への対応

大宮は後半から532に変更。3-1に書いたようにファンマの脇のスペースへ石川が引き出されたために2トップに、縦パスを効果的に入れさせないためにアンカーを置いた3センターにしました。このような相手の攻撃パターンに対する守備の修正は昨シーズンにほとんど見られなかった対応であったために感動すら覚えましたが、高木監督の試合後のコメントにもあるようにまさにその上を琉球にいかれました。

大宮の532による守備の狙い

大宮の532に対し、琉球は主に左サイドから縦パスを入れ、右に展開することでチャンスを作りました。これは532の構造上、スペースができてしまう3センターの脇を利用した形で、それが顕著に出たのが2失点目です。

3失点目も縦パスを奪ったものの、ボールを奪い返されて、3センター脇を使われた形での失点です。このシーンでは上里がボールを保持している瞬間に、河面がしきりに中村に西岡へのアプローチを促していますが対応が後手に回り、まんまとサイド裏へ侵入されています。

このふたつの失点に関してはいくつかの論点があるかと思われます。
①縦パスへの警戒による3センターのボールサイドへの寄せ
532へのシステム変更は間違いなく縦パスを警戒しての変更です。当然、3センターにも縦パスを通させるなという指示があったことでしょう。このため、ボールサイドに寄りつつ、緊密な距離を保つようにしていました。こうなれば、3センターの脇は空きがちになります。

②縦パスが奪いきれなかった
琉球にとって他のレーンにスペースを生み出すために縦パスが不可欠です。2失点目では縦パスを潰せず展開されており、3失点目では一度は縦パスを潰したものの、ボールを奪い返されています。もし、縦パスを奪いきれていれば、前線に残った2トップを起点にカウンターに転じることもできたでしょうから、いくら琉球が上手かったとはいえ、指摘しないではいられない点です。縦パスを警戒してシステムを変更までしたにも関わらず、縦パスを奪いきれなかったのは、監督の誤算でもあったのではないでしょうか。

③嶋田の守備とボールロスト
2失点目は嶋田が躱されたために大山、石川がボールサイドに寄せざるを得なくなり、3失点目では嶋田がボールロストしたために残りの2枚がボールホルダーに釘付けになっています。このために3センター脇が空いています。ただでさえ縦パスを警戒しており、横幅を狭くしている3センターですから1枚が機能しなくなれば更にボールサイドに寄らざるを得ません。

④琉球の狙いへの対策としての532は適切であったか
前述したように琉球の狙いは、「縦→横→縦」。縦パスを入れ、相手を食いつかせて、空いたエリアを起点に再び縦に攻める、というものでした。532はこのうち縦パスを奪うあるいは効果的な縦パスを防ぐ意図があったと思います。このタスクが完結しなかったために失点につながったものと思います。
しかし、空いたエリアへの展開を防ぐ手もあったのではないでしょうか。一度目の縦パスでは、ボールを奪いきれていなかったものの、そこから直接横パスや縦パスが入ることはありませんでした。後半は上里が空いたエリアへのボール供給をしていましたが、前線の2枚のうち1枚がプレスバックするなど対応のしようはあったはずです。この点に関しては、縦パスを奪い、カウンターに転じるために前線に2枚を残しておきたかったという思惑があったのだと思います。

3-3琉球のボール非保持

琉球のボール非保持は442です。特徴的なのはHVへのSHの素早いアプローチです。ビルドアップの起点となるHVへのプレッシャーは大宮のボール保持を難しいものにしていました。


4.トランジション

4-1大宮のトランジション

ここでは、失点の原因になったネガティブトランジションについて言及したいと思います。ここで紹介するのは1失点目と4失点目です。
まずは1点目ですが、右サイドで嶋田がボールロスト、上里から中川に縦パスが入り、菊地が躱され、河面に対して田中と中川で2対1を作りラストパス。田中がゴールを決めたシーンでした。

次に4失点目。河面がファンマにロングボールを入れるも、増谷が弾き返しライン間の中川へボールが渡り、山越に対して上門と2対1を作りラストパス。上門がゴール。

ふたつの場面に共通しているのは、ライン間にボールを入れられてしまっていること。中川のドリブルによりDFに数的不利を強いていることです。何故ライン間に入れられているのかと言えば、DFラインが押し上がっていないためです。が、いずれもボールロストしてからライン間の中川にボールが渡るまでの時間が極端に短かったために対応は難しかった部分もあると思います。ただ、4失点目でロングボールが入った瞬間にセカンドを拾うために大山がファンマに寄せるために前進をしています。このような瞬時の判断が大山だけでなく、DFラインの選手も持つことができていれば結果は変わったかもしれません。

4-2琉球のトランジション

4-1で紹介した2つの得点シーンでは見事なポジティブトランジション(守備から攻撃への切替)を見せました。特に、中川と上里のホットラインは他のチームにとって脅威以外の何物でもありません。また、縦パスが入った瞬間に前線に顔を出す両SHの切替も素晴らしく、ボール保持時を含め完成されたチームという印象を受けました。
ネガティブトランジションでも素早い切り替えで、ボールホルダーとその周辺の選手に対してアプローチをかけていました。ただ、縦への対応は良いものの、横への展開にはイマイチ弱い印象で、大山を中心とした大宮のポジティブトランジションには手を焼いていました。


5.総括

総括はごくごく簡単に。
・中川欲しい
・小島がエロかった
・富山はライン間に住んでほしい
・中村のアプローチが遅い
・大宮の明確な狙いを持ったシステム変更は良かった
・ただ、その修正を上回った琉球の攻撃とポジティブトランジションはもっと良かった
・内容は前節に比べ向上。次節に期待が持てる試合だった

最後にこの試合をレビューしている方たちのブログを紹介して終わりにしたいと思います。
Mexicoorangeさん

ちくき(茨城栗鼠)さん

ちなみにMexicoorangeさん、ちくきさんを始め大宮の戦術に興味のある方たちで大宮戦術談義会(仮称)なるものを結成しております。これから戦術ブログを始めたい!もっと戦術のことを話したい!という方がおられましたら、気軽にお声がけください。

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