小学生の頃、家の近所にモスバーガーがあって、この頃、母の仕事が忙しくて夕飯は弟も一緒に、祖母と外食が多く、偏食な弟でも食べれて、居酒屋とかと違って待ち時間も少ないモスバーガーに頻繁に通っていた。

私は決まっていつも、「モス野菜バーガー」を頼んでいた。

モスバーガーも、テリヤキバーガーも、フィッシュフライバーガーも一応試した上で決めた私の大定番。

特に、小学生の頃なんて周りはみーんなテリヤキしか頼まないし、弟も常にテリヤキだったため、「テリヤキこそが最高」と思えない私が悪いと思って、テリヤキより野菜バーガーが食べたかったが、そんなことよりテリヤキを全肯定する体になりたいと思い、野菜バーガーを我慢して、テリヤキは何度も食べた。
しかし、何度食べてもやっぱり野菜バーガーが一番だった。

モスバーガーも何度も食べた。だって、店名が入っているのだから。
これが結局最高なバーガーだとモスバーガー側もそう言いたいんだろ。と思って、何度も食べたが、結局、野菜バーガーがダントツ好きだった。

しかし、小学生で野菜バーガーばかり頼む人が周りに全然いなくて、むしろ大人でもこれを頼む人があまりいなかった。

そのため、モス野菜バーガーを選んでいる姿を周りの大人に見られると「野菜を食べて偉いね」といつも言われ、それがとてもとても嫌だった。

偉くないのだ。好きで選んでいるのに。

みんながテリヤキを好きで選んでいるのと同じような気持ちで選んでいるのに。

考えすぎかもしれないが、
健康のため、褒められたいため、野菜食べれるのをアピりたいため、ヘルシー思考で選んでいるのではと思われてそうなのが嫌だった。

友達とモスに行く時はモス野菜バーガーが好きなことはひた隠しにしていた。無難に一番安いハンバーガーか、チーズバーガーのワイワイセットを頼んでいた。
スタイルが良くて可愛い友達がテリヤキ選んでいるのに、私みたいなずんぐりむっくりが野菜バーガーを頼んでいたらそれは演芸でしかない。恥ずかしすぎる。

思えば、私の「サラダ好きを公言したい」幻想はここから始まったと思う。

野菜に対する世間のヘルシーや健康といったイメージ。
それと合わない私の外見。だから、野菜好きなことを言うのは恥ずかしい。

モス野菜バーガーが一番好きだったのは、私自身がそもそも野菜好きと言うことも大きいが、それ以上に、サウザンアイランドソースが最高すぎるのだ。千切りキャベツにフレッシュトマト。たっぷりのオーロラソース。これとパティとバンズを一気にかぶりつく。

小学生の口に対して、フレッシュな生野菜は大きいため頑張って大きな口を開けても、うまく食べられない。うまく食べられない分、頑張って手でバーガーを無意識に強く押してしまったり、口で圧迫したりして、トマトの果汁が溢れてしまう。ソースもこぼれ落ちる。そのたびに角に溜まる果汁とソースと、パティの肉汁にたまに落ちる生オニオンや千切りキャベツの中でも小さいやつら。
それらを最後の最後の一口にびしょびしょに染み込ませて、一気に汁ごと服にこぼさないように口に流し入れるのが最高に最高に幸せだった。たまに失敗して、顔中汁だらけになったり、服を汚したこともあったが、芸能人が自分の一芸を披露して競って争う番組「TEPPEN」のような緊張感を持って、深呼吸して最後の一口に全集中して、挑んでいたため、失敗は滅多になかった。連続でモスバーガーが続いた日こそ逆に失敗しやすかったりしたものだから、改めて、慣れからの怠けや気の緩みは恐ろしいものだ。と思った。

そう言うことで、私は最後包み紙にあらゆる素材の汁が溜まりまくる「モス野菜バーガー」が大好きだった。

中学生になり、祖母や家族とはモスバーガーに滅多にいかなくなり、友達とモスにたくさん通った。そのため、せっかくモスバーガーに行っても毎回、大好きな野菜バーガーは頼めずじまいだった。

メニューにあるモス野菜バーガーをなるべく見ないように、みんなが選ぶものをいつも選んでいた。

野菜食べたい欲が高まってしまうため、モスバーガーの入り口にある本日の生産者さんの黒板も見ないように頑張っていた。

そして、友達の前では一切「モス野菜バーガー好き」を頼むことも、公言することもなく、モスバーガーは私の街から撤退していった。中学生になると本当に家族とは一度も行けなかったため、私は野菜バーガーへの未練がたっぷり残っていた。

大人になると、モスバーガーって意外と贅沢だったんだな・・と気づき、モスバーガーがあっても金銭的に気軽にいけなくなってしまった。

結局、野菜バーガーとはかれこれもう10年もあってない。

そんなに好きなら頼めばいいじゃんと思うが、ここまで期間があいて、思いばかり強くなってしまうとなかなか最初の一歩が踏み出せない。

私がモスバーガーにもし就職したら、野菜バーガーのネーミングをまず変えたい。