ジョン・カサヴェテス「ハズバンズ」

冒頭のクレジットが粋である。
「HUDSBANDS」と赤く書かれた文字を中央にキャストとスタッフがクレジットされる。
続く映画の開始のショットは4人の男とその家族がプールで遊ぶ写真が続く。楽しそうな男たちが会話する声が聞こえる。
そして、映像が動き出すと、それは4人男のうちのスチュアートの葬式のシーンである。
何とも人を喰った展開である。
それ葬式の後、残りの3人は葬式の帰りの車の中、友人たちとのレストランでの集まり、そのレストランでのトイレ、地下鉄、バスケットコート、プールで話続け、バカ騒ぎをする。
中でもトイレで飲み過ぎでゲロを吐くピーター・フォーク、カサヴェテスがピーター・フォークの人生のanxietyについて話すシーンは一体何を見せられているのかさっぱり分からない。
にも関わらず、ベン・ギャザラが彼らにちょっかいを出す(彼が大の方のトイレの個室のドアを開けると、カサヴェテスの頭にぶつかるのが吹き出してしまった)ユニークさ、ゲロを吐きながら話し続けるピーター・フォークのコミカルさ、その後ろで頭を抱えるカサヴェテスの表情から目が離せない。
ベン・ギャザラが家に帰って彼に愛想を尽かす妻とのドタバタは義理の母親も巻き込んで収集がつかない。
その後、オフィスに行ったベン・ギャザラは何故か(商用で?)ロンドンに行くことになるのだが、何故かフォーク、カサヴェテスを誘って一緒に行くことになる。
ロンドンでのナンパと彼らがそれぞれ引っ掛けた女性とのやり取りがまた訳が分からない。
フォークとカサヴェテスだけがニューヨークに帰って来て、これまた何故かオモチャを三袋も買って、家の前で自分たちの買ったオモチャを確認し合うところも何故なのかさっぱり分からない。
そして映画はカサヴェテスが家に帰って来て、庭で二人の息子に出会い、年長の息子が母親(起こっているらしい。当たり前だろう)にパパが帰って来たことを告げ、カサヴェテスが息子の後から家の角を曲がって行ったところで映画は終わる。
一体何の映画なのか分からないまま、ディレクターカットである142分が終わる。
それゃあ、コロンビアから短くしろと言われるだろう(コロンビア版は130分)。しかし、目の離せない142分であった。

追記:
130分版でカットされたのは、友人たちとのレストランでの集まりでリオラという女性の歌を罵る部分らしい。多分今なら女性へのハラスメントと言われかねないシーンだ。
カサヴェテス作品には女性に酷くあたるシーンがいくつか出てくるが、それを見てカサヴェテスは女性差別をしているという意見が出るかもしれない。
それはもちろん違うと言うことも馬鹿げている。
カサヴェテスはそういうことが起こりえるということを描いているだけだ。そして、そのことに批判も賛同もしていない。ただ、起こることを撮る。それがカサヴェテスの映画だ。

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