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怪しい?秀逸?ユニセフの募金DMから心を動かす極意を学ぼう

やぁ、DMセンセーじゃ。
いきなりショッキングな画像で驚かせたかの?

今日は、ユニセフから来たこんなDMを解剖するぞ。

外封筒(宛名面)

怪しいDM?

このDM、しょっちゅう我が家に届くんじゃが、結構巷でも話題になっとるのぉ。「ユニセフに個人情報を渡した覚えはない」「どこで私の住所を手に入れたのか?」「本当にあのユニセフなのか?詐欺じゃないのか?」とな。

調べてみると、どうやら本当に「あのユニセフ」が実施しているキャンペーンのようじゃ。心配な方は、以下のリンクを見てくれ。納得がいかない場合は配信停止も依頼できるぞ。

ユニセフ公式サイトの「よくあるご質問

でも、過去になんらかの形でユニセフに個人情報を登録したことがないのに、どうして個人を特定してDMを送れるのか?

実は、ユニセフは、他の会社から個人情報リストを購入しとるんじゃ。具体的には、クレジットカード会社や個人情報のデータベースを保有している企業(例:アクトン・ウィンズ(株)など)からな。

勝手に人の情報売り買いしてイイのかよ!? と気になるのう。ユニセフが非合法なことをするとは思えんが、実は我々は結構いろんなところに個人情報を登録しておる。クレジットカードに入会したり、通販でものを購入したりする時にな。その時、キミはどのくらい「個人情報の取り扱い」に関する、あの細かい規約を読み込んでおるかな?大抵は、めんどくさいから全部読んだことにして「同意する」をクリックしとるじゃろ。

実はその規約の中には、登録した個人情報をなんらかの形で「横流し」する可能性があることも記載されているケースがある。もちろん、個人情報保護法で明確に取得・利用目的を明確に示さねば違法になるから、ある程度明瞭に記載しとるはず、なのじゃ。しかし、ほとんどの人がまともには読まんな。「ここ、ちゃんと確認してくださいね」と言わん企業側もどうかと思うがの。

ユニセフに問い詰めても、彼らはデータベース会社から「こういう人のリストください」と条件をつけて購入してるだけで、データベース会社がどのようにしてキミの個人情報を入手したかは把握しとらんのじゃ。

てなわけで、一応合法とは思われるものの、受け取った本人の自覚がないだけに、不審に思うケースが多発しておる。重ねて言うが、不愉快な方はユニセフに個人情報削除を依頼しなされ。

ただ、今回の主題はそこではない。。。。


計算され尽くした秀逸なクリエイティブ

このDM、クリエイティブがよ〜くできておるんじゃ。

募金のDMなんぞ滅多に作る機会はないじゃろが、物販など他のジャンルのDMに活用できる知恵がたくさん詰まっておる。なんたって、商品を売らずに受け取り手にお金を払わせるのが、このDMの仕事じゃからの。いわば、キミのうちまでやってきた「しゃべる募金箱」じゃ。

もう一度、封筒から見ていこう。

(1)外封筒

<宛名面>

①引き付ける写真とコピー
②差出人を示すでかいロゴ
③「低コストに見える」作り

①引き付ける写真とコピー
まず、真っ先に飛び込んでくるのが、この子の大きな目と細い腕、そして「年間227万人」の文字。これで一発で言いたことが伝わってくる。「こういうかわいそうな子がこんなにいるんです」と。「命を落とす子どもたち」という言葉も、強い。これをスルーすると冷酷非道の人でなしと言われるようで、良心が疼くはずじゃ。

この写真も、非常によく人間のサガをわかって選び抜かれている。あのな、人間ってのは、人の顔、それも眼に注目するように脳味噌ができておるんじゃよ。絶対に見てしまうんじゃ。極端にいうと、逆三角形の配置に並んだ3つの点「∵」とかコンセントを見るだけで、人の顔のように思えてしまう。

どうじゃ、顔に見えるじゃろ? 可愛いのう


この現象は”シュミラクラ現象”と呼ばれておる。天井のシミが人が泣いてる姿に見えるなど、心霊写真の多くもこの現象の仕業と言われておるぞ。

しかも、”3Bの法則”というのがある。
3Bとは、「Beauty(美人)」「Baby(赤ちゃん)」「Beast(動物)」のこと。これらがあると人間は思わず注目してしまうと言われている。だからTVCMでもよく見かけるじゃろ。ボケっと生きとったらあかんで、マーケターは。「計算」されとるんじゃ、コミュニケーションは。

②差出人を示すでかいロゴ
続いて、ゼロコンマ数秒で目に入るのが、unicefの大きなロゴじゃ。このデカさは計算されておる。もし、あるんだかないんだか分からないほど小さなサイズで印刷されていたらどう思うかのう?ただでさえ怪しいと思ってしまう人多数なのに、さらに怪しさ倍増の印象になるじゃろ。正しいことをしていると信じている人間は正々堂々と胸を張っているものじゃ。だから、このロゴはある程度デカくないといかんのよ。信頼してもらうためにね。「ほら、あのユニセフからですよ」とな。ちゃんと見たことはないけど、どっか馴染みのあるデザインでもあるってことも、信頼醸成の一助になっておる。

DMを作る時、「差出人」をしっかりと見せることは地味に大切じゃ。受け取った人は、「どっから来たの?」とまず差出人を確認して、「なんで来たんだろう」と心当たりを探りながら、中身を見るか見ないかの判断をするからな。

③「低コストに見える」作り
スゴいところはまだあるぞ。この封筒、質素だと思わんか?まず、2色刷りじゃ。おそらくunicefのブランドカラーであるブルーと、あとは黒(印刷用語ではスミという)。これだけ。そして、写真ではわかりにくいが、紙も薄くて少しざらっとしてる。とても高級な紙とは思えん。
それが狙いだ。
寄付をお願いする人が、ゴージャスな格好をしていたら、キミはどう思うかね。「人に頼む前に、あんたやれることあるよね?」と思っちゃうじゃろ。同情と協力したい気持ちを引き出すために、募金DMは質素じゃないといかんのじゃ。もちろん、同じ予算でできるだけたくさんの人にお願いできるように一通あたりのコストを抑えるという発想が先決であって欲しいがの。


続いて、この封筒をひっくり返してみるぞ。
ここにも抜かりなくクリエイティブの工夫が施されておる。

<裏面>

④こっちにも「訴えかける」写真とコピー
⑤開封を誘導するコピーと開けやすい工夫

④こっちにも「訴えかける」写真とコピー
封筒が来たら、普通は裏面もぺらっと見てから開けるかどうか判断する
じゃろ?だから、unicefは裏面にもしっかりメッセージを込めて来ている。ごちゃごちゃしたデザインはカッコよくないから、裏面は何も入れたくないと思っているデザイナーはおらんか?馬鹿者!それは責任放棄と同じことじゃ。

DMは、言わなきゃ何も伝わらんのだよ。受け取った人は忙しいし、できれば関わりあいたくないんじゃ。見るか見ないか迷うようなものは速攻捨てられるか、後回しにされる。だから、「今すぐ開けなきゃ!」という気持ちにさせるのが封筒の最大の仕事なんじゃ。

その点で、このDMには隙がない。表面では「命を落としている子どもたちが大勢いる」と言い、裏面では「だから栄養を届けたい!」と重ねて強烈に訴えかけている。封筒だけで完璧に「開けないと人でなしな気がする」という気分にさせているのじゃ。実に巧みと言うほかない。

⑤開封を誘導するコピーと開けやすい工夫
開けて欲しけりゃ「開けてください」と言わなきゃ。
黙ってても開封してくれるだろう、なんて生温いこと考えてたら捨てられるぞ。

このDMは、開けてというだけじゃない。ちゃんと上部がピリピリって切り取りやすくなっておる(写真は切り取った跡じゃがの)。印刷用語では「ミシンが入っている」という。こうした、物理的な仕掛けが施せる(施さなきゃならない)のは、メールなどのデジタルチャネルにはない、紙DMならではの特徴だ。


さて、外封筒だけでもかなり見応えのあるクリエイティブじゃったな。

マーケターはな、こういうものに対して目を皿にしておくものじゃ。なんか気になる、ではシロウト。どうして気になるんだろう?作り手はどんなことを考えたんだろう?と想像することで、思考回路を鍛え、人の心を動かす引き出しを増やさねばならん。


さあ、それでは人でなしと言われないよう、開封して中身をチェックしていこう。

こちらが封入物一式だ。4つのツールが入っている

封入物一式

ひとつずつ、じっくり見ていくぞ。

(2)レター

レター1(表)
レター1(裏)

いわゆる挨拶状じゃな。DMの世界ではカバーレターとか、単にレターと呼ばれる。他の封入物の一番上にあって、最初に読んでもらうことで、このDMで知ってもらいたいこと、アクションしてもらいたいことをエモーショナルに訴えかける役割を持つ

よく、売り上げに直結しないこんな挨拶状、必要ですかね?と問うてくる輩がおる。分からなくもないが、そういう奴は「手紙」ってもんをわかっとらん。「営業」ってもんをわかっとらん。人様のうちにいきなり土足で乗り込んで、商品と値段だけ伝えて買ってくれると本気で思っとるんか?自分ならどう思う?

DMってのはな、優秀なセールスパーソンであり、店舗なんじゃ。「接客」する姿勢を持たねば相手の心は動かせんぞ。なぜ、あなたにこの知らせをお届けしたのか?どう動いて欲しいのか?は言葉にせねば伝わらない。丁寧に、誠実に書かれたレターを入れると入れないでは、レスポンスが異なるし、何よりキミの商品や会社に対するイメージが断然異なってくる。

そういう意味で、このDMのレターはほぼ満点じゃ。細かくポイントを解説していこう。

⑥手書き(風)の付箋が貼り付けられている
⑦相手(受け取り手)に呼びかけている & 差出人の顔写真とサインがある
⑧読みやすい工夫がなされている
⑨差出人の顔写真とサインがある

⑥手書き(風)の付箋が貼り付けられている

付箋

ここまでやるか!と唸らせる仕掛けじゃ。レターでは、子どもたちの窮状を伝え、unicefの支援活動に理解・共感して募金をして欲しいというメッセージがしたためられておる。それをスルーせずに絶対読んでもらいたい!という強い意志を感じさせる。この付箋は、レターを読ませるアテンションとして強力に機能しておる
大量に発送しているだろうから、まさか1枚ずつ手書きではあるまい。が、本当に手書きでメモして貼り付けたようなリアリティが、この付箋にはある。印刷物と手書きの対比がポイントじゃ。印刷物は大勢に同じメッセージを発信するものじゃが、そこに「私からの一言」が添えられることで、一気に「あなた向けの」「見ておくべきもの」に早変わりするんじゃからの。
どうか、どうかメッセージを受け取ってください!という懇願が聞こえてくるではないか。

⑦相手(受け取り手)に呼びかけている & 差出人の顔写真とサインがある
さあ、付箋に導かれ、本文に目を移そう。と、さっそく冒頭からまた気が利いておる。「〜〜(ワシのフルネーム)様」で始まっておるんじゃ。パーソナライズ印字じゃな。これを気持ち悪いと思う人もいるかもしれん。でも、手紙というのは本来、送り手から受け手へ向けた1:1の対話じゃ。だから、例え企業や団体から送るものであってもな、個人を感じさせることはとても有効なんじゃよ。

そして、文末じゃ。このメッセージを書いたunicefの偉い人の顔写真と直筆サインがあるのう。手紙として完璧じゃ。企業や団体名、組織名で終わらせないところがポイント。あくまで個人からの「私信」であることが手紙の基本であり、広く受け入れられている誠実なスタイル(書式)じゃからな。サインはできるだけ直筆をスキャンすることじゃ。
特に、年配者に宛てたDMなら、手紙としての体裁には誠実に気を配ったほうが良いぞ。「拝啓」「敬具」の書式を使うこともある。

⑧読みやすい工夫がなされている
このレターのメッセージ、そこそこ長い。にも関わらず、スイスイと難なく読めそうな感じがするじゃろ。もし、このボリュームで、ダラダラと文字だけが羅列されていたらどうかの?懇願されているとはいえ、なんかめんどくさそうで読もうという気持ちが削がれるじゃろ。

そこをうまくデザインでケアしておる。コツは、パラグラフ、小見出し、写真の配置じゃ。パラグラフというのは段落のことで、意味の塊ごとにまとまりがあるように見える効果がある。そして、かくパラグラフにはその内容を端的に表す小見出しが付けられている。さらに、絶妙な位置にレイアウトされた写真が視線を誘導しておる。しかも、写真にはキャプション(短い解説文)が添えられている。これらの工夫の総力により、文章を細かく読まなくても要点がパッパッパッと伝わるように仕上げておるのじゃ。ブラボー!


ちなみに、このDMにはレターが2枚入っておった。先ほど紹介したのはユニセフ本社?の偉い人からのものじゃが、もう1枚(下の写真)は、日本ユニセフ協会の代表者からじゃ。2人から挨拶するなんて非常に手厚いな、という印象じゃ。まぁ、慈善団体だからという特殊性はあるかも知れんが。

レター2

(3)ブローシャー

ブローシャー(表紙)
ブローシャー(中面)

「ブローシャー(brochure)」という言葉を聞いたことはあるかの?平たく言えばパンフレットのことじゃ。DMの世界ではブローシャーといったほうがプロっぽい笑 物販だと商品案内のパンフレットとかカタログがこれに当たる。送り手が一番見てもらいたいツールじゃな。今回のDMでは、改めて、子どもたちの窮状とユニセフの支援活動の詳細が記されておる。ここでのポイントが一つある。

⑩視線の動きを意識したレイアウト

⑩視線の動きを意識したレイアウト
表紙は、外封筒のクリエイティブと一緒じゃ。ただし、こちらはフルカラーでさらにインパクトがある。中を開くと、見開きのど真ん中に表紙の男の子の大きな別カットが配置されており目を引くのう。

その上で、ページの左上から右下へと、大きなメッセージの流れができていることがわかるじゃろ?
「年間227万人の命が奪われている」→その実態の詳細→ユニセフの支援活動の紹介→ご協力ください という流れじゃ。すでに挨拶状において文章を中心にこの話がなされていたが、ここではさらにインパクトのあるビジュアルも駆使してより熱量高くメッセージを伝えておるわけじゃ。

セオリーとして、横書きの紙面は「Z型」に視線が動くように設計されていると読みやすいとされておる。左から右、上から下のベクトルじゃな。この紙面は「あえて」ど真ん中に一番強烈な要素が配置されておるが、この中面全体への注目度を高め、詳細なメッセージを読み込む気持ちを起こさせる工夫と言えるじゃろう。

(4)振込用紙

11) 募金額の目安がわかりやすい

11)募金額の目安がわかりやすい
本当に、細部まで行き届いた隙のないDMじゃ。ぽ〜んと振込用紙を封入するのではなく、ここでもまだメッセージが書かれておる。これまでのツールを見て寄付しよう!という気持ちになったとしよう。しかし、いくら寄付するのが「適切」なのか?相場はどのくらいなのか?寄付金額は任意なのだが、目安が欲しい。いざやろうとしたら、こういうことが気になるじゃろ。そんな心理を先読みして、いくら寄付するとどんな貢献ができるのかが超具体的に、数値でわかりやすく例示されておる。3,000円以上がありがたいなという意思も透けて見える。数万円寄付する人もいそうだなという感じも伝わる。この事務的な振込用紙に、この例を書こうと考えた人は天才じゃな。

(5)ノベルティ

ノベルティ

なかなか微妙ではある。。このノベルティ(オマケのプレゼントのこと)は、「差出人シール」なんじゃ。個人情報だから隠しておるが、ワシの住所・名前が印字されたシールが14枚。ワシが手紙を出す際にこのシールを貼ってねという趣旨じゃな。じゃがな、ワシは絶対使わんと思う。。このケースに関しては。さすがに気持ち悪いし、年賀状以外で手紙は書かんからのう。

ただ、似たようなノベルティで「これは良い」と思ったのは、ベネッセの子供の名前シールじゃ。小学校に上がる子供がいると、ありとあらゆる持ち物に名前を書くのが結構親泣かせじゃから助かる。まぁ、それでも最近は「個人情報だから」と名前を書くのには消極的な空気もあると思うがの。

ベネッセやイオンではこういうプレゼントをしておる

unicefの名前シールについて一つ評価できる点としては、「活動の輪を広げてもらう」という発想でノベルティを考えていることじゃな。そして、人は何かをもらうと、多少なりともお返しに何かしなきゃと思うものじゃ。特に「無料」で何かをもらった場合はな。これを”返報性の原理”というんじゃ。先に無料でシールをプレゼントしておいて、お返しに寄付しようという気持ちを起こそうという作戦じゃな。ブツが微妙なのを差し引けば、こうした心理テクニックは、マーケターとしては抑えておきたいものじゃ。


まとめ

いかがだったかのう? 1つのDMの中にはいろ〜んなエッセンスが隠されておる、ということがわかってもらえたじゃろう。

全体として、このDMは、ツールの構成やクリエイティブ、メッセージのエモーショナルな感じを含め、寄付したい気持ちを起こさせるための細やかな仕掛けが実に行き届いておった。今回解説した11のポイントをまとめて書いておくぞ。

<外封筒>
①引き付ける写真とコピー
②差出人を示すでかいロゴ
③「低コストに見える」作り
④裏面にも「訴えかける」写真とコピー
⑤開封を誘導するコピーと開けやすい工夫

<レター>
⑥手書き(風)の付箋が貼り付けられている
⑦相手(受け取り手)に呼びかけている & 差出人の顔写真とサインがある
⑧読みやすい工夫がなされている
⑨差出人の顔写真とサインがある

<ブローシャー>
⑩視線の動きを意識したレイアウト

<振り込み用紙>
11)募金額の目安がわかりやすい

改善点としては、やはり「怪しさ」の払拭じゃろうな。どのようにしてワシの情報を入手したのか、正真正銘本物のユニセフの活動なのだという信頼性を担保する情報(問い合わせの連絡先など)をしっかり目に止まるように記載した方が良いじゃろう。

こういう見方でDMを解剖していくと、マーケターとして、実に楽しく役に立つ発見があるものなんじゃ。

また、次回もこってりと解剖していくから、見逃さないようにフォローしておいてくれたまえ。励みになるので、スキもよろしくな。

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